9、鳥籠の少女の歪な友人関係

数日間、どうやって佐々木さんに話掛けようか迷った。

それとなく、教室に居る彼らを追うと、明智さんと佐々木さんの距離が近く見える。

付き合っているのかな……?


いや、別に私の目的は明智さんと付き合うことではなく、この教室の明智さんらの輪に入りたいのが目的だ。


まずは、佐々木さんから認知されるのが大事だ。


「佐々木さん!」

「えっ!?は、はい!?」


勇気を出して、横にいた彼女へと話しかけると、急に驚かせたのか、声が上ずっていた。


「み、宮村さん……?」

「あっ、私のこと知っていたんですね!嬉しいですっ!」


佐々木さんの手を握る。

小さくて可愛い手だ。

明智さん関係なく、佐々木さんとも仲良くなりたいと思った。


「あ、……あのっ!?友達になってくださいっ!」

「え……?」

「佐々木さん、めっちゃ可愛いですっ!」


私の気持ちを伝えた。

この学校で1番最初の友達になって欲しい、そんな願いを込めて佐々木に伝えた。


「うわぁ、嬉しいなぁ!佐々木さんなんて呼ばず名前で呼んでください!」

「そ、そうですか……?じゃ、じゃあ絵美、私も永遠って呼んでください」

「はい、永遠!よろしくお願いいたします!困ったことがあったらなんでも相談してくださいっ!」


距離感の詰め方が異次元の速さだった。

流石、男女混合グループに所属をしているとこれくらいが当然なのかもしれない。


「秀頼くーん、わたし永遠と仲良くなりました!」

「おー、あっそ」

「もう!秀頼君、興味無さすぎじゃない!?」


クラスメートの十文字さんと談笑していたのを邪魔されたからか、明智さんは絵美に塩対応をしていた。

でも、その対応が距離感の近さを感じる。


「ちょっと絵美は騒がしい奴だけど、宮村さんよろしくね!」

「は、はいっ!」


ニコッと笑い明智さんは私に笑いかける。


「ぶーっ。秀頼君、永遠に気がある」

「なんだ?嫉妬かお前?可愛いなぁ」

「エヘヘー」


明智さんが絵美の頭を撫でる。

それを感じる絵美が幸せそうに顔を赤くする。

どんな気持ちなのかな?

私も明智さんに頭を撫でて欲しいなと、ちょっと絵美に嫉妬した。


「コイツら良い奴だからな、宮村もすぐ仲良くなれるぞ」

「じゅ、十文字さんもよろしくお願いいたします!」

「OK!よろしくなー」


勇気を出して絵美に話しかけたら、一気に私の友達が増えたみたいで学校生活が楽しくなってきた。

ようやく、つまらなかった学校生活にも色が出てきた。


「よーし、永遠!今日は、違うクラスの子も紹介するよ!」

「え?き、緊張するな……」

「大丈夫、大丈夫!全員女の子同士だから!」


そして絵美に連れられて違うクラスの教室にお邪魔させてもらった。

軽く説明を受けると、十文字さんの妹さんと女の子全員大好きな女の子という説明を受ける。


「理沙ちゃーん、円ちゃーん、来たよー」

「絵美さん、待ってました」

「おっ!?こっちの子が永遠ちゃんか!良い胸してますな!ゴチになります」

「こらこら」


緑髪の女の子を黒髪の女の子が制止する。

黒髪の女の子は確かに雰囲気とか顔付きが十文字さんに似ていた。

中性的な顔をしているので似ている兄妹だと思った。


「私が十文字理沙です。兄さんから話は聞いてますよ。理沙って呼んでください」

「そんで、理沙と絵美の姉の津軽円です。気軽にお姉ちゃんって呼んでください」

「はいっ!私は、宮村永遠です!呼び捨てで呼んでもらってかまわないです!理沙と円ですね、よろしくお願いいたします!」

「お姉ちゃんって呼んで!」

「この人は無視で大丈夫です」


理沙のフォローにあははと笑う。

学校に馴染めなかった私が、ちょっと勇気を振り絞ったらこんなに友達が増えて楽しくなってきた。


「…………」


その近くを1人の女の子が無言で歩いていた。

ボッチで歩く彼女と自分を重ねてしまう。

可哀想だし、ちょっと声を掛けてみようかな。


「ねぇ、ちょっと良いかしら?」

「は、は、……はいっ!?」


目が一瞬合ったので、その隙に軽く声を掛けると彼女はこちらに顔を向ける。

髪にコーヒーカップの付いた特徴的なヘアゴムが目に付いた。

とても慌てだす彼女に親近感が沸く。

ボッチ仲間も作れそう。


「こんにちは」

「……こんにちは」

「あなたは……」


何か声を掛けようとした時、彼女は大きく目を見開きすぐに顔を反らした。


「すみません、失礼します」


明らかな拒絶の言葉だった。

何に対してそこまで怯えているのか全然わからなかった。


「…………」

「絵美?」


絵美がちょっと黙ってその女の子が去るのを見届けている。

少し雰囲気がいつもと違う気がするけど、知り合いなのかな?


「あの子は一体?」


そう思っていたけど、絵美は去っていく彼女の名前を尋ねた。

なんだ知らない人か。

私と同じでただ驚いて固まっただけかもしれない。


「あぁ、彼女は谷川咲夜さんですね」

「可愛いんだけど、ちょっと近寄りがたくてね。自ら臨んでボッチしてるみたいだからさ」

「遠慮しちゃいますよね……。あんなに拒絶されたら次誘うのも躊躇しちゃいます」


理沙と円がその谷川さんについて説明をする。


「ふーん……」


なんとなく、絵美の口からは興味の無さそうなトゲのある言い方が気になった。

しかし、すぐに明るく微笑んだ。


「せっかく永遠も仲間に増えたことですし、プールですよ!プール!水着を買いに行きましょう!」

「み、水着!?買おう、お姉さんが全員ぶん水着買ってあげる!」

「兄さんと明智君のぶんも買うんですか?」

「買うわけねーだろ」


絵美の提案に、円と理沙も乗り気だった。

しかも、明智さんと十文字さんの参加も勝手に決められているみたいだった。


「じゃあじゃあ、プール行くのが7月のどっかと仮定して。来月のどっかくらいに水着新調だーっ!」


リア充グループの会議は一瞬だった。

私も混ざって良いのか考えていると「当然、永遠も強制参加です!」と絵美から笑顔で言い切られた。


「よっしゃ、円ハーレム出動するっ!」

「しないしない」


絵美の突っ込みに理沙がクスクス笑い、私も一緒に釣られて笑う。

まだこの中学校に入学して数ヶ月なのに、もう前の学校より今の環境の方が大好きになっていた。

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