【04】第1話 : リサー・トン硫黄鉱山〈3〉

「あなた!」

「コットン! 皆は、無事なのか?」

 安心した奥さんの両手が、ローハイドさんの顔をオオう。

「ええ…掘削班、全員無事です!」

「良かった…俺は、全身を強く叩きつけられて、のザマだ…。お前は、皆さんと直ぐに、ここから脱出するんだ!」

 彼と別れた場所に再び駆け付けたが、イマだ起き上がる気配がない。

「ローハイドさん、ここも間もなく危ねぇだ!きついじゃろうけんども、オラ達と直ぐに移動するべえ!」

「スミマセン…キサブローさん。私はもう、一歩も動けません」

「 何を気弱な事を言うとるんじゃ! アンタらしゅうもねぇ! さあ! 若い衆! 手を貸さんかっ!」

 二人のゴブリンが肩を支え、彼は引きずられる形で、の場から移動した。

 足場の悪い坑道内を、皆一丸となって出口に向かう。

「あいたたたっ! 水と岩が、雨みてぇに落ちてらぁ! コリャかなわねぇぜ!」

 仲間のゴブリン達が、たまらず口々クチグチに叫ぶ。

岩盤ガンバンの圧力変化で、き出てるだ! お前達! 気をつけて進むだゾ!」

「いけません! キサブローさん! これ以上は危険です! 私を置いて、早く皆さんで脱出して下さい!」

「バカを言っちぁいけね! 牛眷族ウシケンゾクのアンタでも関係ねぇだよ! もうとっくに、ワシの仲間だ!」

「いえ…でも…。このままでは、皆さんの命も危ない!」

「ローハイドさん…ゴブリンは、ホコり高き一族ぞ! 仲間の為なら、っちゅう特別な能力ジーニアを発動するんじゃ! 遠慮エンリョウなんかいらねぇだ! 他の連中も同じ思いじゃよ!」

 ─ゴブリン達は、皆ニッコリ笑ろうてウナヅいておる。



 ようやく外の光りが、見えて来ただ。

 残す所100mじゃろう。

 もう直ぐ出口じゃ!

『ドスドスドドドドドス!!』

 地面に肉を、打ち付ける音がした。

「たっ助けて~! 誰か助けてくれダニ~!」

 坑道内を、こだまする。

「あの声は、サンキチだべぇ! 自分だけ逃げておいて、今になって助けを求めるなんぞ、とんでもねぇヤツだ!」

 薄暗い、前方に目をらすと、サンキチが岩の上で立ちすくみ、懸命ケンメイに、何かを追い払っていた。

「キサブローさん! あれは、ですよ!」

 水モグラとは、水脈を住みとするモンスターで、中型犬ほどの肉食獣ニクショクジュウじゃ。

 先ほどの音は、水モグラが天井の水脈の穴からい出し、坑道内に落下して来たものだった。

「そいつらは、目と耳がホトンかない! そのまま岩の上に居ろ! サンキチ!」

 水モグラ20匹ほどの群れが、サンキチの方へとセマる。

「ローハイドさんの言う通りじゃ! 連中は、鼻こそスルドいが、強い硫黄臭イオウシュウのせいで、獲物エモノの正確な位置が分からんのじゃ!」

 間もなく、水モグラの群れは、サンキチを岩の両端リョウハシからカコんでしまった。

「サンキチ! 大丈夫ダイジョウブじゃ! お前は、気付かれてねぇだよ!」

「そっそんな事、言われてもダニ~!」

 サンキチの足が震え、今にも岩から滑り落ちてしまいそうだ。

 水モグラは案の定、サンキチの位置が分から無いと見え、シキりに辺りをいでいる。

 ─すると。

「なんだ? 水モグラのヤツ! 急に壁に向かって、逃げちまったダニ!」

「見て下さい! キサブローさん! サラに大きなカゲが数匹、近づいて来ます!」

「いけねぇ! こりゃあマズイ事になっただ! あ…あっモグラじゃ!」

「ううっわわわっ! 赤毛ダニ~! もっもうオラッチ、おシマいダニヨウ~!」

 サンキチが絶叫ゼッキョウするのも無理もない。赤毛は、水モグラと同種じゃが、加えて鼻先から赤外線をハナち、獲物エモノの正確な位置を把握ハアクする。また同時に、動く物なら何にでも喰らい付く。

 鉱山にタズサわる者は誰でもオソれる、獰猛ドウモウなモンスターなんじゃ。

 水モグラが空けた道を、ゆっくりと赤毛が進む。

「誰も動かないで下さい! ヤツは、私達の位置を把握はあく出来ても、実際は、コチラ側が動かなければ、獲物エモノとは判断しません!」

 ローハイドさんの言った通り、赤毛達はサンキチの左右をスルリと抜けて行った。

 赤毛が他の連中に気を取られている間に、サンキチは、再び自分だけ助かるタメ、静かに後退アトズサりした。

 他方、赤毛達は、一直線に、ワシに近づいて来る。

 ─どうしてじゃ?

 誰一人、まったく動いておらんのに…。

 ローハイドさんが、振り向き様、奥さんに叫ぶ。

「コットン! 赤毛達は、お前が標的ヒョウテキだ! イヤ…正確には、だ!」

 赤外線でトラえた腹の子の動きに、赤毛が引き付けられてしまっていたんじゃ。

「あなた! 私は出来るだけ、皆さんから離れます! 」

 そう言う彼女は、ミゴモりの体とは思え無いステップで、岩の上を左右にハネねて行った。

「コットンさん! 危ねぇ! 赤毛がネラってるだあ!」

 それでも彼女は、上手にけながら、赤毛を自分一人に引き付けている。

「このアマ! 赤毛を引き連れて、オラッチに近寄るじゃねぇダニ~!」

『アッチに行け!』と必死に手で払う。

 サンキチは、たまらず坑柱コウチュウへ高く飛び移ったが、この動きをトラえた一匹が、ヤツのシリみ付ついた。

「ぎゃ~! 赤毛にわれるダニ~!」

 引き下ろされまいとするサンキチは、抵抗テイコウしながら、坑柱コウチュウに深くツメを突き入れる。

『バキバキバババババババ!!』

 何と、強固なはずの坑柱コウチュウ亀裂キレツが入り、次々にクズれ始めただ。

「どうした事じゃ! 坑柱コウチュウが、こんなにモロいとは!」

「たっ! タオれるダニ~!」

『ドドドドガガガガシーン!!』

 サンキチは、赤毛と一緒に、坑柱コウチュウ下敷シタジキきとなった。

『ガガガガググググゴゴ!!』

 坑柱コウチュウ同士が、天井を均等キントウササえていたバランスに、変化を生じてしまった。

 よって、えきれ無くなった坑柱が、次々と崩壊ホウカイして行く。

「きゃー!!」

 コットンさんが、崩れて来た坑柱を真面マトモらってしまう。

「コットン!!」

 ローハイドさんの叫びに、返答が無い。

『ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!』

「いけねぇ! 完全に、天井がハズれただあ!」

 坑道内の天井その物が、ワシの頭上へと落ちて来た。

 ─もう助からねぇ!

 おしめぇだ!







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