【05】第2話 : 簡単な依頼 〈1〉

「今夜も、お早い、ご出勤だこと!」

 いつもと変わらぬ嫌味イヤミ挨拶アイサツだが、口調は甘える様にヤワらかい。

 むしろ、こういった時のリザ・ブーが危険キケンなのだ。

「ねぇちょっとぉ~ヤマザキ先生ぇ~。

 とぉ~ても簡単で、お金になる闇稼ギルド…あるんだけどなぁ~」

 店のカウンター内から、ウインクを飛ばす。

 ─ほら来た!

 その手には乗らねぇゼ!!

「リザ・ブー! お得意の色仕掛イロジカけで、一杯喰イッパイクわせるつもりだろうが無駄ムダだぜ!

 いつもの様に、自分は手を汚さずモウけようって魂胆コンタンだろうが!」

 彼女は『まあ!!』と大袈裟オオゲサな表情を作り、ホホを可愛くフクらませた。

「先生~。 随分ズイブンとイジワルな事を言うのねぇ…。

 でも、5000:GOLDと聞いて引き受けない手はないでしょう?」

 今度は、頬杖ホオヅエをつきながら、上目づかいでサソう。

冗談ジョウダンじゃねぇ! そんな、とんでもねぇ高額の依頼なんて、ヤバイ闇稼ギルドに決まってんだろ!

 あいにく、俺は、依頼イライに決めた所さ!」

 リザ・ブーの鼻先に、目の前の壁から引っぺ返した紙切れを突き付けてやった。



 その内容と言うのは、二週間程前の嵐の夜。街の東、デスマスク伯爵邸ハクシャクテイ門前モンゼンで、パウル孤児院コジインの子供達を乗せた馬車が、獅皇兵団ヴァンセント襲撃シュウゲキされる事件が起こった。

 同乗していたパウル神父は殺害され、サラわれた子供等コドモラは、イマだに行方知れずなのだ。

 ノチの現場検証から一人の兵士、単独犯行であったと、皇国警察から発表されている。

 孤児院コジインの金銭的な支援者シエンシャで、敷地内シキチナイにも建物を提供しているデスマスク伯爵ハクシャクが、神父の死をイタみ、犯行現場当日の目撃者に、2000:GOLDと言う高額な懸賞金ケンショウキンを申し出たのだ。

 当然、俺は事件現場に居合わせてはいなかったが、に証言して、懸賞金の、オコボレにアズカるつもりだった。

「あらっ! 先生! その懸賞金ケンショウキン目当ての証言を受けるつもりなら、話が早いわね」

「そりゃあどう言う意味だ! リザ・ブー」

 彼女の闇稼ギルドの内容は、デスマスク伯爵ハクシャクマネきに応じて、目撃者として事件当日の証言をしてくる。

 ─たった、これだけだ。

 加えて、闇稼ギルド完了後に、リザ・ブーに報告をませ、闇稼料ブレットイタダく。

 これは、いつものシキタリで変わった事ではない。

「それにしちゃあ、5000:GOLDは、高額すぎる! 裏に何か有るはずだゼ!」

 俺が手を振って拒否キョヒする。

「ナニ、余裕ヨユウぶっこいてんだい!

 この貧乏ビンボウ医者! 」

 突然、リザ・ブーが怒鳴ドナる。

 「アンタが、いつも金欠でシミッタレた顔してるから、一番先にオイシイ話を持って来てやってんだろがぁ!」

 いつもの通り、口の悪い魔女だ。

 かわいこちゃんな態度は、それほど長くたない。

「だったら何だって、こんな高額な闇稼ギルドを、誰が、何のタメに依頼しているんだ?」

 彼女は、さらりと視線をカワす。

「まぁ…いつもの事だけど依頼人の情報は明かせないわねぇ…。

 その代わりとして闇稼料ブレットに、1000:GOLD上乗ウワノせしてあるわ。

 あたしの方も、この依頼が真っ当なモンかウラを取ってからの闇稼ギルドなんだ! 信用はして欲しいもんだね」

 俺への口調がスルドくなる。

「もっとも先生だって、ヤマザキ診療所の大赤字をカカえてる身じゃあ、高額な仕事ギルドノガす理由が無いだろうさ!」

 彼女は、コチラの事情を知っているだけに、痛い所を突く。

「本当に、事件の証言ショウゲンだけして帰って来ればいんだな!」

 ネンを押しながら、魔女の表情をウカガう。

「ええ、そうよ。

 あたしの紹介料の取り分は、闇稼料ブレット2割の1000:GOLD。

 先生への前金は2000:GOLD。

 それから闇稼ギルド完了後に、残りの2000:GOLDを払うわ!」

 ─うぅぅん…。

 コチラとしても、懸賞金ケンショウキンの、オコボレと、2000:GOLDと言った闇稼料ブレットの前金だけでもモラえたら有難アリガタい。

 ハラはかえられないってヤツかぁ…。

 チキショー。

 俺は、リザ・ブーと握手アクシュする。

 これが、魔女からの闇稼ギルドを引き受けた時に交わす、決まりになっているのだ。

 もし、仕事に失敗した場合には、彼女と握手した側の腕を切り落とし、差し出すと言った『血の契約ケイヤク』の一つでもある。

 決して友好的な儀式ギシキでは無い。

 リザ・ブーは俺の右頬ミギホホに、一つキスすると、伏見フシミ12年・ウイスキーを、ストレートで突き出して来た。

 俺は、一気に飲みほす。

 ─ヤケに、ニガい味しやがる。


 数日後スウジツゴ伯爵邸ハクシャクテイへの招待状ショウカイジョウが届く。

 もちろん、差出人は、博愛心ハクアイシンんだ、デスマスク伯爵殿ハクシャクドノからであった。


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