天の光

 秀哉は、握る手に更に力を込める。その手はかすかに震えている。

 ミズキは受けた言葉を頭の中で咀嚼した。一瞬の沈黙さえ耐えられずに何か言おうとしたが、秀哉の方が我慢できなかったようで、急くように言葉を続けた。


「初めて会ったその日からずっと今まで好きだった。ミズキに二度と会えなくなるなんて、俺は絶対に嫌だ。だからミズキ、俺と一緒に行こう」


 秀哉から漂ってくるただならぬ緊張感とミズキを見つめる熱い眼差しに、首を縦に振りそうになる。それを堪えることは容易ではなかった。やっとの思いで首を横に振ると、作った笑顔を見せる。


「気持ちは嬉しいけど、私は秀哉のことはただの幼なじみとしか思えない。それに、外国に行ったとしてもまた会えるに決まってるじゃない。この空がある限り」


 見上げれば満天の星空がいっぱいに広がり、息をのむほど輝いている。秀哉の手から力が抜け、ミズキの手から離れていった。


「そうだよな。あー、かっこわるいな、俺」


 恥ずかしそうに頭をかいて、力なく笑う。そして、ミズキと同じように天を仰ぎ見た。


 そのまま、何事もなかったかのようにその場にいた。他愛のない話に盛り上がったり、時にだまって空を見たり、家に帰るという考えはふたりの頭にはなかった。


 気がつくと、空は明るさを取り戻しつつあった。夜が終わりを告げ朝が顔をのぞかせている。消え行く夜空の中、ミズキは目を凝らし星を探していた。


「先生が言ってた惑星ってあれかな」


 ミズキが指をさした辺りを秀哉も見たが、首をかしげている。


「そんなこと言ってたか?」


「授業聞いてなかったんでしょ」


「一世一代の告白を前にして、のんきに授業なんか聞いてられるかよ」


 確かに、とミズキは苦笑して視線を落とした。秀哉の手はベンチの端に添えられている。夜中に見せていた緊張感など一切ない無防備な手の、ほんの数センチのところに自らの手を置いてみた。

 しかし、それ以上距離を縮めることなく、ふたりの手の間は微妙に空いたままだ。


「小学生の頃、秀哉が空が光るのを見たって言ったの、覚えてる?」


 唐突な話に秀哉は茫然と空を見上げ、首をかしげてみせる。


「それがどうした?」


「結局見られなくて、秀哉は嘘だったって言ってたけど、あれってごまかしただけでしょ? 嘘つきってちゃかされるのが嫌で。本当は見たんでしょ?」


「どっちでもいいだろ? 昔の話だし」


 秀哉は適当に話を切り上げようとしていたが、ミズキはそれを許さなかった。


「私も、その光を知ってる」


 うつむいているミズキに驚愕の目を向けた時、暁の空に浮かぶ惑星が何度かきらめいたかと思うと、突如まばゆいほどの光を放ちふたりの目を眩ませた。




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