文化祭①前日
期末テストが終わり、総合順位が発表された。
「……しゃっ! 108位!」
なーな先生から渡された紙を見て思わずガッツポーズした。
必死に勉強したかいあって前回よりも順位がアップした。40番も!
「涼ちゃん、どうだったの?」
ニヤニヤしていると隣からなぎさが囁きかけてきた。
笑顔で親指を立てると、なぎさは小さく手を叩いて祝福してくれる。
「良かったんだね、おめでとう」
「さんきゅ。そっちは?」
「ぶい♪」
満面のピースサイン。どうやらかなり良かったみたいだ。
それもこれも勉強会のお陰。
おれたちはほぼ同時に佳乃の方に視線を向けた。
佳乃もおれたちの様子を窺っていたらしく、パッと目が合った瞬間にそらされた。
「ふふ、照れてるみたいだね」
「だな」
小さな背中に向けて手を合わせた。
神様仏様佳乃様ってな。
※
――さて、季節は七月上旬。
期末テストを無事乗り越えたおれたちは夏休み前のビッグイベント・文化祭を明日に控えて浮足立っていた。いつもと違う学校ってなんかワクワクするよな。
「はーい、ではこれから重要なものを配ります。箱の中に手を入れて一つだけ掴んでくださいねー」
放課後のホームルームが始まるなり、なーな先生は30センチ四方の段ボールを手に教室内を一巡した。
「なんだこれ」
おれが掴んだのはバッヂだった。デフォルメされたサクランボのイラストが描かれており、裏側にはセロハンテープでダブルクリップが留めてある。
「あっ、かわいい」
なぎさの弾んだ声が聞こえてきた。
視線を向けると「じゃじゃんっ」とサクラの花びらを象ったバッヂを嬉しそうに見せてくれた。同じくクリップがついている。
「なんすかこれ」
「カワイイれしゅ」
矢島はエンピツ、ポプラはウサギのイラストだ。
どうやら何種類かあるらしい。
「涼太くんはなんだったの?」
前の席の月乃に聞かれてサクランボのバッヂを見せると「似合う~」と笑われた。失礼なやつだな。
「ごめんごめん、怒らないで」
月乃はすでに制服の胸ポケットに音符のバッヂを付けている。なるほどダブルクリップはそのためか。
おれも月乃に習ってバッヂを付けてみたが、なんだか妙に恥ずかしい。
一体これはなんなんだ。
「はーい、皆さん一つずつ取りましたか~? もらい忘れている子はいませんか~?」
教壇に戻ったなーな先生はにこにこしながらB組の生徒たちを見回す。
誰も声を上げないことを確認すると「では説明しますね」とバッヂについて話し始めた。
「皆さんに一つずつ取っていただいたバッヂは明日の文化祭で使用するものです。詳細は明朝発表しますが、とても楽しいイベントとだけお伝えしておきます。当日の朝はバタバタしていて忘れるかもしれないのでいま配りましたが、絶っ対に無くさないようにしてくださいね。絶対ですよ!」
いつになく怖い顔で重々念押ししてくる。
よっぽど大事な「何か」らしい。
「ではバッヂの話はここまでにして――。明日は待ちに待った文化祭です。期末テスト以降皆さんが一生懸命準備してきたことは私がよぉく知っています。ご存じのとおりこのB組は夏休みまでの仮クラスですので、二学期からは元のクラス編成に戻ってしまいます。気になってたあの子や気にもしていなかったあの子と仲良くなるのに文化祭は最後のチャンスです。後悔のないよう、そしてケガや事故のないよう、めいっぱい楽しんでくださいね!――ふぅ、言えたぁ」
ほっと胸を撫でおろしているなーな先生にB組の生徒たちから惜しみない拍手が贈られた。
そう、文化祭が終わったらすぐ夏休みに入ってしまう。
B組は解散、なぎさともお別れだ。
佳乃と月乃との関係が良好(?)になってもクラスが違うっていう壁はやっぱり大きい。
さみしい。
「……あら、ひとつ残ってる。余分にもらってきちゃったかな?」
なーな先生が箱から取り出したのはおれと同じサクランボのバッヂだ。
「ま、いっか。わたしも付けちゃおう~」
ニコニコしながらスーツの胸元にバッヂをつける。
――この時はまだあんな騒ぎに巻き込まれるとは夢にも思わなかった。
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