ささやかな逆襲

「また邪魔をするのか2組は!」

「ごめーん。カノちゃんが小さすぎて見えなかった~」

「多様性をばかにするつもりかー!」


 今日も今日とて1組の簪佳乃と2組の簪月乃が衝突している。

 廊下中にわんわんと響き渡る諍い声にもだいぶ慣れてきた。もはや風物詩だ。


「じゃあで決めるぅ?」

「望むところだ!」


 またしても平和的解決方法が選択されようとしている。


「ということで、なっちゃんおねがーい」


 月乃の呼びかけに応じて2組の人垣がさーっと引く。クールビューティーが髪の毛をかきあげながらゆっくりと現れると途端に空気が変わだた。桜庭なぎさにはそれだけの存在感と魅力があるんだ。


「私、負けないから」


 お決まりの台詞を吐いて月乃の隣に立つ。

 すると佳乃が勝ち誇ったように鼻を鳴らした。


「ではこちらは1組の最強兵器、鈴木涼太を召喚する。いでよ鈴木!」


 召喚ってモンスターかよ。


 苦笑いしながら前に出ると、仁王立ちしていた桜庭の瞳が一転、ぱっと輝く。


 あのデートから二週間。おれたちの関係は表向きなんの変化もない。でも最後に交わしたキスはおれたちの心の関係を明確に変えたんだ。


「……こほん」


 桜庭はおれへの好意を周囲に悟られないよう大声を張り上げる。


「す、すすす鈴木くん相手だって、ま、負けにゃいんだかりゃ!!」


 どもってる。

 噛みすぎ。

 あと顔赤い。そんなにおれのことが好きなのかよ。


「へぇ、なるほどねぇ」


 月乃がつと目を細めた。横目で桜庭の様子を伺っている。何かに気付いている、という顔だ。


 そんなことは夢にも思ってない佳乃はおれの背中を力いっぱい叩く。


「頑張れよ鈴木。今回はあっち向いてホイで勝負だ」


 あっち向いてホイ。

 ……そうだ。


 してやろう。

 最愛の彼女に、ささやかな逆襲を。


「じ、じゃあ鈴木くん。あっちむいてホイ。一回勝負、いいよね」


「もちろん。ただし条件がある」


 条件?と戸惑い顔の桜庭に優しく微笑みかける。


「もしおれが勝ったらまたデートしてほしいんだ。


 突然の名前呼びにざわつく生徒たち。

 当のなぎさだけはぎゅっと唇を噛んで、そして、満開の笑顔を見せてくれた。


「望むところだよ。その代わり私が勝ったらもう一度キスしてね?──涼ちゃん」


 それこそ望むところだ。

 周囲の騒ぎなんてどこ吹く風。おれとなぎさは至近距離で見つめ合った。


 いざ勝負!


「「せーの! 最初はグー!」」

「「じゃんけんぽん!」」

「あっちむいて……ホイ!」



 ……その後どうなったかは、まぁ、想像にお任せしておく。

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