【15】第1話 : 太古の森〈3〉

「ザマァ見やがれってんだい! トカゲの黒焼きになっちまえ~!」

 悪態アクタイをつくゼンが再び、全開フル・スロットルで爆走バクソウを始める。

 大木が前方を容赦ヨウシャなくフサいでいても、ブースターの、おカゲで難なく飛び越えた。

 片や、ティラノサウルスも、ハードル走の様に大跨オオマタぎで、セマり来る。

 ゼンが、左サイドミラーをノゾきながら叫んだ。

「ヤブザキ! アタシの『』の射程距離シャテイキョリは、せいぜい30mだ! だからよう! ヤツを充分に引き付けた所で、仕留シトめるゼ!!」

 俺の左肩を射撃台シャゲキダイにすると、彼女は前を向いたまま、自分の左手を置く。

「ブースターが終わったら、距離がチヂまって来たぞ!」

 俺が後ろを振り返り報告すると、アタシの出番とばかりに、先程の左手でピストルを真似マネる。

 ゼンは、サイドミラーを覗いたまま、叫ぶ。

「シューティング!」

 すると、手からトルゴが、一直線にハナたれ、ヤツのヒザや腰に当たる。

 しかし…。

「チキショー! アタシのシューティング・スターじゃ、針穴ハリアナぐらいの銃創ジュウソウしか作れない!」

「しっかり、命中してるのに…」

「ああ! 貫通力カンツウリョクはあっても、破壊力ハカイリョクがねぇんだ! 動きを、一瞬だけ止める事は出来ても…チキショー! 直ぐに距離をめて来やがる!」

 すると俺達は、見通しが効かない急な右カーブに、さしかかった。

 突然、あろう事かティラノサウルスは、追跡ツイセキめ道から外れてしまう。

「ゼン! ヤツの姿が消えた!」

「そんなバカな! あのトカゲヤローは、何考えてんだ! 油断すんなよ! ヤブザキ!!」

 俺等オレラ二人で、を注意深く監視カンシする。

「きゃー! 先生! 前!」

「わぁー! オネェちゃん! 前!」

 子供達が叫ぶ。

 なんと右カーブの終わった場所で、ティラノサウルスが、大口を開けて待っていたのだ。

「ダメだ! ヤブザキ! 横に、すり抜け出来ねぇ! 左右の岩に衝突しちまう!」

「しまった! ヤツは、近道を知っていて、この場所にサソいこんだんだ!」

 ティラノサウルスまで、10m。

「チキショー! 突っ込むぞ! みんなー! 頭を下げろー!」

 と、ゼンは叫ぶと同時にギアチェンジを試みる。

 一気に3段階、車高が沈み込み加速した。

『ガゴガガガガッ!』

 バイクの腹底が激しく、地面をケズる。

 二足恐竜のマタの間を、すり抜けると、ヤツは勢いよく、地面に大口をタタきつけた。

 同時に、ティラノサウルスの前足マエアシが、バイク後部をカスり、そのままナンバープレートが、カラカラと遠ざかる。

「ケンボー! ブリオ! ケガは無いか?」

 俺は、子供達が乗るサイドカーに追いカブさる様にしてタテとなった。

「怖かったけど…ブリオも、ケンタローもケガは無か…。せっ先生! 血…」

 ブリオが、俺の左肩を指さす。

 肉食恐竜のオノの様な前足に、肩口をえぐられてしまったのだ。

 ─子供達は無事か…良かった。

「ヤブザキ! 運転代われ! アタシに傷を見せてみろ!」

 そうゼンは言うと、俺に左右のハンドルをニギらせ、後ろ向きに体勢を変える。結果、バイクの上で俺と向かい合わせになった。

「随分と派手にやられたなぁ…ヤブザキ」

 俺のジャケットを慎重にめくって確認する。

「イテテ…優しく頼むぜ。 ゼン」

ワリぃ…。でもよう…ヤブザキの左胸から肩まで、やられてるぜぇ…」

 ゼンの胸の谷間が、目の前に迫る。

「ヤブザキてめえ! よそ見してねぇで、ちゃんと前見てろ!」

 ─バレてたかぁ。

「医者じゃねぇから専門的な事は、分からないけどよう、傷口の縫合ホウゴウぐらいは、トルゴ使いの能力ジーニアを持つアタシにだって出来るさっ!」

 そう言うと、大きく開いた切創セッソウを両手で包むようにソえると、テノヒラからの細いトルゴが器用に切り口をフサいでいく。

 縫合ホウゴウしたトルゴにも、自然と血がにじむ。

「素人仕事だが、取りあえず止血は出来たな」

「ぜいたく言うんじゃネェ! ヤブ医者!」

「まぁ…ゼンにしちゃあ、上出来だ!」

「 ほらほら! ヤツのお出ましだゼ! 全く、しつこいネェ…ありゃあ…メスにモテないタイプだぜ!」

 再び、ティラノサウルスがオソいかかる。

 ゼンは、そのまま後方を向いた体勢で、今度は、俺の両肩に手を置き『シューティング・スター』を両手で連射する。

 だが…。

「くっそう…! 一発も当たらねぇ! 左右ジグザグに走って撹乱カクランしてやがる!学習してるぞ! アンニャロー!」

 ティラノサウルスは、上手に狙撃ソゲキけながら、どんどん近づいて来る。それを察した俺が、アトミック・ブースターを噴射フンシャした。

 急加速の勢いの為に、ゼンの胸の間にハサまれてしまう。

「ブースターは、これ最後一発だぞ!」

「分かってる! ゼン! 俺に考えがあるんだ! 時間稼ジカンカセぎがしたい」

 大きな、おっぱいの間から、かろうじて声を出す。

 1分程のブースターを使い切ると、俺は急ブレーキを掛けた。

「おい! ヤブザキ! テメェ! 距離がせっかく取れたのに、止まってどうすんだよ! それに、こんなにセマい道じゃぁ、どこにもカクれる場所がねぇだろがっ!」

 ゼンが、マジギレで食いかかって来る。

「ゼン! これでイイんだ! 俺は、と狭い場所を選んだんだ。それにバイクを置いて、何処ドコかにカクれようにも、血塗チマミれの俺が一緒じゃあ、直ぐに血のニオイを嗅ぎつけられてしまう」

「でもよう…ヤブザキ…ここからどうやって…!」

 と、彼女は言うのをめ俺の右手を見た。

「ヤブザキ…お前…をやる気なのか!」

「ああ! だから少々時間が欲しかったんだ。俺の準備は出来た。 ゼンと合体攻撃だ!」



 







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