【03】第2話 : サントリオ聖堂〈2〉

「今日は、それくらいでいんじゃないかしら…」

「あらっ! 本部主任ホンブシュニン!!」

 エルクが、全ての警察隊員に敬礼ケイレイウナガす。

「ほら! ゼンさん! 貴方アナタもですよ!」

 注意を受けた彼女が、嫌々イヤイヤ、敬礼をする。

 見るからに知的で、クールビューティな女性だ。

 本部きっての切れ者捜査官だと、俺はゼンから聞いている。

 先日、ヤマザキ診療所にも、本人自ホンニンミズカら患者さんにフンして、内部捜査に入っていたらしいが、全く気づく事が出来なかった。

 兎眷族ウサギケンゾクだけに、どこかカゲがあり、冷たい印象を受ける。

「先程、外で、お話しさせて頂いた貴女アナタ様は、本部責任者の方でしたのね」

 オルドが『やはり』と言った態度だ。

 いつの間にかに、アクアディーテは店内に入り、事の一部始終を見ていたのだ。

「あらっ! ゼンじゃないかしら? こんな所に飛ばされていたのね。知らなかったわ」

「へっ! とぼけんじゃねぇ…官僚組カンリョウグミガールなら、とっくに、その長い耳に入ってるだろうが!」

 アクアディーテが、片耳を『クイクイ』と、二回折ニカイオってみせ、ゼンを揶揄カラカった。

「まあ! ゼンさん! 本部主任に対して、何て、失礼な態度なのっ!」

 エルクの声が、ヒステリックにヒビく。

「いいのよ…エルク課長カチョウ。ゼンはこんな風にから、口が悪いのよ。私達…知らないナカじゃ無くってよ」

「あぁ出来りゃ~。 記憶の底から消えて欲しい、クサレエンだ!」

 ゼンが吐き捨てるように言う。

 アクアディーテが、正面を見据ミスえた。

「ホクトさん。随分ズイブンと手間を取らしてしまったみたいね。マザー・オルドの提案が無ければ、貴方アナタ身柄拘束ミガラコウソクは、マヌガれなかったわ。

 でも…全ての容疑が晴れた訳でもないのよ。 これからも、折々オリオリに、お話しを聞かせて頂くわ」

 彼女は冷たい流し目で、そう言い残すと自分が最後であるのを確認して出ようとした。

 ─すると。

「おいっ! ちょっと待てよ!!」

 ホクトが呼び止める。

「それなら満月の夜はけてくれ! 生憎アイニクモチつきでイソしいからよ!」

 彼女はシバラダマっていたが、フン! と鼻で笑い、トビラを閉めた。



 さっきマデの、騒々ソウゾウしさはウソの様に、静寂セイジャクな空気が店内を包む。

 ─それを、ゼンが破る。

「これで、アタシはマザー・オルド! アンタとの貸し借りは無しだ!」

 シスターに向かって無礼な発言に、俺はアキれ顔でゼンを見る。

クソオヤジでも、アタシにとっちゃあ、二人とない父親チチオヤだ! 一度、アンタに助けてもらった借りを、今日、確かに返したぜ!」

 話の内容は、こうだ。

 過去にゼンの父親が、マザー・オルドに瀕死ヒンシ状態の所を助けられたらしく、本人に代わって恩返しをしたと言うのだ。

 その恩返しと言うのが、本日のサントリオ聖堂への突然のガサ入れを、事前に忠告チュウコクする事だった様だ。

「ゼンさん…。私は何も、貴女アナタ御父様オトウサマに、恩を着させようとした訳ではないのです」

「まぁ…カリにアンタが、そう思っていたとしても、娘のアタシが、スジを通さねぇと、マクラを高くして寝る事が出来ねぇのさぁ…。

 それに、アイツ…アクアディーテの好き勝手にさせるのは、どうにもしゃくにサワってな!」

「オイ! ゼンそれはどう言う意味なんだ?」

 俺は、何の事だかサッパリ分からずタズねた。

「今日のガサ入れの目的は、ホクトじゃ無い! マザー・オルドだ!」

「何だと! シスターが真のネラいだったというのか?」

「ああ…もしホクトの身柄確認が目的なら、あんなに大勢で乗り込んで、騒々ソウゾウしく物音なんて立てたりゃしない」

「なるほど…少数精鋭ショウスウセイエイ秘密裏ヒミツリ遂行スイコウした方が成功しやすいかぁ…」

 アクアディーテの思惑オモワクとしては、マザー・オルドにワザとガサ入れを気付かせ、ミズカ逃亡トウボウする所を、ツカまえる作戦であった。

 だから、警察本部の隊員は外を厳重に警戒ケイカイし、オルドがアブり出されるのを待った。

 しかし、予想外にもシスターは、アクアディーテに事の事情を聞くと、ホクトを説得するタメ、店に入って行くのだった。

 ここでも、彼女は、オルドへの話しの中にワナ仕掛シカけ、ヴァンセントが重傷を負っている事をえて加える。

 事前に、オルドが100%、ホクトの体に傷がない事を知っているなら、提案して刀傷トウショウを負って無い事を証明するだろうと思案シアンしたのだ。

 シスターが恋人でも無い男の体について、詳しく知るはずもない。

 つまり始めからの、オルドの冷静な行動は警察内に内通者が居て、情報が筒抜ツツヌけの証拠ショウコなのである。

 そのタメ彼女は、今日の所はブが悪いと直感し、素直に撤退テッタイして行ったのだ。

「それに、ヤブザキ! お前も、もしホクトの体の切創痕セッソウコンを隠す様な素振りを見せたら、その場で、おナワにするつもりだったのさっ!」

「だから、サウス・シルバーナ署を通さずに、俺に直接、要請があったのか!」

「それも、アクアディーテの罠だったはずだ。お前も協力者としてウタガわれているから、一石二鳥だったんだろうよ」

 ─だとしても…。

 一つ気になる。

カリに俺が傷痕キズアトの有無をごまかしたとして、何でヤツに分かるだよ! そんな専門的な事は、医者じゃなくては判断出来ないさっ!」

「アホか! ヤブザキぃ~! アクアディーテは、元・法医学博士ホウイガクハカセ だ! 」

「なぁんだ同業者かぁ…。じゃあ自分で、判断出来るわなぁ…。

 イヤイヤ! と言う事は、始めっから俺は、彼女にめられていたのかぁ!」

 ─あんな綺麗キレイな顔して、油断ならねぇ女だなぁ…チキショー!!

「今日の事は、もちろんアタシは秘密にしておく…心配はいらねぇ!」

 ホクトが『コイツは大丈夫ダイジョウブなのか』と言った目で、俺をニラむ。

 ゼンが、サッして付け加える。

「このヤマザキって男も、金にもならない密告なんてしねぇよ。

 それになぁ…お二人さん。

 次に会った時は、アタシがアンタのクビにナワけるかもしれねぇんだぜ!」

 それを聞いたホクトが瞬時に一歩出ると、ゼンが右手をピストルガタニギる。

「ホクト…」

 マザー・オルドが優しく制する。

「ゼンさん…。今日の貴女アナタの協力は、大変感謝しています。御礼を言います。

 しかし、私達二人は、何もヤマしい事は一切していません。 どうか、そこを信じて頂けないでしょうか。お願い致します」

 オルドは、頭を下げた。

「へっ! どうだか! アクアディーテって女は、全く気に食わなねぇがよ。あの切れ者が、アンタに目を付けたんだ、アタシは、あのバニーガールに、100:GOLD けるぜ !」

 そう告げると、ゼンは背中に殺気サッキを残したまま、出口に向かう。

 それでも、マザー・オルドは、振り向きもしない彼女に深々と一礼する。

 ホクトは終始シュウシ、左手を強くニギりしめ、スルドい視線を送り続けていた。



「まあ! ゼンさん! 遅いじゃない! 何をそんなにモタモタしていたの!」

 エルクが、撤退の準備が終わったのにもカカわらず、ゼンと俺が店から、中々出て来ないタメ、イライラしながら待っていた。

「ああ…何でもありませんよ! 今後いつでも、事情聴取ジジョウチョウシュに来るから、覚悟しておく様に、アタシからクギしておいたんですよ。課長!」

「まあ! そうだったの…ご苦労さま。 でもねぇ…見たでしょう…ホクトって言う男! イイ男ねぇ…食べちゃいたいわぁ。 特にアノ、クイッと上がった、お尻! 今度、私一人で、お茶にサソって、事情聴取しちゃおうかしらぁ…」

「課長!! それ、ただの職権乱用じゃないですかぁ…」

 エルクは、筋肉で盛り上がった太い腕で『チガウ! チガウ!』と振り

くまでも、職務上に得た、被疑者ヒギシャの個人情報保護を考慮コウリョしての判断よう」

「どう見たって、課長のじゃないですかぁ…!」

「なぁに言っているんですか! そんな下らない考えに、気を回してるヒマが有ったら、早く署に帰って、まった書類業務を済ませなさい!」

 命令を受けたゼンが、イヤイヤ帰りがけると、フッと何かを思い付いた様に振り向いた。

「でもなぁ…ホクトのヤツ…筋肉質な男性に興味がある様な事言ってたようなぁ…

 アレ! どうだったかなぁ…」

 エルクがで反応する。

「ええ! その話は本当なの! クワしく聞かせてちょうだいな! ゼン!」

「ええ…イイですよ! あっ! でも、署で話すのは何ですから…課長のオゴりで、居酒屋で一杯やりながら、お話しするなんていかがですか?」

「イイわねぇ…! ゼンちゃん! でっ、ホクトは、どう言った男性の筋肉が、お好みなの…!」

「課長! それがですねぇ…年上の男性の…」

 ゼンは『してやったり』と、俺にウインク一つ残して、課長と仲良く村を後にした。

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