【12】第1話 : 天国への階段〈1〉

 サウス・シルバーナの大通りを一歩、路地裏に入ると、そこは坂と階段が入り組む下町『ゴールド・ヒルズ』である。

 この地区は同名、ゴールド・ヒルズと呼ばれるオカ斜面シャメンに作られ、頂上の『セント・スワン大聖堂』に向かい、それぞれ魔物達の生活が形成されているのだ。

 また、ここには車などの乗り入れ想定は無く、通常は生活者が徒歩でハバセマい、急な階段や坂道を昇り降りしている。

 日の傾いたこの時間帯は、美味しそうなニオいと、団らんを囲む子供達の笑い声が聞こえていた。

「どいた! どいた! どいた~!」

 ゼンが、大声で叫びながら斜面を、どんどん加速して行く。

 それは『レオパルドン』バイクの、サスペンションとエンジンが優秀なだけに可能なのだ。

 下から突如トツジョ現れたバイクに、道ゆく者は左右の壁に飛び退く。

 そこに、タイヤが刻む石段の欠片カケラがバラバラと続いた。

 「ゼン! 見ろ! 前方のY字路。右側からの一団が来るぞ!」

 返答が無い。

 どんどん近づいている。

 ─おい! ブレーキをけ無いのか? ゼン!

 こちらは勢いがついている。

 止まれないのだ。

「このまま右に、突っ走るゼェ~!」

「バカ! せ! 右に一団がぁ…!」

「一気に、頂上に向かうんだよー!」

 確かに、頂上への道は右側だ。

 ─ナゼ頂上へ?

 ゼンが右脚でギアチェンジを入れると、バイクの車高シャコウが一段階低くなり加速する。

「ガキンチョ達! ツカまってろ~! おりゃ~っ!」

 ゼンが、ハンドルをに切る。

「きゃ~! サイドカーが、赤レンガにぃ~!」

 ブリオが叫ぶ。

『ガゴゴンン!』

「ヨッシャー! 衝撃ショウゲキで左車輪を浮かして、『・片輪走行』じゃぁ~い!」

 バイクが右片輪で立ち、左サイドカー側は壁をツタって走る。

 ─何だとぉ! 一団の左壁ヒダリカベを、り抜けたぁ。

 修道女達は、驚きのあまり、その場にへたり込んでしまう。

「ケガ無かったかぁ~! オッパイ・シスター! 今週の日曜礼拝ニチヨウレイハイは、必ず行くからよう。それまで懺悔ザンゲは、オアズケだぁ~!」

 一団の先頭に立っていたのが、オッパイ…いや…『マザー・オルド』である。

 彼女は俺と同じ、ソルト・マウントの住人であり、また村、唯一の教会『サントリオ聖堂』のシスターでもある。

 歳は、30代後半だと聞いてはいるが、そのケガれなき清楚セイソな美しさはマリア様の再来と、村人の口々にウワサされるほどだ。

 俺も同感である。

 しかし…。

 誰が、彼女を形容しても、ゼンが呼んだ様に『オッパイ・シスター』が、一番シックリ来るに違いない。

 いや…。

 どうやら今週の礼拝は、俺も行かなくてはならないようだ…。

 懺悔ザンゲしよう。



 頂上の大聖堂へと続く、一本の直線階段が見えて来た。

 その急斜面と、2500段と言う長さの為に、オカから空をツラヌく様だ。

『天国への階段』と、土地の者が呼ぶに相応フサワしい。

 ─モットも、直ぐに、その名前自体を体感する事となる。

 再び、ゼンがギアチェンジをココロみる。

 今度は二段階、車高が沈みサラに加速した。

「ゼン! 頂上には手前の大広場と大聖堂しかないぜ! 加速する必要ないだろ!」

 スピードに乗って、グングンと登って行く。

ハナっから頂上には、用事はねぇさぁ! アタシが用があるのは、こっちの天国への階段だ!」

 セント・スワン大聖堂は、その名の通り、白鳥が羽を広げた姿に、たたえられる美しい建物である。

 その手前の大広場からは、サウス・シルバーナの街を、一望できる観光名所でもあるのだ。

 片や、大聖堂の背後は大きなガケであり、ハルか下方には『アイランド・リバー』と呼ばれる大河タイガが流れる。

「アタシが、ここまでブレーキ無しの全開スロットルで、来た理由が分からないのかい?」

「バカ! バカ! ヨセ! ヨセ! ヨセ!」

「アタシの計算だと、このスピードを保っておいて…」

「いくら、レオパルドンのエンジンが優秀ユウシュウでも、ムリだ! せ!」

「へっへ~ん! だから秘密兵器を使うのさっ! これさえありゃあ、アイランド・リバーだって越えられる!」

 彼女は、右ハンドルを握る手元の赤いボタンに、親指をスエえた。

「アトミック・ブースター! ON!」

『ウィーン…キュルキュル…ゴゴーゴー!』

 今回、小型原子力・ジェットエンジンを、バイクに初めて搭載トウサイした。

 1分程の噴射フンシャを3回打つ事が出来るそうだ。もちろん、の力作だ。

 俺達は、ロケットとなり発射台を駆け昇る!

 スサまじい重力が肺を圧迫する。息が出来ない。

「ゼン! お前の計算で、本当にアイランド・リバーを飛び越えられるんだろうなぁ!」

 息もダえに、俺が聞く。

「計算…? 何の事だ! アタシの数学の成績は、毎回、落第点だ! そんなつまらねぇ了見リョウケンなんか持ち合わしてねぇさ! 要は覚悟だよ! 覚悟で、飛び越えるんだ!」

「バカ! そんないい加減な目測に、命をけられるかぁ!」

「理屈じゃ到底、時間が間に合わねぇ! だったら、こちら側が身分不相応なカケけに出なきゃなんねぇだろ!

 それに、大きくけるにしたってよう…アタシ達にはぐらいしか、持ち合わせてねぇだろうが!」

 ─ゼンの言う通りだ。

 だが、これは無謀ムボウすぎる。





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