【10】第1話 : ノース・ビレッジ〈5〉

 ハチミツにた甘い香りがして来たら、それが合図である。

 囲炉裏イロリカコむ、子供達は、ヤワらかい炭火スミビに気持ち良くらされ、うたたの最中だ。

 彼等カレラは、こんがりと食べ頃に成った赤兎セキトの実に気づかない。

「キサブローさんと、ローハイドさんは、そんなにも深い御縁ゴエンが有ったのですね…」

 俺は、二人を結ぶ意外な過去を知って、オドロいてしまった。

「その後も親交を重ね、良き相談相手に成って頂きましただ」

 キサブローさんは自分の布団ブトンを引き上げ、子供達の体を一つにツツんでしまった。

 ローハイドさんは、お金を一方的にメグんでいては、自身と村の住民との間に上下関係が生まれてしまうのを心配し、ノース・ビレッジが経済的に独立ドクリツするまで、相談役としての協力を約束する。また直接、何度も村に足を運んでは、復興フッコウ事業にすべき産業サンギョウを、熱心に調査していたそうだ。

「魚を与えるのでは無く、魚のツリり方を、一緒イッショに考えると言う事ですね」

「ヤマザキ先生のオッシャる通りです。ローハイドさんは、地形の様子も把握ハアクしておきたいからと、この村を一望イチボウ出来る、ゴブリン・フジにも、登られたと聞いております」

 その話によると、頂上には小さなホコラマツられ、御神体ゴシンタイとなる深さ15mホドの井戸が存在するとの事。

 ノゾいた水は、白く混濁コンダクしていたタメ、始めはローハイドさんも躊躇チュウチョしたらしいが、美しい色取りどりのチョウが、水面に群がっているのを確認すると、ノドカワきも手伝い、仕方なく底へと続くナワばしごを降り、手でスクってみるのだった。

 水は意外にもんだ味で、ほのかに甘い香りがしたそうな。

 ホドなく、羽を休めていたチョウ一斉イッセイに飛び立つと、見上げた小さな空に、光りのウズとなって吸い込まれて行った…それは、アヤしくも甘美カンビな体験で有ったと、彼は興奮した様子で語ったと言う。

「ああ…。その水じゃったら、神棚カミダナマツってある、竹筒タケヅツの中ですじゃ。ローハイドさんが、大事に持ち帰っていらしただ」

「よろしければ、確認させて頂けませんか?」

 俺は、湯飲ユノみに白濁ハクダクした水を移しておき、血で染まった三角巾サンカクキンを肩から外した。

『メデューサ!』

 と、咆哮ホウコウすると同時に、両手で左右の側頭部ソクトウブに、三本の指先をソえ、電撃を放つ。

 すると、俺の目は電子顕微鏡デンシケンビキョウレベルに、映像解析度エイゾウカイセキドを上げる。

「やはり、そうだったかぁ…」

 この一連の特殊機能トクシュキノウは、厳密に言えば俺の能力ジーニアでは無い。

 医者として、西洋医学と東洋医学を学び、研究していく中で辿タドり着いた、俺独自の医学理論である。

 東洋医学で言う所の、睛明セイメイ瞳子髎ドウシリョウ客主人キャクシュジン経穴ケイケツから、各種存在する人体の神経線維シンケイセンイの中でも、C線維センイのみに電撃を伝え、前頭葉ゼントウヨウ前頭前野ゼントウゼンヤが持つ、ノウのブレーキ機能を鈍麻ドンマさせる。

 加えて、扁桃体ヘントウタイ後頭葉コウトウヨウ視覚野シカクヤ覚醒カクセイさせる事で、上記の行為コウイが可能と成るのだ。

 しかし、副作用フクサヨウが大変に強いタメ、長時間の発動は出来ない。

 脳神経が破壊ハカイされてしまうからだ。

 長くて、3分と言った所だろう…。

 それ以上は危険なのだ。

 映像解析エイゾウカイセキを終えると、俺はシバラくの間、視界シカイが真っ白にだされてしまう。

 まれに、強い頭痛をトモナう事さえ有る。

 5分くらい、ったであろう。ぼんやりと視力が回復し始めた。

 心配そうに、キサブローさんが見つめる。

 解析度カイセキドを上げるタメ、欲張った電撃が少々、強かったらしい…

 頭痛を併発ヘイハツしてしまう。

 ─こめかみに、強い拍動ハクドウ疼痛トウツウオソった。

「ローハイドさんは、1週間前に、頂上の水をんで来ると『コレ一緒イッショに、お土産ミヤゲだ』と笑って、村に生えている麦を引っこ抜き、ナツかしそうにムシャムシャと食べておられました」

「お話しの麦は、今どこに有りますか? 拝見ハイケンしたいのですが…」

「えぇ…そんなモンは、村のどこにでも生えとりますけん、帰りがけに取っていかれたら良かです」



『ドン! ドン! ドン! ドン!』

「シロが、到着トウチャクしたぜぇ! ヤブザキ!」

 裏庭ウラニワの戸を、ゼンが強くタタく。

「ああ…丁度チョウド、2時間かぁ…。 シロのヤツ随分ズイブン無茶ムチャして飛ばして来たなぁ…」

 その音にオドロいて、子供達が目を覚した。

「キサブローさん、このまま2 、3日は安静で、お願いイタします。水分は、こまめに取る様にして下さい。それでは、私共はこれで…お大事なさい」

「先生…このタビは、大変、お心をけて頂いて、感謝の言葉も見つかりません」

 キサブローさんは、深々と頭を下げた。

「ブリオ! 今度は、ゆっくりと遊びに来いよな! 待ってるぜ!」

「ありがとう! ケンタロウ! 必ずね!」

 ─スッカリ仲良しに成った、二人である。

 とっぷりとれた外に出ると、シロに、もたれかるゼンが、タバコをクワえたまま、親指をクイッと差す。

「前から思ってたんだけどよう…コイツさぁ! 救搬竜エル・ドラゴのクセに…どう見ても竜じゃ無くて、のリド・リバーだよなぁ!」

 それを聞いた、シロの耳が、突然、ピンと立つ。

『ヴゥゥァゥウ…ヴヴヴゥ…』

 牙をき出しにして、ゼンにウナり声を上げる。

「ゼン! シロは、を言われる事が一番、気にサワるらしいんだよ!」

「ナニィ! コイツは、アタシの言葉が分かるのかぁ…そりゃあ悪かった! シロ! 勘弁カンベンだぜぇ!」

 ゼンがアヤマり、首をでてやると、直ぐに機嫌キゲンを戻し、シッポを激しくる。

 ─そう言う単純タンジュンな所が犬、ソックリなのだ。

「先生~! ブリオ…お腹ペコペコだよう~!」

「そうだなぁ…夕食、食べソコねてしまったからなぁ」

 ─すると…。

『グゥゥウ』

 ゼンの腹が鳴る。

「ゼンも、一緒に豚骨ラーメン食べに行くか?

 今日の御礼オレイに、メシオゴらせてくれ! 人気店の菜金堂サイキンドウラーメンだ!」

「おお! そりゃあ、ありがてぇ! トッピング全部乗せの、野菜、増し増しでタノむぜぇ!」

「ああっ…ブリオ…は…ええとぉ…。コーンバター増し増しと、デザートプリンも!」

 それを聞いたゼンがアワてて言う。

「いっけねぇ~! への、お土産ミヤゲを約束してたんだ! ヤブザキ! りぃ! ジャンボ餃子ギョウザ、お待ち帰り二人前も追加していかぁ!」

「ああ…今日は、カクの整備してくれた、レオパルドンが、大活躍ダイカツヤクしてくれたからなぁ…もちろんカマわないさっ!」

「あれ? チョット待てよ…カクは中華系チュウカケイ魔物モンスターのクセに、ニンニクが、苦手じゃ無かったかなぁ…?」

「ゼン! それじゃあ…カクは、キョンシーじゃ無くて、じゃないか!」

チゲぇねぇ~!」

 三人で笑いながら、レオパルドンを、コンテナに格納カクノウした。

「シロ! 腹の減った俺達を、菜金堂サイキンドウラーメン店に、超・救急搬送キュウキュウハンソウだ!」

『ワオーン!』

 シロは遠吠トウボえを一つすると、ヤミの中を、チカチカと光る東の空へと飛んだ。

 ─かすかに、雷鳴ライメイが聞こえる。












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