【12】第1話 : 伏見12年・ウイスキー〈2〉

「いかがです? ローハイドさん。貴方アナタの命を救い、今までナゾだった酵素菌を発見した事で、伏見フシミ12年・ウイスキー再現方法にも、辿タドり着きました。これで、2000:GOLDは、破格の安さだと思いますがねぇ」

「ぐぅぅぅぅう」

 彼は、これには一気にマイってしまった様子。

「あっそうそう! この酵素菌の名称は、スデ申請シンセイして有ります」

 俺は、近くのメモ用紙に速記ソッキして渡した。

 ローハイドさんは、首を引っ込め大きな両手で、器用に開いて確認している。

 始めは、意味が分からなかった様子だが、直ぐに、コチラの意図イトが通じたのだろう。

「フン! 余計ヨケイ真似マネをしおって!」

 と彼は吐き捨てたが、満更マンザラでも無い様子だった。

 俺は『R-1:681-D酵素菌』と命名した。

『R-1:35-O酵母菌』の名称を知った時、ローハイドさんの奥さんへの愛情が深く感じられたタメ、上記の酵素菌の名にした。

 つまり、『アールワン:酵母菌』に対し『アールワン:酵素菌』とした訳だ。

 この特異トクイなカップル菌が、芳醇ホウジュンな伏見12年・ウイスキーを作り出す。

 二人の夫婦愛とも重なり、我ながら良い命名だと思った。

 すると、大柄なローハイドさんの横をスルリとカワし、受付窓口からアジ天日干テンピボし三枚を、突き出す者が居る。

 半魚人ハンキョジンの、さんである。

「せんせぇ~! 悪いけんども、今回の診察料も、コレで勘弁カンベンしてもらえねぇべかぁ? ギョギョギョー!」

 続けて、ドワーフのジイさんが、カゴ一杯、山盛りに積んだキノコを置き

「おいどんは、この森のキノコで、お願いするでごわす!」

 と、一礼をする。

 それを聞いたルージュが、少し困った様子を見せたが、直ぐに

「大丈夫ですよ。先生にお伝えしておきます」とだけ返すと、二人は御辞儀オジギをして待合室を出て行った。

「オイ! ヤマザキ。 何だ! 診察料金をどうして取らないんだ!」

 不思議そうに、ローハイドさんが問う。

「ああ…ウチの診療所は、貧しい方々からは診察代シンサツダイを頂かないんですよ。病気は本人の、お金の都合を待ってはくれませんからね。でも、その代わりと言っちゃあ何ですが…お金持ちからは、高額料金を頂きますよ!」

 俺は、笑って答えた。

 彼は、シバラダマったまま考えていたが、オモムロに内ポケットから小切手を取り出すと、金額を記載キサイしたノチ、受付に叩きつけた。

「こんな、貧乏診療所なんて見切りをつけて、早く、家に帰って来い! ルージュ!」

 ローハイドさんは、そう言い残すと出口のドアがコワれてしまう程、強く打ち閉め、出て行ってしまった。

 外にツルしておいた手作りの『本日、診療日シンリョウビ!!』ボードが、ドアからハズれ落ちる。

 俺とルージュはビックリして、お互いの顔を見合った。



 数日あとの昼食時、ルージュが、やたらと機嫌が良い。

 俺がリクエストした、彼女お得意料理の卵オムライスを、鼻歌まじりで支度している。

 ちなみに、ルージュは料理が趣味なのだ。

 ─たまに斬新ザンシンすぎて、困ってしまう時も、あるにはあるのだが…

 味は抜群バツグンである。

 ─ご機嫌様の理由を聞いてみた。

 ルージュの話によると、赤字続きのヤマザキ診療所を何とか改善すべく、半年以上前から製薬会社と薬の値段交渉を単独で行っていたそうなのだ。

 しかし、一向に値段は下げてもらえず、悩んでいた所、本日、突然に営業担当者から連絡があり『今までの半額以下でカマいません』と、信じられないくらい破格の条件を提示してもらえたと言う。

「これで、ぶりに、お給料がイタダけます!」

 と、ルージュがウレしそうだ。

 当診療所の会計も、ルージュが担当タントウしてくれている。

「でも、何で突然、前ぶれも無く、お薬の値段を下げて頂けたのでしょうか? ヤマザキ先生?」

「う~ん…。 何でだろうなぁ…俺にも、サッパリ…」

 指先で、アゴでていると。

「ああっ!」

 ルージュが思い当たる様で、大声を上げる。

「そう言えば…営業担当の男性…。私の足をジロジロ見る事があったじゃないですか! 口説クドこうとしているかもしれません! う~ん…。きっとそうだわ! 彼には注意しなくちゃ! 先生は、どう思われます?」

「う…うん…まっ…まぁ…そうかも知れない…かなぁ…うぅぅん…」

 俺は、ピンク色した鱗肌ウロコハダの足を見た。

「あらやだ! ヤマザキ先生まで、そんな目で見るんですか! 本当に男の人達ってイヤラシいんだからっ!」

「……」

 彼女は、いつもの様に、ドカドカと床を踏みならして食器を下げに行った。

 ─ウチを担当している『シンゲン薬品工業』は、確か…スモーキー&カンパニーの傘下サンカ企業のはずだ…。

 もしや…会長のローハイドさんの一声ヒトコエかって、薬の値段が安くなっなのかも知れない。

 いや…それ以外、考えられない。

 あまりにも突然で、一方的な企業側からのモウし出だ!

 間違い無い! ローハイドさんだ!

「何だよ! サタンみたいなオッカナイ顔して、意外に真摯シンシ強面コワモテ使じゃないかよ! イイトコあんなぁ…あのオッサン!!」

 俺も上機嫌でツブヤいた。

「そうだ! 2000:GOLDもの大金が入った事だし、リザ・ブーの店に行って、ちょっと、タノみ事でもしてくるかっ!」



「今夜も、お早い、ご出勤だこと!」

 いつもの通りに彼女は、嫌味イヤミ挨拶アイサツして来たが、今日の俺は勝手が違う。

「リザ・ブー! 今夜は、飲みに来た訳じゃ無くて、頼み事があって足を運んだんだ」

「あらメズラしいわね…ヤマザキ先生からなんて… 何かしら?」

 俺は、との約束を思い出し、伏見フシミ12年・ウイスキーの入手方法をサグっていた。

 だが、人気の商品なだけに中々うまく入手出来ず、結局リザ・ブーに1本、分けてもらう考えに行き着いたのだった。

「貴重なウイスキーだと言う事は、重々承知の上だが、そこの所、都合ツゴウつけてもらえないか? リザ・ブー」

「ああ…何だい? そんな事なら店で、数本ストックしてあるから、お安い御用だわ。何なら1本、タダで差し上げてもよろしいわよ」

 リザ・ブーも、今夜は上機嫌だ。

「オイオイ! 冗談だろ! 高価な伏見12年・ウイスキーだぞ! タダとは夢のようだ!」

 俺は、年甲斐トシガイも無くハシャいでしまった。

「もちろん! 一つ条件が有るわぁ!」

 彼女が、可愛カワイくウィンクをこす。

 ─ほら来やがった…

 だから、魔女には気をユルしちゃあいけないんだ!

「この領収書リョウシュウショを受け取ってちょうだい」

 リザ・ブーはワザと俺の前で、ヒラヒラらしてみせた。

「チッ! そんなコッターと思ったぜ! 話がウマすぎるんだ!」

 確かに、ローハイドさんが倒れた日に、俺は、彼の提案から無理やり店の全員に、酒をオゴらせられている。

 ─完全に忘れていた。

 俺は、引ったくる様にして彼女の手から、領収書を受け取る。

「えぇ…ナニナニ…。

 お酒の代金 : 伏見12年・ウイスキー×300杯=1800:GOLD…ォ!!

 スモーキー&カンパニー銀行によるの立て利息分リソクブン: 200:GOLD…。

 合計…2000:GOLDだぁ!!」



 ─やっぱり


 あのオッサン。


 …サタンだ。












 第1話 : スモーキー&カンパニー 〈 END 〉





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