突然の解散宣言
梅雨が明けた六月下旬。
まだぎこちないセミの鳴き声が漏れ聞こえてくる1年1組の教室内に桃色の声が響き渡った。
「はーい、1組の皆さん聞いてくださーい」
放課後のホームルーム。教壇の上でぱんぱんと軽やかに手をたたいて注目を集めているのはクラス担任の「なーな先生」だ。
名前は
新卒一年目の若い女性教師で、肩口でくるくる巻いた茶色の髪と白いパールのイヤリングが特徴。スポーツ特待生が集まる1組の担任というだけあって新体操で国体にいけるレベルのスポーツマンだが、ふだんは必要以上に出しゃばらず連絡事項などは佳乃委員長に全権を委譲して教室の片隅でニコニコしている、そんな人だ。
その若さと可愛らしさからクラス内外問わず人気が高く、すでに何人もの男子生徒から告白されたこともあるようだ。なにせ身長150センチ台の華奢な体つきでありながら、いつも着ている白やベージュのスーツの胸の辺りだけめちゃくちゃ高低差が激しい。お年頃の男子生徒たちの視線はいつもそこに……という話は置いといて。
佳乃委員長を差し置いてなーな先生が教壇に立つなんて珍しいこともあるものだ。
「えーと、突然ですが重大発表があります」
教室内がざわついた。
若い担任教師から「重大発表」などと言われたら思い浮かぶのは、そう――。
「また彼氏にフラれたんですか!?」
「また胸が大きくなったんですか!?」
「またお酒に酔って野良猫お持ち帰りしちゃったんですか!?」
「また何もない床で転んで恥ずかしい写真を撮られちゃったんですか!?」
クラスの何人かが一斉に叫んだ。
ひどい言いようだけど、すべて過去にあったことだ。
「ちがいますぅー! 確かに昨日また彼氏にフラれてお酒に逃げて野良猫ちゃんをお持ち帰りしようとしましたけど未遂ですー!」
なーな先生は必死に否定している。
冗談を真に受けて顔を真っ赤にするのもなーな先生が人気の理由だ。
教室内はなんとも言えない生温かい空気に包まれていた。
「もう! ちゃんと聞いてください。簪 佳乃委員長から大切なお知らせがあるんですよ。ね、委員長。前に出てきてお話してください」
「はい」
最前列に座っていた佳乃がスッと立ち上がった。
クラス内の雰囲気が一変する。
なにかがおかしい。
さっき言ったように、なーな先生を差し置いて教壇に立つことの多い佳乃が名指しされるまで大人しく着席していることが信じられなかったのだ。
みんなの注目を浴びながら教壇に立った佳乃は、いつものように凛とした佇まいのまま教室全体をゆっくりと見回す。
そうやって全員の視線が集まっていることを確認した上でおもむろに口を開いた。
「本日をもって、この1年1組を解散する」
――この解散宣言が大いなる波瀾の幕開けだった。
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