【11】第1話 : サウス・シルバーナ〈4〉

「カクー! アタシの頼んどいたヤツ、整備出来てんだろうナァ」

「パイセン! もちろん。整備完了済みであります!」

 カクが、敬礼ケイレイで答える。

「これから、ノース・ビレッジまで、ひとっ走りしてくらぁ」

「エ~いいなぁ…。私も、ごいっしょしますよう。パイセ~ン」

「お前は、これから夜勤だろ。それに、ちょいと、ひと勝負に成りそうなんだ。遊びじゃねぇ!」

「大変! 失礼致しました! パイセン! どうぞ御武運ゴブウンを!」

 カクが再敬礼をする。

「お土産ミヤゲ、買ってきてやっからよ!」

 喜んだ、カクが手招テマネきをして、猫ポーズを取る。

「皆! 1階のガレージに、集合してくれ! アタシのが、お待ちかねだ!」



「スゲぇなぁ…これ『RX-78型・レオパルドン』じゃねぇかぁ…」

 俺が感嘆カンタンした。

 ガレージの中央に、旧式ではあるが良く整備されたサイドカー付きバイクが、出動待ちをしている。

「見ての通りの旧式の軍事用バイクだけどよう。所々、チューンナップをホドコして、カクに整備させておいたんだよ」

 ゼンが、誇らしげに、チューンナップの内容や、今回、初めて搭載トウサイした秘密兵器についての話をしてくれるが、機械オンチの俺には、サッパリ分からない。

「そもそも、何で自分で、整備しないんだよ」

 俺がイブカしげに、タズねた。

「ああ…その事か。 アタシ、昨日キノウまで、免許停止を喰らってたんだよ。そんで免停メンテイが明けると直ぐに、また再び免停に成るから、かれこれ…1年は、コイツに触ってねぇのさっ」

「おい! 急にそんなんで乗れるのか?」

 ─なんだか、イヤな胸騒ムナサワぎがする。

「平気!平気! コイツとは長い付き合いだ。お互いの肌の感触は忘れてねぇよ。そこら辺の男なんかよりも、ズッとハードな持ってやがるゼ!」

「『ハードなピストンエンジン』って…先生…どう言う意味…?」

 ブリオが、首をかしげながら俺のスソを引く。

「ブリオちゃんは、まだ知らなくてイイの…」



「さぁさぁ、皆! 乗った乗った! 子供達は、サイドカーへ。ヤブザキわぁ…アタシの後ろだ」

 サイドカーの背もたれ側にはブリオが。その前に、チョコンと小柄なケンボーが膝を抱えて座る。

 運転手は、もちろんゼンで俺はその後ろに陣取る。

『ボコム…ボコム…ボコム…ポンポンポン』

 勢いよい良く3度キックスタートを試みると、直ぐに心臓の鼓動コドウ打ちの様なエンジン音へと移る。

「ヤブザキ! バカ! お前! 後ろから抱き付くなよ!」

「いや! だってツカまる場所無いだろうよ?」

 俺が、言い訳してみせると。

「アタシの腰だよ! 腰! 腰をツカんでおきな! ギャハハ…。バカ! ツカんでどうするんだよ。 くすぐってぇだろうが! もっと下! 下! 腰だ!」

 ─うぅぅん。

 ゼンの腰は思っていたよりも張りがあり、指先に弾力を感じる。柔らかく肉付きがイイ。

「よ~し! 皆! 準備は出来たなぁ! ブッ放して行くかんなぁ! シッカリツカまっておけよー!」

 ゆっくりと、ガレージゲートが上がる。

 西日が鋭角エイカクに差して来る。

 ゼンが一声イツセイ

「始めっから! 全開フル・スロットルじゃ~い! イィィーハーァァ!」

 バイクは轟音ゴウオンと共に石畳イシダタミの町を走り出した。

 けたたましい、サイレンの音と、道行く人々の叫び声が合図と成って、次々と前方進路が空いて行く。

 サウス・シルバーナは、石造りの重厚な建物が並ぶ、美しい街だ。

 こんな渦中カチュウに居なければ、今ごろは、ゆっくりと散歩をしながらコーヒーを頂いているだろう。

 ─もちろん、そんな余裕は微塵ミジンも無い。



 直ぐに街外れまで来た。

 ここまで来れば、街と外界を唯一結ぶ橋『セブン・ブリッジ』は目の前だ。

 だが、ここで…。

「おい! おーい! ダメだ! ダメだ! セブン・ブリッジは、今、歩行者しか通れねぇ! 橋は補正ホセイ工事中だぁ!」

 橋工事の職人さんが紅白の旗を、バツにかざしながら、バイクで突っ込んで来る俺達に大声で叫ぶ。

「ゼン。 まずいぞ! 外界とを結ぶ橋が通れない!」

「ケッ! アタボウヨ! こんな事はハナっから、り込み済みだ!」

「そりゃあどうゆう了見リョウケンだ…ゼン! ここしか通れる道は無いんだぞ!」

 ─彼女は、相変わらず、全開フル・スロットルで速度を弱めようとしない。

「バカ! ゼン! よく見ろ! 橋の中央は補正工事の為に、大きな穴が空いてるぞ!」

 ─このバイクじゃあ、重みで崩れ落ちてしまう。

「だからヤマザキは、いつまで経ってもザキなんだよ!」

 ─なんだと! 黙って言わせておけばぁ!

「少しは、頭つかいな! まだ6時過ぎにしちゃぁ日が長げぇがよ。セブン・ブリッジを通っては、えらい大回りのルートだ。直ぐに日が暮れちまうぜ!」

 ─そんな事は、始めから分かり切った事だったろ 。

「だからよう! アタシの覚悟は、ここからだぁ! 見ときなぁ!」

 と、バイクを飛びけた職人達には目もくれず、右に大きくハンドルを切る。

 それは石畳イシダタミを斜めに滑りながら路地裏へと、吸い込まれて行った。

「わーっ! 何じゃ~! 突然! バイクが~ぁ!」

 自前のエプロンでリンゴを磨いていた、ガイコツ爺さんが壁へと、飛び付く。

 俺達は、そのまま入り口の果物屋台クダモノヤタイに正面から突っ込んでしまう。

『ガガガガ! バゴーン!』

「おおいっ! ナニ…何事…だ! ヤヤッ! また…お前か! ゼン! 俺の商売道具をぶっ壊したら気が済むんだ! このアマ~!」

 直ぐさま、罵声バセイが後ろに遠ざかる。

「悪ぃ~! 爺さん! 急いでるんだ! 弁償代ベンショウタイは全部、サウス・シルバーナ警察に請求してくれ~!」

 ─ゼンが、何度も免停を喰らうのが分かる気がする。

 ハカらずも、今の屋台への衝突で、果物が各自にって来てしまった。

 ケンボーの頭上に、サクランボ。

 ブリオの両手には、イチゴ。

 ゼンの胸には、バナナ。

 俺の股間には…。

 マンゴーかぁ…。

 ─偶然グウゼンだけど、意味ありげ。



 


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