【13】第2話 : スリー・チャンク〈1〉

 俺が、絶好のチャンスをツブしちまった…。

 だが、必ず挽回バンカイしてやる。

 失敗は、物事のツネだ。

 勝負事は二回悪手アクシュを打った方が負ける。

 次の一手を絶対、悪手にしない!

 考えろ…考えろ…考えろ…考えろ…考えろ…。

 伯爵の弱点を…リヴァイアサンの弱点を…。

 不自然な言動は無いか…不自然な行動は無いか…不自然な…不自然な…。

 ─うん?

 ま、待てよ!

 リヴァイアサンが鉄壁の防御力ボウギョリョクを持っているのなら、伯爵は、何故ナゼもっと多く液体に触れて量産しないのだ?

 不自然だ。

 不自然だぞ!

 ここだ! ここに、勝利の突破口がある!



 瀕死ヒンシ状態のアクアディーテは、カベを背にしてウツムいていた。

「さぁ…ムッシュ。

 それとも、マドモワゼル。

 どちらを先に地獄ジゴク御招待ゴショウタイしましょうか?

 うぅぅん…。

 やはり、何事も女性を優先すべきでしょうね」

 伯爵が、もっともらしく提案する。

 すると、ウツろな目をしていた彼女が『キッ!』と、俺を見つめた。

 ─リヴァイアサンに対し、俺と同じに、イタった様子だ。

 医者同士は話が早い。

 彼女は、目で合図を送る。

 俺は、小さくウナヅいた。



 項垂ウナダれていた兎耳ウサギミミ突如トツジョ『ピン!』と起立キリツすると同時に、両手に隠し持っていたナイフを素早く投げ、突進トッシンを始めた。

 勝利を確信していた伯爵は、不意を突かれる形と成る。

「この死にぞこないウサギがぁぁぁあ!!!」

 リヴァイアサンは5つの球体に分かれると、そのうちの3つで全てのナイフを受け、残り2つで彼女の両足首を制してしまった。

 なるほど…リヴァイアサンは、一つのカタマリだと、パワーは大きいが、スピードが落ちる。反対に球体を分割してしまうと、スピードは増すが、その分パワーが減少する様だ。

「これで、伯爵は丸腰マルゴシよ!!!」

 突進を止められながも、彼女が大声で叫ぶ。

 伯爵が、リヴァイアサンを使い切った事を確認し、もう一度、彼の死角から攻撃を仕掛けた!

 ある心理学研究の論文に『スリー・チャンク』理論と言うものがある。

 意味は簡単だ。

 ヒトは誰しも、同時にして処理できる事柄コトガラは3つまでと言う説だ。

 それが正しいならスデに、5つの球体をアヤツる伯爵は、完全にヒトの顕在意識ケンザイイシキ許容範囲キョヨウハンイえている。

 つまり、リヴァイアサンを必要以上に、大量生産した所で、操縦ソウジュウするタメが追い付かないのだ。

 これらの見解から、伯爵の能力ジーニア自動操縦型オートマでは無く、自身が意識して動かす手動操縦型マニュアルであると判断される。

 ─ここが、勝負所だ!

「まだ! まだ! まだ! まだ! まだー!

 勝利の女神は私に微笑ホホエんでいるゾー!!」

 対・アクアディーテに、リヴァイアサンを使い切った事により、防御能力を失った彼だが、直ぐ俺が居たテーブルに向かい、左手をカザすのだった。

「ヤマザキ! 貴様キサマが飲み残した、リヴァイアサンを使わせてもらうゾ!!!」

 すると、グラス内のリヴァイアサンが、伯爵の手に戻るべく、カタカタとるえ出した。

「させるかー!!!」

 俺は、伯爵の手前からクイックターンし、元居たテーブルにダイビングした。

『ガラゴロガガシャーン!!!!!』

 ツクエを巻き込んで床に転がると、大事にツカんだグラスを飲みした。

『!!!!!!!!!!!!!!!!』

貴様キサマ! 気でもクルったか!

 再び、カラダごと支配してやるゾ!

 イカレタヤツめぇ!」

「そうよ! どうかしてしまったの! これでは、伯爵の思うがままじゃないの!」

 二人が、各々オノオノサケぶ!

「それはどうかな! !!!」

 俺は再び、彼に突進する。

「なっ何ーいっ! 何故ナゼ、自由に動ける!

 とっ、止まれ! キサマー!!!」

 伯爵は、アワてて手元にあったグラスを、投げつけて来た。

「自身の末梢神経マッショウシンケイに、体内放電タイナイホウデンする事で、リヴァイアサンがニューロン(神経細胞)内に侵入シンニュウするのをブロックしているのさ!

 そのタメに、俺は伯爵の能力ジーニアかないんだ!」

 後退アトズサりしながら、彼は言う。

「ざ、残念だったなっ!

 まぁ正直、ヒヤヒヤしたゾ!

 だが、キサマの戦略は諸刃モロハケンだ!

 先程サキホド、私が死人シビトから、リヴァイアサンを回収する所を見ていただろう!」

 彼は一度、胸元にさしていたハンカチーフで、ヒタイの汗をヌグう。

「全身の細胞に散らばったリヴァイアサンを、心臓の右心房ウシンボウ一塊ヒトカタマリに集める。

 その後、心臓壁シンゾウヘキき破り、手元に戻すのだ。

 流石サスガに、生身の人間に同じ事をしたら、どう言う結果に成るか、キサマにも分かるよなぁー!!!」

 伯爵は、俺の胸元に向かい左手をカザす。

「さあ! リヴァイアサンよ!

 Come back!( 戻って来い!)

 ドクター・ヤマザキの胸をぶちヤブれー!!!」










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