11、鳥籠の少女への忠告

次の登校日、まず私は絵美に謝罪をしに行った。

水着を父に棄てられたこと。

プールにも行けなくなったこと。

放課後も残って雑談もできなくなったこと。


そして、ーー助けて欲しいこと。


「…………そっか!じゃあ、頑張ろうよ!」

「……え?」


絵美が手を握って微笑んでくれる。

私がはじめて絵美と出会った時と同じ行動であった。


「プールのお断りの件は保留にしましょう。大丈夫です、少数精鋭で間に合わせます」

「間に合うのか……?」

「まだ1ヶ月近くあります。大丈夫です、私と秀頼君がなんとかしますから!」

「ほ、本当に……?なんとかなる……?」

「永遠、私、秀頼君、3人の力を持ち寄って解決させますよ」


力強い意思で絵美は断言した。

こんな小さい身体でも、私よりしっかりした強い子がそこに立っていた。


「水着の件は私が同じの買って円ちゃんを誤魔化しましょう」

「いえ、それくらいは自分が……」

「そうですか?」


本当買ってもらうのは、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。


「その代わり、永遠。これは私達だけの秘密ですよ。十文字君や理沙ちゃんら、全員に秘密です」

「うんっ!わかった!絵美がそう言うなら、絵美と明智さんだけの秘密にします」

「はい!そうしましょう!」


にぱっと明るく笑う絵美。

こんなに絵美が頼もしくなるとは本当に思っていなかった。


「約束破ったら、




ーーーーー



「絵美から話は聞いた。今日からは俺と絵美の2人が宮村さんを助けるよ」

「明智さん……」


昼休み、今後は3人で図書室を利用して作戦会議をすることになる。

十文字さんや理沙らは巻き込まないで、全員でハッピーエンドを向かうことを明智さんは語っている。


「とりあえず、君のお父さんの事情を聞かせて欲しい」

「わかりました……」


中学生に入り、引っ越したこと。

父の勉強に対する熱意。

友達を不要と切り捨てる悪癖。

暴力を繰り出す手段。

母は父に逆らわないこと。


そう言ったことを話す。


「許せねぇ……!」

「明智さん……?」

「そんなの酷すぎる!」


明智さんは、私の父に怒りを燃やした。

絵美が、明智さんに駆け寄り「大丈夫」と声を掛けている。

その異常な様子について聞くと、絵美がアイコンタクトで明智さんを見て語りだした。


「秀頼君も、引き取られた叔父さんに暴力を振るわれていたの。だから秀頼君は永遠のお父さんに叔父を重ねているの」

「成功させよう!永遠の家庭の鳥籠を壊して、自分の進みたい未来に向かっていこうぜっ!」


同じ環境だったんだ……。

そっか……。

明智さんも同じ苦しみを味わったんだ。


この人なら私をわかってくれる。

この人なら信用できる。

この人ならこの問題を解決できる。

















ーー私は、父の呪縛から解放されるんだ。























「き、気を付けてください……」

「え?」


私が学校帰り、校門で待ち伏せされていた。

しかし、その相手はとても意外な人物であった。


いつかに見た、髪にコーヒーカップのヘアゴムを付けた少女であった。

谷川咲夜さん……だったかな?


「と、……図書室で……。会話を聞いちゃって……。すいません……」

「あ、あぁ……、聞かれてたか!ごめんね、変な家庭事情のこと聞かせちゃって……」


少女はおどおどとしている。

人と話すのが苦手そうなのが共感する。


……人と話すのが苦手そうなのにどうして私なんかに口を聞いたんだろう?


「そ、その……気を付けてください……。お父さん……」

「あぁ、うん!大丈夫!必ずお父さんの問題を解決させるからっ!」

「……お父さん、大事にしてあげてください」

「うんっ!確かに口うるさいとこあるけど、私もお父さん大事にしてるよ!じゃあね!そろそろ帰らなくちゃ」


喋るのが苦手そうだけど、多分あの子も良い人だ。

この学校は良い子ばっかりで本当に住みやすい。


多分、谷川さんとも仲良くなれる気がする。

私は急いで家へ17時までに帰ることにした。

























「気を付けてください……、あの2人は悪魔です……。友達面をしたクズゲス共より……お父さんの方を大事にしてください……。…………どうか、血が降らないことを祈ります…………」


少女は傷だらけにされた身体で、よくも知らない他人の無事を祈る。

自分の父や自分のような被害者になってしまわないように……。


あの出来事以降、少女は自分の父をマスターとは呼べなくなっていた。

自分の父親がマスターだったのが誇らしくて大好きでお気に入りの呼び方であったのに。

マスターと呼ぶとあの悪魔共を思い出すのが、怖くて怖くて仕方なかった。


中学登校初日、栗色のツインテール女を見掛けた時は、口から胃のものをすべて吐き出しそうになるくらいに彼女の心をズタズタにしていた。


図書室での会話は、その恐怖を圧し殺してでも叫んでしまいたくなるほどに、同じ被害者を出したくなくて食い止めたくて仕方なかった。

でも、それは大好きな父親を失う誓約により禁止されている行為。


「……ギフトなんて無くなれば良いのに」


痛々しい声は風となって、消えていた……。

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