逃げてきた公爵夫人


 両隣の直径約一万五千光年の矮小渦巻銀河、同じぐらいの不規則銀河を探査中に、惑星リリス付近に展開する結合ミリタリーヤードの統括人工頭脳から、至急電が来たのです。

 この統括人工頭脳は標準簡易ステーションや防衛戦隊も指揮しており、ショートワープポイント防衛指揮官に任命されています。


 至急電の内容とは、エデン銀河帝国の内乱は帝国主流派が負け、生き残りのほとんどが降伏、それを潔しとしない一部の部隊が、帝国の力が及ばない惑星リリスからこちら側に逃げてきているようなのです。


 ショートワープポイント防衛指揮官は撃破するつもりのようですが、アルダト・リリーの部隊を派遣、ファーストコンタクトに対応しようとなったのです。


「ここまで来られては面倒です、私の艦が進出して対処してきましょう」

 『アルダトの宝冠』号に乗ってアルダト・リリーは帝国首都方面へ向かったのです。


 もう『仮称アヒノアム銀河』はマッピングされ、エデン銀河帝国の首都星の座標は分っています。

 その上、帝国の科学技術も把握しているようです。

 この帝国、そして世界は科学技術の進歩はなく、滅亡の一歩手前で科学技術が止まっている状態、セマンゲロフ教というふざけた宗教のお陰で停滞しているのが救いのようです。


「さて、敗残の艦隊とか云う物を見に行きましょうか?」

「アルダト・リリー様、当艦の広域探知オプションステーションによれば艦隊という物はありませんが……」 

 『アルダトの宝冠』号の移動型統括人工頭脳が、このようなことをいいます。


「えっ、そうなの?何隻なの?」

「一隻です」


「はぁ?」


「かなり後方に五千隻ほどの艦隊がおりますが、ここの防衛戦隊で十分と思われます、ショートワープポイント防衛指揮官に当初の方針どおり、殲滅をご下命されればいかがですか?」


「なにか分ってきたわ、先行している一隻は逃亡しているのですね……」


「ショートワープポイント防衛指揮官には、防衛に専念せよと伝えなさい」

「マイクロ・インフェニティ・カーゴオプションステーションに下命、統合ミリタリーヤードとコンテナを九隻製造しなさい」

「私が話しを付けてくる」


「危険ではありませんか?」

「私も実戦を離れて久しい、小手調べには良いと思っている」


「分りました、当艦もここに残りましょう」

「我儘で悪いわね♪」


 コンテナを三隻ほど増加した防衛戦隊、その戦隊旗艦たる統合ミリタリーヤードに乗り込んだアルダト・リリーさん、帝国の領域に進行を始めました。


「帝国艦を発見」

 コンテナほどの小さい宇宙船ですがかなりボロボロ、航行がやっとのようです。


「帝国語で通信、この先は帝国領にあらず、目的を開示されたし」

「当方、エデン銀河帝国シュヴァーベン公爵妃ベルクト、許されるなら無条件降伏、庇護を求む」


「貴艦は大破とみられる、無条件降伏するなら庇護する、救難艇はあるか?」

「動く物なし」


「乗組員は何人いるか?」

「二人」

 帝国貴族夫人とその侍女さんのようです。


「シャトルを派遣する、移乗されよ」

 ミリタリーヤードはレイルロードのマイクロステーションでもあり、レイルロードのシャトルも予備として搭載しています。

 これを業務連絡用に使っているのです。


 シャトルは乗車定員二十名ですが、一人は運転士兼車掌のロボットが乗り込んでいます。

 大破した帝国艦に無理矢理接続、どうやら穴をあけて接続したようです。

 

「移乗完了、本船に戻る」


 ミリタリーヤードの居住施設って簡素で、最大五十名程度のホモサピエンス種族用です。

 ただ今回は戦隊司令官用の司令官私室に監禁、アルダト・リリーさんは予備室に移りました。


「アルダト・リリー様、とりあえず武装解除して居住施設に案内しておきました」

 トゥイーニー・オートマトンに対応を任せていますが、ミリタリーヤードに三台載せています。


「戦闘コンピューター、何かあったら知らせてくれ、私は帝国士官と話をしてくる」

「小型陸戦ロボットを起動します」


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