【14】第1話 : 太古の森〈2〉

 森のカゲからゆっくりと、ティラノサウルスが姿を現す。恐竜の王様たる堂々とした風格だ。

『グルル…シュウ…シュウ』

 しきりに、辺りのニオイをいでいる。俺達を探しているのだろう。

 カスかな残りガを頼りに、どんどん近づいて来る。

 眼前1mに、ティラノサウルスがセマった。

「いいか…皆…このまま静かに、身動きするな。ヤツの鼻と耳はスルドいが、目が極端キョクタンに弱い。このまま、やり過ごせる」

 俺は直ぐブリオに、ER-Bを発動させ皆をドーム内に避難ヒナンさせていた。これで、ニオイは外に一切漏れない。

 ティラノサウルスは、大きな横顔を寄せて、半透明のドーム内をウカガう。

 ─生きた心地がしない。

 執拗シツヨウに鼻を何度か押し付け、ニオイを嗅ぐが、無臭の為に獲物エモノとは判断出来なかったのであろう。間もなくキビスを返した。

「ヤブザキ。やっと、エンジンプラグがまったぜ!これで、脱出できる」

 そう言うと、ゼンは胸のポケットに手を入れる。

「無い! カギが! バイクの鍵が!」

 ひそひそ声だが、ドーム内では返って反響ハンキョウしてしまう。

『しーっ!』

 ブリオとケンボーは、ソロって口に指を当てる。

ワリぃ…。でも、どこに落としちまった…」

 すると薄暗い中を、目を凝らしていたケンボーがササヤく。

「ゼン姉ちゃん…。どうやら向こう側の、木のだよ」

 ゴブリンの目は、たとえヤミの中でも、ハッキリと見えるのだ。

 小さく光る、金属製の物が落ちている。

「くっ…う。さっきアワてて避難した時に、スっ飛んじまったんだ…。でも壁から外に出る訳にはイケねぇ。ヤツが、アタシ達のニオイをぎつけちまう」

 ブリオが、俺の手をニギって来た。

「先生…。ブリオコワいよう…」

 ブリオのフルえが伝わる。

「心配要らないよ。ブリオちゃん。ヤツがアキラめて、この場を去るまでの少しの辛抱シンボウだ」

 ブリオの瞳から、今にでも涙がコボれ落ちてしまいそうだ。

 それをジッと見ていたケンボーが言う。

「オイラが、バイクのカギを取ってくる!」

「ケンボー! 先生は子供に、そんな危険な真似は、させられない!」

「そうだ! 無茶ムチャせ! 後で、アタシが取りに行くから!」

 ケンボーは、俺達に手を見せる。

「オイラ、ゴブリンの子供だから穴掘りは得意なんだ!」

 確かに、ゴブリンは元来。地面に穴を掘り、住居にして来た種族のタメテノヒラの皮は厚く、ネコ科動物の様にツメを出し入れ出来る。

 ケンボーは、言うが早いか、あっという間に本人がすっかり入ってしまう、穴を掘ってしまい、その中へと消えてしまった。

「おっおい! ケンボー! 帰ってこい!」

 俺は警戒ケイカイして、大声では叫べ無い。

 ─ティラノサウルスの、去って行く足が止まった。

 こちらに振り向くと、頭を地面に近づけ何かを探っている。つまり、ケンボーが地面を掘り進む音に反応したのだ。

「まずいぞ! ケンボーが気付かれた!」

 慎重に巨体を移すと突然、地面の中へ、大きな口を突き入れた。

「うわぁぁぁぁ」

 ヤツの歯に、服の襟元エリモトを引っけられたケンボーが、叫びながら現れる。

 彼は、宙吊チュウズリりに成りながらも、なお抵抗を見せる。

「オバケトカゲなんかに、食べられてたまるかぁ-!!」

 岩盤ガンバンも掘りクダく、ゴブリンの爪で、ティラノサウルスの下あごに渾身コンシンの一撃を喰らわす。

 さすがのも、予期せぬ反撃を喰らい、そのまま獲物エモノを大木に叩きつけてしまった。

『ドスン!』とケンボーが尻もちを着いたに、鍵はあった。

 彼はサッと拾い上げ、トンネルに滑り込むと、直ぐにドーム内に頭を出す。

「ケンボー! 一人で、こんな無茶をして!」

 俺は、体を引き上げてやる。

「ケンタローって、結構…勇気があるのね。ブリオ見直しちゃた…」

 ブリオが、恥ずかしいそうに言うと。

「オイラ達、ゴブリン族は、大切な仲間の為なら、いつでも『勇気』という能力ジーニアを発動できる種族なんだと、爺ちゃんが良く話してくれるんだ。ブリオだって、ER-B を発動出来るなんて、スゲーよなぁ…」

「鍵を、ありがとうよ! ケンボー! アタシからもレイを言うぜ。 大したガキンチョだぁ」



 ティラノサウルスは、しばらく獲物の行方を探していたが、直ぐにトンネルの出口から俺達のニオイをトラえた。

 再び、ヤツが接近して来る。

「今の内に、ズラカルぜぇ!」

 ゼンが、キックスタートで、バイクを始動させる。

「見つかったぞ! ゼン! ヤツが突っ込んで来る!」

 バイクは、ドーム壁を背負ったままで急発進した。

 見た目は、足の速い亀の様だ。

『ドガがガーン』

 ティラノサウルスに、後ろ向きで衝突する。

 機動スイッチが逆に入っていた為に、思いっ切り、バックしてしまったのだ。

『グルル…グルル…グルル…』

 ヤツは、大きな鼻息で、ドームの屋根を2度、クモらせた。

 ─かなりの興奮コウフン状態だ。

「やっぱり…怒って…らっしゃいますよね…」

 肉食恐竜と俺の目が合う。

『グルヴァォ-!!』

 雄叫オタケびを上げると、ドームに噛み付き、放り投げてしまった。

「逃げろ-! ゼン!!」

「今、やってるぜぇ!!」

 再び機動スイッチを前進に入れ換える。

『ガグン!』

「バイクの後部に、食いついた!」

 俺の直ぐ背中で、鉄格子テツゴウシの様な歯がギリギリと音を立てる。

「おりゃぁ~! 本日2度目のアトミック・ブースターじゃぁ~い!!」

 エンジンの排気口より、ジェット噴射フンシャの炎が上がり、ティラノサウルスの口の中で、ブースターが炸裂サクレツする。

 さすがのヤツも、思わず大口を離した。










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