【06】第1話 : ノース・ビレッジ〈1〉

『パチ…パパッチチッ!!』

「きゃっ! 熱いっ!」

「キャハハ! ブリオは、コワがりだなぁ~」

 部屋の真ん中に在る囲炉裏イロリを、ブリオとケンボーが仲良ナカヨカコんでいる。

 きっと女の子に自慢ジマンしたかったのだろう…。ケンボーが、何やら御馳走ゴチソウしているのだ。

「わあ~! 甘くて美味オイし~い!」

「だろう~! 『赤兎セキト』の実って言うんだぜ! 熱を加えると、石焼きイモみたいに甘くなって、ハチミツの香りがするんだ!」

「本当に不思議~ぃ! ブリオ…こんな美味しいを、食べた事が無いわぁ!」

「オイラが見つけた秘密の場所に樹勢ジュセイしてるんだ! 今度一緒に行こうよ! ブリオに教えてやってもイイゼ! 」

「えっ! 本当! ブリオウレしい! ケンタロウってヤサしいのね!」

 キサブローさんが、子供達のやり取りを嬉しそうに眺め、再びコチラに向き直した。

「それから、ローハイドさんの安否アンピはどうなったのでしょう?」

「えぇ…。ちょうど、コットンさんが息を引き取ってから、半日がった頃に連絡が入りました…」

 キサブローさんが、記憶をゆっくりとサカノボっている。

オクさんが最期サイゴに、おっしゃっていた通り、彼は救助の者に運良く発見された事で、命だけは取りめましただ」

 ケンボーが二人の間に、割って入って来た。

「爺ちゃんと、先生も食べなよ! 美味オイシイしいぜぇ!」

 不意フイの申し出に、つい自然と手が出てしまった。

「あちちちっ! こりゃあ熱いっ!」

「そりゃあ~出来たてなんだから、気を付けてくれよな!」

 俺は息を吹きかけながら、左右のテノヒラに転がした。

「うまい! うまいなぁケンボー! こりゃあ…焼き甘栗アマグリよりもズッとウマいぞ!」

「へへん! ここから東へ、少し行った『ブルー・ウッド』って大地は、森のメグみの宝庫ホウコなんだぜ。村の子供達は、町で、お菓子カシなんて買わなくてもへっちゃらなんだ!」

「そうか~。先生、ケンボーがうらやましいなぁ」

 得意気トクイゲな彼が続ける。

「ヤマザキ先生! そんなに気に入ったんなら、お土産ミヤゲに持っていきなよ。オイラの分は、また森で取って来ればいいんだからさっ!」

「おお? そうしてもらえると、有難アリガタいなぁ。ご馳走チソウになろうかな!」

 大人にめられた事がウレしいケンボーは、満足そうにブリオのソバに戻った。



「それで発見された後の、ローハイドさんの症状は、いかがだったのでしょう?」

 俺は御茶オチャで、心地よく舌の上に残った甘味カンミを流す。

「えぇ…ローハイドさんは二日の間、昏睡状態コンスイジョウタイでしたが三日目の朝に、やっと目を覚まされました。一番始めに奥さんの名前を口にした彼に、全ての経緯ケイイを伝えると…しばらくの間、目をつぶたまま、ダマって背中をフルわせておられました」

 キサブローさんの目にも涙がアフれた。

「最愛の娘と最愛の妻…生と死の狭間ハザマに立つ彼の苦悩クノウは、今のワシにもオモンバカルる事は出来んのです」

 ─ツラい記憶が、俺にも伝わって来る。

「そこで、事故から三カ月ほど経って、鉱山会社からの落盤ラクバン調査報告が出ましただ」

「ローハイドさんの責任が問われたのですか?」

「直接の落盤ラクバン原因は、天井を支える坑柱コウチュウ建設の手抜き工事だと言う判断にイタりましただ」

 坑柱建設の強度を増すタメに、鉄筋テッキンを入れなければ成らない規定の所、自身が責任者なのを良い事に、サンキチは柱の中を空洞クウドウにしておき、全ての鉄筋を外部に売り渡すと、そのまま金を本人のフトコロ秘密裏ヒミツリに流しんでいたのだった。

 加えて、その後の聞き取り調査で判明した事だが、彼は、毎回、一日の仕事の終了時刻をワザと先頭の掘削班クッサクハンに伝えず、残業手当てを付けない形で続けさせ、少しでも、硫黄イオウの掘削量を上げる事で、臨時リンジボーナスを増やしていた。

「正直で仲間思いのゴブリン一族にしては、風上にも置けない悪党ですね! そのサンキチって男は!」

 また、当のサンキチに事故の責任を取らせようにも、坑柱に下敷シタジきになった後、彼の消息ショウソクは不明で、坑道内からも発見され無い事から、水脈に落ちたか、または水モグラ達にわれてしまったのだろうと言う事で、片付けられてしまった。

 強くんだキサブローさんを、心配する俺に『だいじょうぶ』と、彼は両手でセイした。

「そこで、最終的に現場の総監督ソウカントクであるローハイドさんが一人、事故による閉山ヘイザンの責任をう形で、会社を辞任ジニンされました」

「でも本当の悪いヤツは、サンキチでしょう!」

「えぇ…皆の命を、体を張って救ってくれたのは、ローハイドさんなのにもカカわらずじゃ…しかし、事故については、一切言い訳をセンかった…『全ての責任は、私にあります』と、一言だけを残して…」

「何だか…随分ズイブンと、ローハイドさんの印象が変わりました…」

 ─見た目は、サタンなのに…けっこう真摯シンシなオヤジじゃんかぁ…。

「鉱山閉山による解雇カイコに成った、ワシ一族の生活保障の為に、ローハイドさんは財産の全てを売り払ってしもわれ、一文無イチモンナシしに成ってしまわれたんじゃ…」

 ─そこまでやるとは…ただの成金オヤジじゃねぇなあ…。

「住む所さえ追われてしもうたローハイドさんは、娘さんと一緒にワシの家に来て頂いただ。勿論モチロン、命を救ってもらい、当面の生活費まで工面してくれた彼を、見捨てる村のモンは、誰一人おらんかったです…」



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