【和室に戻って勉強するルート】

 せっかく厚意で泊めてもらったんだからもう少し勉強するか。

 そう思って和室に戻ると中から楽しげな声が聞こえてきた。


「あ、涼太しゃま」

「うす」


 すでに布団が敷かれており、奥に寄せたテーブルの上でポプラと矢島が話している。それぞれに金魚とあじさいの浴衣を着ているので本当に旅館に来たみたいだ。


「仲いいんだな。何してたんだ?」


 布団を踏まないよう畳の部分を選んで二人の元に向かうとポプラが嬉々としてスマホを見せてくれた。


「これでしゅ」


「どれどれ……え!!??」


 そこにはおれの顔がでかでかと映っていた。

 紫紺のユニフォーム姿。試合中だ。当然カメラ目線ではなく、対戦相手を鋭い目線でにらんでいる。


「矢島しゃんにポプラの秘蔵ショットを見せてあげてたんでしゅ」


「隠し撮りの間違いだろ」


「違いましゅ。バドミントン部の公的な記録用の写真でしゅ。そこからしゅこしだけコピーしただけでしゅ」


「だからぁ……」


 だめだ。

 ポプラのスーパーポジティブスマイルの前にはどんな正論もかなわない。

 となれば相手を変えるべきだ。


「矢島もなんでこんなもん見てんだよ、おれのこと嫌いなんだろ?」


「……べつにキライとは言ってないっす」


 ぷいっと視線を背けられた。


「はぁ? あんなに嫌ってたじゃん」


 訳が分からん。


 首を傾げながらも自分の寝床を探した。敷かれている布団は四組。ゲストはおれを含めて五人だから一組足りないようだが。


「で涼太しゃまはどの布団で寝ましゅ?」


「おれはどこでもいいけど」


「ではこれを一枚引いてくだしゃい」


 ポプラが差し出した手には四枚の短冊が握られていた。青、紫、オレンジ、黄色の四色だ。


「えーと、じゃあ……」


 なにも考えずに引こうとした瞬間、妙な胸騒ぎがした。伸ばしかけた指を引いて問いかけてみる。


「先に聞いておく。コレはなんの意味があるんだ?」


 ポプラはにっこり。


「でしゅから、だれの布団で寝るかでしゅよ。添い寝。別名同衾どーきんでしゅ」


「ど……添い寝!!??」


 無邪気な笑顔でとんでもない爆弾発言をしやがる。

 こいつ、相当やばい。


 おれは全力で首を振った。


「しないしないしない! それだったら廊下で寝た方がマシだ!」


「ええー? だって布団は四組しかないんでしゅよ? さ、大人しく短冊を引くんでしゅ。下に女の子の名前が書いてあるでしゅから」


 ないないない。絶対ない。

 そりゃあなぎさとだったら一緒に寝たい……くもないけど、周りを知り合いに囲まれて寝るなんてありえない。いやだ。断固拒否。


「早くするでしゅー!!」


「おまえおれの寝相か寝顔を盗撮したいだけだろ! 助けてくれ矢島、おまえだってヤロウが同じ部屋で寝るなんてイヤだよな? なぁ?」


 助けを求めたが矢島はなぜか無反応。

 ジト目でおれを見つめたあと、膝を抱き寄せて、ぽつりと。


「ちなみにあたしは黄色だから」

 

「はぁ!? なに言ってんだよ! いいからこの変態を止めろー!!!」


「涼太しゃああああん」



 ――――BAD END.

(※うそです。引きつづきお楽しみください)

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