【03】第1話 : リサー・トン硫黄鉱山〈2〉

 

 ─へんじゃのう。

「先頭へ伝達をしてから、2時間は経つにぃ…一人も帰って来ねぇだ」

 ローハイドさんも、不審フシンに思ったんじゃろう。ふと彼が腕時計をニラむと、坑道内に小さく地響ジヒビきが起こった。

 続けて、水滴が雨の様に落ちる。

 ワシが坑道内の変化をサッして、サンキチのヤツに詰め寄った。

「おい! サンキチ! お前! 仕事の終了を、本当に伝えたんじゃろうな!」

「もっ…もちろんダニ! 坑道内は直接、足を運んで伝達しなければならないダニヨウ! それだけでも時間が掛かるダニ! きっと後片づけに、手間を取られているだけダニ! 」

 しばらくすると、今度は『ハァ! ハァ!』と息を切らせた若いゴブリンがけて来た。

「たっ大変だあ! こっから前方、700m辺りで、落盤ラクバン事故だあ!」

「なっ何だと! 落盤! 状況は?」

 ローハイドさんが叫ぶ。

「落盤で、坑道が完全にフサがっちまったと同時に、天井の水脈にも穴が空いちまったのがいけねぇ! 先頭に向かってドンドン水が流れ込んでらぁ!」

「そんじゃあ、もたもたしてちゃあ、掘削班クッサクハンの連中がオボれ死んじまうだよ!」

「直ぐに現場に行って、フサがった岩をどけましょう! キサブローさん!」

 その場に居た十数名が、救助に向かった。



「コリャ~。ひでえだぁ!」

 落盤現場は、大きな岩でくされていた。

「ローハイドさん! まず、ワシが、手前の岩を撤去テッキョするだよ!」

 ゴブリンのスルドツメを使い、次々とケズクズしていく。

「おい! サンキチ! 何をボーっとしてんだ! 一緒に手伝わんかぁ!」

 後ろで突っ立っているだけの、サンキチを怒鳴ドナりつけた。

「オラッチは、皆と違って腕力が無いダニ…足手まといに成るダニヨウ!」

 ─それは違う。

 ヤツは、この場が危険になれば、我先ワレサキにと、逃げる準備をしているだけなのだ。

 ─すると。

『カチッキン!!』

 掘削クッサクする、爪の音が響く。

オサ! いけねぇ! 珪岩ケイガンに、ブチ当たっちまった!」

 若いシュウが、口々に叫ぶ。

「あぁ…マサしく珪岩ケイガンじゃ! 岩の中でも、硬さが桁違ケタチガいじゃて!」

 ワシが、岩をサスりながら言う。

「ローハイドさん! この大きな珪岩ケイガン邪魔ジャマをして、掘削が出来ねぇだ!」

「キサブローさん…どうすれば…?」

「こりゃあ爆破バクハして壊すしかねぇ! そら! 発破技士班ハッパギシハン! 準備じゃ!」

 素早く火薬の設置が整い、珪岩ケイガン破壊ハカイココロみる。

『ドガガガガガガガググググガ!!』

 轟音ゴウオンヒビくと同時に、真っ白な粉じんが舞い上がった。

 しばらくすると、少しづつ視野が戻る。

「やりましたか? キサブローさん!」

「だっ駄目ダメだぁ…ビクともしねぇ。こんなカタい岩は初めてじゃ!」

 突然、天井と壁の隙間スキマから水がき出す。

「いかん! この場の岩盤圧力が上がって来た証拠ショウコじゃ! 再び落盤ラクバン兆候チョウコウじゃて!」

「キサブローさん! 私がやります!」

 ローハイドさんが、進み出た。

「『やります!』って言った所で、アンタは…?」

 彼は、シャツを脱ぎ捨て呼吸を整える。

 すると、先程まで居た、サンキチの姿が見えない。

 ─思った通り、一人で逃げたのだ。

「私は以前、軍隊に居た時分がありまして、少々、腕に覚えが残っています」

 そう言って気合一つハナつと、大きな角を体ごと、ブチ当てて行った。

 2 、3度くり返すと、小さくヒビは入るものの、岩の破壊までにはイタらない。

『ハァハァハァ…ハァハァハァ…!』

 ─息があがる。

 ローハイドさんが再び息を整え、何やら決心を固めた様子じゃ。

「皆さん! 少々、危ないので、後ろに下がっていてもらえませんか!」

 すると…。

 ─咆哮ホウコウ! 放つ!!

『スクリュー・ドライバー!!』

 彼は竜巻タツマキとなって回転し、大きな珪岩ケイガンに頭から突進する。

『バガキッ!!』

 ローハイドさんの角がハジけ飛び、天井にさった。

 片や、左角が深くめり込むと、クモの巣状にヒビが入る。

『ピキッ! ピキッ! ピキピキピキッ!!』

「危ねぇー! もう崩れるだぁ! ローハイドさん! 早く離れるだよう!」

「いや! まだです! もう一突ヒトツき!」

 そう言うと、サラに深く突き入れた。

『ガラガラゴゴゴ! ドドドドババババ!』

 珪岩が崩れ、そこからの水がタキの勢いでオソいかかる。

『グシャッ!』

 水圧で、吹き飛ばされたローハイドさんが、壁へと叩きつけられた。

「わ…私にカマわず…掘削班の救助を…!」

 彼がアエぐ様に叫んぶ。

「分かっただ! ローハイドさんは、ここで休んでてけろ! 後の事は、ワシマカせておくだ!」

 そう伝えると、胸まで水にヒタりながら坑道内を進んだ。

 先頭の掘削班クッサクハンでは、大きな岩の上に全員で登り、空気の確保をしていた。ローハイドさんが珪岩ケイガンクダいた、おカゲで水位が下がったんじゃろう。サイワいにも負傷者は居なかった。

「水脈に穴が空いた為に、岩盤ガンバンユルんじまっただ! いつ天井が落ちても不思議じゃあねぇ! 一刻も早く、ここを出るんじゃ!」

 ワシは、手招テマネきをして、皆を誘導ユウドウした。

「キサブローさん! うちの人は皆さんと一緒では有りませんが、無事なのでしょうか?」

 妻のコットンさんが、必死にウッタえる。

「あっはっはっ! ローハイドさんの事じゃろう? 彼は、珪岩ケイガンよりも頑丈ガジョウな体じゃけんのう。心配なんか、これっぽっちもいらんよう奥さん!」

 ワシは、ワザと必要以上に笑い、彼女を安心させた。








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