10、鳥籠の少女は縛られる

私は気分が高揚していた。

友達に囲まれて遊びに行く。

そんな当たり前にワクワクが止まらない。


前の学校ではみんな私を優等生で、勉強しかしない子と思われていた。

しかし、優等生というフィルターの剥がれた今、私はたくさんの友達を得た。


水着購入しに行くのも楽しみだし、プールも楽しみ。

私は眠るのが惜しいくらい、今の生活に満足していた。


みんなと知り合っていつの間にか1ヶ月が経過。

楽しいと時間の流れが早い。


「水着を買うと聞いて」

「右に同じく」

「帰れ!かえれーっ!」


十文字さん、明智さん、円3人がデパートで争いを起こしていた。

とは言っても喧嘩ではなく、じゃれあいやお約束に近い。


「でも理沙のことは俺が1番わかってる。理沙の水着選びといったら俺だっ!」

「恥ずかしいからやめて兄さんっ!」


シスコンに恥ずかしがり「やめて、やめて」と理沙は兄に訴えている。


「ちょっとうるせー連中だけど慣れた?」

「は、はいっ!大丈夫です」


明智さんが、私に気を遣って話かけてくれた。

その優しさに、この人良いなぁって興味を持つ。


「その……、明智さんって絵美と付き合ってるんですか?」

「え……?」


デパートの天井に視線を送り考える明智さん。

すぐに答えないということは、付き合ってないのかな?


「付き合ってる風に周りから見えてるけど、俺はただの幼馴染だと思ってるよ」

「幼馴染なんですね」

「家が隣でなぁ、まぁそんなわけで別に付き合っている相手はいないよ。逆に俺は十文字兄妹が怪しいと思う」

「え?でも、兄妹ですよね?」

「理沙ちゃん、隠れブラコンだから。タケルのこと付き合いたいくらい大好きなんだよ」

「えーっ!?」


あんなに、鬱陶しい感じに振る舞っておいてシスコンとブラコン兄妹!?

何それ、面白い!

付き合いたいくらい大好きって、理沙凄すぎっ!?


「おい、コラチンピラ!私の永遠を独占するなぁー!」

「うっせぇぞレズ!そこに2人いるんだから譲れやっ!」

「ふふふっ」


みんなバラバラで統一感のないグループ。

それなのにみんな仲良くて家に帰りたくないくらい楽しい。


もっと早く、明智さんや絵美と出会いたかったなって思えた。



ーーーーー



「水着代……」

「いいの、いいの!気にしない気にしない」

「でも……」


本気で円が女子の水着代全額支払ってしまい、申し訳なくなった。

それで申し訳なくて水着代出す、半額出す、1000円出すといっても聞き分けがなかった。


「じゃあそこまで言うならプールの日に奢ってもらおうかな。プール代とかお昼代、ロッカー代とか」

「わかりました!ありがとうございます!」

「ぅぅぅ……、お金を支払うことになったのにお礼とか天使かな……」

「拝まないでください……」


なぜか円が遠慮する事態になる。

そのやり取りを円ハーレムのみんなは全員で笑っていた。


プールの日が楽しみで仕方ない。



















パシッーー。


頬を叩かれた。


「永遠、最近お前浮かれてるみたいだな」

「……」


父さんは、今日私が友達と水着を買いに行ったことを知り激怒していた。


「なんのために引っ越しをしたと思う?友達をお前から突き放すためだと言わなかったか?」

「……言いました」

「友達なんてどうでも良い、勉強をしなさい」

「してます、勉強してます!」


そう言うと、また頬をパシッと叩かれる。


「母さんから聞いたぞ。部活もしてないのに、帰宅するのが遅いみたいじゃないか?」

「そ、それは学校で勉強を……」

「お前のノートから勉強をしている兆しが全く見られないが……?」

「あ……」


私のカバンに入っていたノートがお父さんの手から零れた。

お母さんは、私の事情を汲み取り味方をしてくれていた。

しかし、それがバレて母さんも私と同じく頬を叩かれている。


「友達とやらに現を抜かす必要などない。そんなもの後からいつでも手に入る」

「嫌だ、そんなのっ!私は、今の友達が大好きなのっ!!」

「俺は、永遠を父さんみたいに受験で失敗して落ちぶれていく経験して欲しくないんだ!わかるだろ、永遠?」

「……わからないよ!自分が受験に落ちたのは単に頭が悪かっただけでしょ!私はもう十分頭良いもんっ!」

「お前っ!」


何回も、何回も叩かれた。

呆然としていた母さんが止めに入るくらい、父さんは私の頬を何度も叩いた。


「ぅ……、ぅぅぅ…………」

「全く何が友達だ!水着なんかに金を使いやがって!プールも禁止だっ!」


円からもらった水着の紙袋を持ち上げる父さんに頭が真っ白になる。

でも、それでも叫ぶ。


「やめて、触らないでっ!」

「こんなものっ!」

「あっ……」


引っ張って水着が千切れた。

紙袋も念入りに破られた……。

楽しかった今日の出来事が、ただのゴミにされた……。


「これからは門限を決める。平日も17時以内に帰らないと今後一切お前には飯も風呂も部屋も抜きだ。家にも入れてやらん!お前の持っている部屋の鍵もさっき没収した。全部母さんに監視してもらうからな!」

「…………」


それだけ言い残して、父は自室へと去っていく。

父がいなくなったあとに、母が「ごめんなさい」と謝ってくる。


小学校の友達とも別れさせられ、今の友達との交友関係も認められない……。

私の人生ってなんなの?

私の人生って父さんのものなの……?




助けて……。

誰か……、この鳥籠を壊して……!




泣いている時、脳内に友達の言葉が過る。


『はい、永遠!よろしくお願いいたします!困ったことがあったらなんでも相談してくださいっ!』


私に友達が増えたきっかけをくれた少女の言葉だった。


私、今困ってる。

絵美に相談すれば何か変われるかな……。


所詮第3者。

しかし、相談すれば明智さんや十文字君らの協力も得られて解決策を見つけ出してくれるかもしれない。


私は、彼女に現状を伝えることを決心した。

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