【02】第2話 : サントリオ聖堂〈1〉

「ヤブザキ! お前、ゼッてぇ余計なマネすんじゃねぇぞ…」

 ゼンが視線をソらしたまま、ツブヤく。

 ソルト・マウンテン村の教会『サントリオ聖堂』に、300人の皇国警察が配備され、辺り一帯を厳戒ゲンカイ態勢で取り囲んでいる。

 簡素カンソ田舎イナカ教会を捜索ソウサクするには、余りにも大袈裟オオゲサだ。

「本部、直々ジキジキの、お出ましだ。何か有っても、アタシは手を貸せねぇからな!」

 早朝、皇国警察本部から、現場の立ち合い要請ヨウセイが、我が診療所に有った。

 サントリオ聖堂に隣接リンセツされている鍛冶屋カジヤ七星ナナホシ』の家主にと、言う名の20代半ダイナカばの青年がいる。

 青白い表情に、ウレいのある瞳は、常に若い娘達のウワサマトだ。

 彼女達は、何かと口実コウジツを見つけては、彼の店へと出かけ、仕事の邪魔ばかりしていた。

 そのホクトに、捜索ソウサク中の獅皇兵団ヴァンセントの一人として、容疑ヨウギかる。

 以下は、つい3週間前の出来事である。

 深手を負ったヴァンセントが大量の血痕ケッコンを残しながら、この村の入り口に辿タドり着いた。

 だが、そこから一切、足取りが途絶トダえてしまったタメ、負傷した体を隠しやすいとモクされる、病院と教会が捜査ソウサ対象となった訳だ。

 俺の方は、くまでも協力者としての嫌疑ケンギタメ、警察側としては今後、自由に泳がしておいてから尻尾シッポツカ魂胆コンタンらしい…。

 ─全く迷惑メイワクな話だぜ。

 片やホクトの方は、有無を言わさず実力行使で、身柄ミガラを確保する算段だ。

 警察本部は過去の三度の失敗が、余程ヨホドコタえ、アセっているのだろう。形振ナリフカマってはいられない。

 本部の連中は厳重に教会の外を固めると、支援で派遣ハケンされたサウス・シルバーナ署は、中へ踏み込む準備を整えた。

『ピピィィィー!』

「皆さぁーん! 突入トツニュウよーっ!」

 耳を、ツンザすホイッスルと、課長カチョウエルクの口調クチョウの号令が作戦開始の合図となった。

 数人の警察隊員が店のドアノブを、大きなハンマーでタタる。

 ─『OPEN』ボードが弾け飛ぶ。

 続けて隊員が、なだれ込んだ。

「ホクト! 神妙シンミョウにしなさい! 抵抗するんじゃないわよ!」

 エルクの金切カナキり声が通る。

「何だ? 朝っぱらからサワがしい…」

 警察の乱入を相手に、彼は度胸ドキョウわっていた。

 両刃のツルギを火にけて、鍛錬タンレンをしている最中だ。

「まぁ! 容疑者は、凶器キョウキを所持しているわよ! 皆さん、気をつけてぇ!」

 鍛冶屋カジヤなんだら、当たり前の事だが、タイミングが悪かった。

 隊員に緊張がハシる。

「鍛冶屋職人、ホクト! あなたの身柄を確保するわよ!」

 エルクが、捜査ソウサ令状をかざす。

「俺は、明日までにオサめなくてはならない仕事でイソガしいんだ…帰ってくれ!」

 彼は、警官連中には目もくれず黙々モクモクと火入れに集中し、手を休め様としない。

「まぁ…ちょっと! 私が目の前に居いるのに、何なの! その無視を決め込む、太々フテブテしい態度! もう~我慢ならないわぁっ! 皆さん! 容疑者を確保よーっ!」

 隊員達が一斉イッセイに、彼を拘束コウソクしようとした瞬間。

『ジュュュュジジュュウ…!!!』

 ホクトが、真っ赤に火入れをホドコした剣を、荒々アラアラしく水の中へと突き刺す。

 すると、蒸発ジョウハツした水煙ミズケムリの中から、剣をニギったまま、ゆっくり立ち上がる姿を、皆が確認するのだった。

 隊員達がヒルむ。

 彼が一瞬、身構ミガマえた気がした。

 ─そこへ。

「ホクト! めなさい…」

 キビしくも、んだ声が、入り口から飛んだ。

「かっ…カアさん!」

 現れたのは、サントリオ聖堂のシスター。

 マザー・オルドである。

先程サキホドから物々しい気配を感じて、外へ出てみますと…大勢の警官の方達が取り囲んでいたので驚きました」

 シスターが胸に手を当てて、息を整える。

コレは、どう言った事態なのかと、外で責任者らしき方にお聞きした所。

 ホクト…貴方アナタへ、捜索ソウサク中の獅皇兵団ヴァンセントとしての嫌疑が掛かっているとの、お話でしたよ…」

 彼は、シスターをジッと、見つめたまま黙っている。

「では、こうしてはいかがでしょう…。

 そのヴァンセントは、大変な重傷を負っているとも、お聞きしました。

 カリに、それが事実で有るなら、負傷のアトが、容疑者の体に明確に残っているはずです。

 ホクト…貴方アナタ自身の潔白ケッパク証拠ショウコに、この場の皆さんに確認して頂いたらよろしいと思います」

 シスターの提案に、俺が一歩出て発言した。

「実は本日、私が要請を受け待機してしいる訳は、マザー・オルドが言った通り、ホクトの右下腹部に受けているかもしれない、切創セッソウコン痕、確認のタメなんです」

 突然、エルクの号令により身柄確保を力ずくで強行しようとしたタメ、俺がタイミングを外し、言いそびれてしまったのだ。

「まぁ…!! 私ったら、ホクトの身柄の確保だけを指示されていて、傷痕キズアトの確認は、伝達されてはいないのよ」

「それはきっと、私が警察本部から直接に要請があったタメに、サウス・シルバーナ署には指示が、れてしまった様ですね」

 ホクトは、しばらく目をせていたが

「マザー・オルドが言うなら、そうしてくれ…」

 と、素直にシタガった。

「ホクト…。俺も、仕事で来ているんだ。お前に、何かウラみがある訳じゃ無い。おタガい、さっさとませようぜ!」

 彼は何も答えない。

 ─相変アイカワわらず、無愛想ブアイソウなヤツだ。

 俺が、彼の服をメクり確認する。

 男性にしては、肌がき通るホドに白く、キメが細かい。腹部は引き締まり筋肉が浮き出ている。

 鍛冶カジ仕事で、負った小さな火傷ヤケドが2 、3あるだけで、どう見ても負傷のアトは無い。

「私の医師としての只今タダイマの見解ですが、容疑者とされる、ホクトから切創痕セッソウコンは、一切発見されませんでした」

 それを聞いた後も、彼は顔色一つ変えない。

「でっでも! それだけの証拠で、容疑が全て晴れる訳じゃ無いわ! 協力者としての疑いだってあるわよ!」

 エルクが、口惜クチオしさのタメに、それでもナオ、食い下がる。















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