【10】第1話 : サウス・シルバーナ〈3〉

「ゼンさぁ~ん。ゼンさん!

 さっきから、電話鳴りっぱなしじゃナイ。早く、取ってちょうだい。うるさくて、しょうがないわよ!」

 課長カチョウが、窓側の席から注意する。

 彼は常に、オネェ言葉だ。

「外線の5番よ! さっさとしてちょうだい!」

 金切り声で、アオる。

「ヘイ、ヘイ、分かりましたよ。取りゃいいんでしょ…取りゃあ…人使いが粗いんだよ、あの筋肉オヤジ!」

「何か言いましたか! ゼンさん!」

「いいえ~何も申し上げておりませ~ん」

 カクが首にカラんだまま、電話を取った。

「ハイ! サウス・シルバーナ警察署!

 あぁどうなされ…ハァ…ハイ…居ます…。えぇ…ハイ…直ぐに代わります…。ヤブザキ…お前にだ!」

「えっ! 俺に!?」

 電話は、ルージュからだった。

「良かった、まだ、コチラに居らしゃったんですね。先生!」

「どうした? こんな所まで電話を使って」

 ルージュが早口で、まくし立てる。

「ゴブリン村のキサブローさんを、御存知だと思います」

「あぁ…良く知ってるとも。偶然だけど…今、彼のお孫さんに会っていてね。どうしたんだ?」

「家族の方の説明ですと、少し前からキサブローさんの容態が急変し昏睡コンスイ状態だと、ヤマザキ診療所に連絡が入りました」

「おい待ってくれ! 周りの病院はどうしたんだ? ウチの診療所はゴブリン村…つまり『ノース・ビレッジ』まで、かなり遠いじゃないか 」

 受話器かられる声が小さくなる。

「あの…。言いにくいのですが…周りの病院の先生方は、ノース・ビレッジには、往診オウシンに行きたく無い御様子で…」

「おい! それじゃ…キサブローさんを見殺しにしてしまう気なのかぁ? アキれた話だなぁ。チクショウ!」

 ジュース缶が、床に落ちた。

 ケンボーが戻ったばかりの入口で、俺の話しを立ち聞きしたのだ。

「爺ちゃん! 爺ちゃんが大変なのか? 爺ちゃん! 死んじゃうのか? 先生!」

「ああ…ケンボー。爺ちゃんの容態が悪くなっちまったそうだ。でも大丈夫だ! 先生が今から直ぐに駆けつけるから。大丈夫!」

 ─しかし…

 救搬竜エル・ドラゴで俺をサウス・シルバーナまで迎えに来るだけでも、30分は掛かる。

 そこから、ノース・ビレッジまで、40分は必要だ…。

 ─どうする。

 俺の、いつにない真剣な表情をサッしてくれたのだろう、ゼンが話しかけて来た。

「おい! ヤブザキ。救搬竜エル・ドラゴを使って、ここから40分で、ゴブリン村に行こうって魂胆コンタンだろう? そりゃあ甘いぜぇ! それに、お前の『』を使おうってえのも、お見通しだ。あの谷はが重装備を固めて、初めて通れる危険ななんだぜ!」

「じゃあ! 他に方法は…?」

「真っ当に考えれば迂回ウカイして、標高の高い『マウント・フェニックス』を越えなくてはならねえだろうよ。もちろん、それをルートに入れてしまっちゃあ、どんなに早くても、2時間以上は軽く掛かっちまう」

 絶望的な状況に、刻々と時間だけは過ぎて行く。

 ゼンは、不安で半泣きのケンボーを静かに見つめるとクッと表情を変えた。

「なぁケンボー! ゼンお姉さんは、綺麗キレイで優しいだけじゃないんだぜぇ! 腕もかなりイイんだ! 本当だぜぇ!」

 涙をきながら、ケンボーが少し微笑む。

「ヤブザキ! アタシに、ちょいと考えがある。上手く行けば、ここから20分でノース・ビレッジに着くぜ」

「おい本当か! ゼン! どんな方法だよ!」

 もはや、俺の声は彼女に届いていない。

 ただ、覚悟を宿したヒトミだけが俺をノゾいた。

 彼女は今、命を懸けている。

 この短時間で、決断をしたのだ。

 それだけで返答は充分だった。

 ─ありがとう…ゼン。

 俺は、シロを直接、ノース・ビレッジに急行させる様、ルージュに伝え、直ぐに電話を切った。






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