【06】第2話 : 酔っぱらいのオッサン〈1〉

「では…。 ムッシュ。

 お待たせ致しました。貴男アナタの番です」

 デスマスク伯爵ハクシャクは、俺の左隣ヒダリドナリの男に質問を始めた。

 事件当日の日時。場所。天候。犯人の数、特徴トクチョウ

 そして最後に、パウル神父が着用していた聖衣ローブの色。

 ─すると。

だニャア~!」

 鼻を赤く染め、ほろい口調で答えた。

 この50歳はトックに過ぎた、薄毛ウスゲのオッサンは、俺が伯爵邸ハクシャクテイへ到着する前から早々ソウソウに乗り込み、各自、テーブルに用意さていた高級ボトルワインを、スデに飲みしていた。

 ─しかしよう…。

『ニャア~!』は、ネェだろう!

 イイトシしたオッサンが、生きるか死ぬかの瀬戸際セトギワで『ニャア~!』ってなんだよっ!

 俺は、殺意さえ感じながら薄毛の後頭部をニラんだ。

「黒、黒、黒、黒、黒、くろぉぉぉぉぉっ!」

 サケ伯爵ハクシャクの顔が、狂気キョウキユガむ。

「そうだよ! タマちゃんが見た聖衣ローブの色は黒なんだニャア~!」

 緊迫キンパク感ゼロのオッサンは答える。

チガう! 違う! 違う! 違う!

 違ぁぁう!

 マッタくのマチガィィィィィィ!」

 再び、伯爵ハクシャク絶叫ゼッキョウ邸内テイナイヒビき渡った。

 ─マズイぞっ!

 オッサンの答えは、不正解だ!

 それに、ってオッサンの事かぁ!?

 伯爵が人差し指を立てながら、ゆっくりと独り言の様に話し出す。

「人は、てして、見たまま、感じたままの事実を語る…。

 だが! 皆さん! 混同コンドウしていけません。

 事実と真実は、全く別物と言う事を!」

 部屋の中をコツコツと往復する。

 「今夜、お集まりの方々には、ハカらずも事実を語って頂きました。

 が…しかしながら、私にを語って下さる方が、ここまでは一人もいらっしゃいません。 マコトに残念でございます」

 オッサンの前で、ピタリとアユみをめる。

「つまり…私が望んでいるのは、事実では無く、真実なのです。サラに申し上げるなら、私が思いエガく真実を語って頂きたかったのです」

 伯爵は、何が言いたいんだ…。

「パウル神父の聖衣ローブの色は、マギれも無く赤です。

 これは事実です。

 この色を、お答えして頂いた方は皆、事件当日、現場を目撃されたのでしょう。

 しかし、私の予想では、必ずと答えて下さる方が、招待ショウタイ客の中にいらっしゃると確信しておりました」

 伯爵の上品な横顔が、冷たく微笑ホホエむ。

「ムッシュ。

 貴男アナタは事件当日、この邸宅テイタクに居て現場を目撃したはずです。

 そう…今、皆さんと居る 、この応接間で!」

 ─このオッサンが事件当日、この部屋に?

 何の話だよ!

「ムッシュ。

 イヤ…。

 マドモアゼルと言い直した方が、よろしいでしょうね。

 泥棒ドロボウ子猫コネコさん…」

 おかしいぞっ! 何を言ってるだ!

 伯爵は、このオッサンに、マドモアゼルだの、子猫さんだの、気がおかしくなっちまったのか?

 だが俺は、酔っぱらいの男からタダヨう甘い香水に気づく。









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