【09】第2話 : 静かなメイドさん 〈1〉

随分ズイブンと、オシャベリな子猫さんですねぇ…」

 伯爵ハクシャクは、タマちゃんに向かい、左手をかざす。

 そこには、ハッキリと3本の爪痕ツメアトが走っていた。

『ググググググゥゥゥグハッ!』

 椅子イスの上でオボれる様に苦しむタマちゃんが、口をパクパクしながら必死にアエぐ。

「さあ! 子猫さん! 我が邸宅テイタクより盗み出した物の在りかを、教えて頂きましょうか?」

 丁寧テイネイな口調とは裏腹ウラハラに、過酷カコク拷問ゴウモンは続く。

「そっ…そうは言っても子供達の売却バイキャク記録キロクは、もうアチキの手元には無いんでありんす!」

 伯爵は『違う! 違う!』と片手で、否定ヒテイする。

「ああ…。 あんな書類は始めっから私の眼中ガンチュウにありません。

 あのくらいの証拠ショウコなら、弁護士ベンゴシに大金をツカませておけば、容易ヨウイに無罪に出来ますし、最悪、死んだパウル神父の単独犯行タンドクハンコウと言う事で全ては片付カタズいてしまいます」

 今度は、タマちゃんを指差ユビサす。

「お忘れでは無いでしょう…事件当日の夜に、貴方アナタが盗んだハコの事ですよ」

「あんな金にも成らない物に、何の価値があるニャー!

 中には、何個ナンコが入っていただけでありんすよ!」

「ああ…。 それですよ子猫さん。 そのロザリオを、お返し願いたいのです」

「何だか分からニャイけど、伯爵には大事な物の様だニャー!」

「化けネコ…いいえ、ネコに小判コバンとは良く言ったものです…貴方アナタにとっては、全く価値が無い品物ですよ」

 つまり伯爵は、盗すまれたロザリオを奪還ダッカンするタメに、まず2000:GOLDの懸賞金ケンショウキンで、事件当日にツカまえ損ねた泥棒猫ドロボウネコを、おびき寄せるワナったのだ。

 目撃証言モクゲキショウゲンをするだけで、大金が手に入ると信じ込んだタマちゃんは、まんまとツカまってしまった。

 ─ちなみに、でっち上げ証言で金をせしめようとしていた俺も同様だ…。

 伯爵は苛立イラダちのあまり、タマちゃんの気道を能力ジーニアで、サラめる。

「オイ! よせ! それ以上やると、玉三郎が死んじまうぜ! アンタが欲しがっているロザリオは、行方知れずになってしまうゾ!」

 いけねぇ!

 余計ヨケイなマネしちまった…。

 自分が身動きが効かない状況下に置かれているのにっ!

 クッソウ…。

 空気が読めねぇのは俺の方だ!

 他人の生き死になんてマッタく、知っちゃこっちゃネェのによう…。

「これは、これは!

 トラわれの身で、見ず知らずの他人の窮地キュウチを救おうなんて、なんて奇特キトクな方でしょうか…!

 あぁそうそう! 奇特と言えば、ドクター・ヤマザキさんと、おっしゃいましたか?

 貴男アナタは、話によるとマズしい人々からは、お金をイタダか無いそうですね。

 うぅぅぅん…。

 軽蔑ケイベツしないで頂きたいのですが、ワタクシは先生の様な偽善者ギゼンシャを見ると大変、虫唾ムシズが走るタチでして…。

 もちろん、ここまで話を聞かれては、ハナっから生きて帰す訳にはいきませんけどね」

 ホラッ!

 言わんこっちゃない!

 コチラに伯爵の注意を引いちまった。

 彼は冷たい目と左手を、ゆっくり向けて来た!

『ぐぁあああうぐぐぐぅぅぅぅう!』

 俺の舌が、ノドの奥へとシズんで行く。

 クッソォ…。

 伯爵の能力ジーニアの正体が分からなけれれば、手の打ちようも無い。



『ブギーマン・ブルース!!!』

 背後から咆哮ホウコウ一つハナった者が、タマちゃんと俺の肩の付近を強くコブシナグった。

 すると二人共、ウソの様に金縛カナシバりがけてしまう。

 トナリには、先ほどまで静かに同席していたメイドが立っていた。

「アンタ! 何者なんだ! 能力ジーニアが使えるのか!」

 俺がオドロいて、メイドに問う。

「あらっ?

 もう私を御忘オワスれ…ヤマザキ先生!」

 彼女はメガネとウイッグを外す。

 そこから綺麗キレイヒトミと長い兎耳ウサギミミが現れた。







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