cluster amaryllis-探偵事務所と記憶を失くした幽霊-

旦開野

第1話

登場人物

札木玲花(さつきれいか)……幽霊が見える女子高生。16歳。幼い頃に両親を

            失い、叔母の由佳に育てられる。

            最近取り憑いたビャクに手を焼いている。

ビャク……玲花に取り憑く16歳くらいの見た目をした幽霊。生前の記憶と、

     なぜ玲花に取り憑いているのか自分でもよくわかってない。

封戸万次郎(ふごまんじろう)……封戸探偵事務所の所長。56歳。紳士で優しいおじ

              さま。由佳とは遠い親戚らしい。

霊二美(みたまつぐみ)……封戸探偵事務所の助手。18歳。冷静で真面目。

一香(いちか)……封戸探偵事務所に取り憑く謎の幽霊。19歳。







(人気のない路地。少女が一人、歩いているが、まるでなにかと話をしているように独り言を言っている。)

ビャク:ねぇ、どうしても行かなきゃダメ?

玲花:由佳ちゃんの頼みだもの、断るわけにはいかないでしょ。

ビャク:由佳さんが君の育ての親で、とても恩を感じてるのはわかるよ。だけどさ、別にここまでしなくたっていいんじゃない?これじゃ、ただのパシリだよ。

玲花:いいじゃん、お手紙を渡しに行くくらい。っていうか、どうしてあんたはそんなに行きたくないの?

ビャク:だって……なんか気味悪いんだもん。

玲花:幽霊なくせによく言うわね。そんなに行くのが嫌なら、私から離れればいいじゃない。

ビャク:それ本気で言ってる?僕が君から離れることができないの知ってるでしょ?なぜだかわからないけど。

玲花:ほんとそれが不思議なのよね。いい加減、自分のこととか、なんで私に取り憑いているのかって思い出せないの?

ビャク:残念ながら全く。僕は一体いつになったら成仏できるんだ?

玲花:そんなこと私が知るわけないじゃない。私は幽霊は見えるけど、そんな成仏したり、お祓いしたりする力は持ってないから。



(玲花とビャク、大きな屋敷の前で立ち止まり、標識を見る。)

玲花:封戸(ふご)探偵事務所……ここね。

ビャク:ねぇ、君のおばさんは探偵事務所なんかに何の用なの?

玲花:探偵に用がある、というよりかは親戚に用がある口振りだったよ。なんでもここの所長さんは由佳ちゃんの遠い親戚らしい。

ビャク:遠い親戚、ってことは君とも血が繋がっているの?

玲花:さぁ?繋がってたとしても、由佳ちゃんと遠い親戚なら、相当血が薄そうだけど。会うのは初めてだし。

ビャク:……お手紙だったら郵送すればよかったんじゃないの?

玲花:今日中に届けて欲しいんだって。

ビャク:じゃあおばさん本人が届ければいいじゃん。

玲花:由佳ちゃん忙しいの知ってるでしょ?

ビャク:じゃ、じゃあ、スマホを使えば……

玲花:ビャク。

ビャク:だってさぁ。僕ここ入りたくないんだもん。すごく嫌な感じだ。

玲花:由佳ちゃんは意味のないことを私に頼んだりはしないわ。そんなに嫌ならさっさと用事済ませてお家に帰ってあげるから、

玲花:少し我慢しなさい。

ビャク:はーい。

(玲花、探偵事務所のインターホンを鳴らす。事務所の扉が開き、二美が現れる。)

二美:どちら様でしょうか?

玲花:あ、あの、札木(さつき)玲花です。由佳ちゃん……じゃなくて札木由佳に頼まれて……

二美:あぁ、聞いております。さぁ、中へどうぞ。封戸所長が事務所でお待ちです。

玲花:お、お邪魔します。

(二美、玲花を封戸の部屋へと案内する。)

二美:所長、札木玲花さんがお見えです。

万次郎:案内ありがとう、二美(つぐみ)くん。君が札木くんだね。話は由佳くんから聞いているよ。

玲花:は、初めまして。札木玲花です。

万次郎:封戸万次郎だ。封戸探偵事務所の所長をしている。由佳くんがお世話になっているみたいだね。

玲花:いえいえ、由佳ちゃんには私の方がお世話になりっぱなしで。

万次郎:由佳くんのお兄さん、つまり君のお父さんだね。彼は私の教え子みたいなものでね。由佳くんもよく顔を出していたものだ。

万次郎:懐かしいね。

玲花:父も探偵だったんですか?

万次郎:まぁそんなところだ。本当に、惜しい人を亡くしてしまったよ。おっとすまんね、娘さんの前でそんなことを。

玲花:いえ。物心ついた時には由佳ちゃんに育てられていたので。聞いてもピンとこないというか……

万次郎:そうだよね。2人が亡くなった時、君は随分と幼かったね。

玲花:小さい頃、私はあなたに会っていたんですか?

万次郎:あぁ。お葬式の時に君を見たよ。玲花くんが覚えてなくても当然だがね。あぁ、少々昔話が過ぎたようだ。老人は話が長くて仕方ないね。

玲花:いえ、そんなことは。あ、そうだ。由佳ちゃんからお手紙を預かってて。(手紙を差し出す)

万次郎:おぉ、わざわざすまんね。せっかくきたんだから、そちらの部屋でゆっくりして行きなさい。二美くんにお茶を持って行かせるよ。

玲花:そんな、お気遣いなく。

万次郎:今日は仕事が少ないんだ。あとで私も行くから、少しだけ、老人の話し相手になってはくれないか。

玲花:は、はぁ……

万次郎:二美くん。

二美:はい。

万次郎:玲花くんを隣の部屋へ案内してくれ。あとお茶も持っていってくれるかい?

二美:かしこまりました。さぁ、玲花さん。こちらです。

(玲花、二美の跡を追って部屋を出る。しばらくの沈黙。万次郎の元に一花がやってくる。)

一香:所長、あれが言っていた例の女の子?

万次郎:あぁ、間違いないよ。

一香:なんか変なものを連れているね。

万次郎:あぁ。あちらもどうにかしないといけないね。

一香:アタシにできることは?

万次郎:彼女をしばらくの間、この屋敷から出さないでほしい。

一香:なーんだ、簡単なことじゃん。そのくらい、任せてよ。

万次郎:さすがだね。でも油断しちゃいけないよ。

一香:わかってるって。

(一香、部屋から出ていく)

 



(所長室の隣の部屋。二美がティーセットをテーブルに置く。)

二美:それでは、所長のお仕事が済むまで、少々お待ちください。

玲花:ありがとうございます。

(二美が部屋から出ていく。)

ビャク:ねぇ!!どうしてまだこの屋敷にいるのさ!!僕はさっさと帰りたいって言ったじゃん!!

玲花:しょうがないじゃん。断れなかったんだもん。

ビャク:いくらでも断れたでしょう!このあと用事があるとかさ!

玲花:そりゃ、理由くらいつけれただろうけど、でも……

ビャク:でも何?

玲花:お父さんのこと、ちょっと聞きたくなっちゃったんだよね。だって封戸さん、お父さんのことよく知ってるみたいだったから。

ビャク:口から出まかせかもしれないじゃん?

玲花:そんな風には見えなかったけど……

ビャク:相手は探偵だよ?人を引き止めるくらいの嘘、つけるでしょ。

玲花:ビャクはどうも封戸さんのことが嫌いなようね。

ビャク:だってあの人怖いんだもん!君と話をしている間もなんか僕の方をチラチラ見てたしさ!あれは絶対僕のこと見えてるよ。

玲花:そうだった?気のせいじゃない?

ビャク:絶対気のせいじゃないよ!何度か目があったもん!

一香:なになにー?なんの話ー?(一香が扉をすり抜けて飛び出してくる)

ビャク:う、うわー!!でたー!!

玲花:何驚いてるのよ。あなたも幽霊でしょ?

一香:出たとは失礼ね。

ビャク:いや、急に出てきたら流石にびっくりするでしょ。

玲花:そういうもんなの?

一香:それよりも。あんたが札木玲花ね。

玲花:そうですけど、会ったことありましたっけ?

一香:いいや、初対面だけど。

玲花:じゃあなんで私の名前を?

一香:だって私、幽霊だし。聞き耳立てるくらい朝飯前だよ。

玲花:まぁ、そうか。

一香:あとあなた、幽霊達の間ではなかなか有名なんだから。

玲花:え?

一香:呪われた子……まぁ正確には呪われている子……かな?

玲花:何それ。

ビャク:お前、ちょっと失礼じゃないか?

一香:あなた、幽霊なのに知らないの?彼女のこと。

ビャク:……。

玲花:この人、生前と、私に取り憑く前の記憶がないの。

ビャク:ちょ、ちょっと玲花!

一香:へぇ。じゃあ、どうして彼女に取り憑いてるかがわからないままに、あなたは玲花ちゃんに取り憑いてるんだ。

ビャク:悪いかよ。

一香:別に。霊にも色々事情はあるしね。

ビャク:色々知ってる風だな。お前こそ、どうしてこの屋敷にいるんだ。

一香:私のことはいいでしょ。

ビャク:教えてくれないのか。全くこの屋敷の奴らはどいつもこいつも怪しいな。

玲花:ビャク、なんだかここにきてからピリピリしてない?

ビャク:玲花が鈍感すぎるんだよ。

一香:まぁいいや。ちょっとおしゃべりし過ぎちゃったし、これ以上いたらそこのゆーれーさんに殴られそうだから、

一香:お邪魔させてもらうよ。

(一香が扉の方へ向かう。)

一香:あ、そうそう。(振り返り、玲花の耳元に顔を近づけて)彼に気をつけてね。

(一香、部屋から出ていく)

ビャク:彼女、なんて?

玲花:彼、つまりあなたに気をつけろって。一体なんのこと?

ビャク:ほんとつくづく失礼なやつだな。気をつけるべきはあいつらの方だろう。

玲花:ねぇ、一香さんが私のことを知ってたみたいだけど……あなたは本当に知らないの?

ビャク:幽霊の間では有名だって話?知らないよ。

玲花:……あなた、私に嘘ついてないでしょうね?

ビャク:玲花は僕じゃなくてあいつのことを信じるっていうのか?

玲花:いや、そういうわけじゃないけど……

ビャク:ちょっと心外だな。

玲花:……ごめんて。

ビャク:まぁいいや。とにかく早くこんなところ出ようよ。ここにいると不愉快でたまらない。

玲花:はいはい。早くおうちに帰れるように努力はするよ。




トントントン(ノックの音)

二美:失礼いたします。

万次郎:玲花くん、お待たせしてしまってすまないね。

玲花:いえいえ。お忙しいのにわざわざ時間を作ってくださりありがとうございます。

万次郎:お茶を入れ直したんだ。もう1杯いかがかね?

玲花:いえ、大丈夫です。

万次郎:遠慮は無用だよ。

玲花:そういうわけでは……

万次郎:……急いでここを出たい理由でもあるのかな?

玲花:……え?

万次郎:二美くん、彼女の後ろにくっついている彼を捕まえてくれるかな?

玲花:やっぱり、ビャクのことが見えてる…!?

二美:失礼いたします。

ビャク:やっぱりわかっていたのか。

ビャク:でも、見えているだけじゃ僕を捕まえることは……ってえぇ?なんで?どうして僕のことが触れるんだよ!

(ビャクが二美に縄で縛られる)

玲花:な、なんなんですか?あなた達は。

万次郎:安心しなさい、君には危害を加えたりはしないよ。

ビャク:嘘だ!逃げろ、玲花!!

二美:(ビャクを捕らえている縄を強く引っ張りながら)ちょっと静かにしてもらえるかしら?

玲花:目的は何?私が、呪われている子だから?

二美:あなた、それをどこで?

玲花:さっき会った幽霊が教えてくれたの。

二美:ったく。本当に口が軽いんだから。

一香:何?呼んだ?(扉を開け、人の姿をした一香がやってくる)

ビャク:ってお前……その姿……

玲花:人間??

一香:ん?そうだよ。私は元々人間。ちょっとした特殊能力ってやつ?自由に人とゆーれいの姿を使い分けられるんだ。

ビャク:え、何それ、気持ちわる……

一香:失礼なことを言うなー。まぁこれでお互い様か?

玲花:じゃあ、二美さんがビャクを捕まえられるのも……

一香:二美の能力だよ。ゆーれー相手に拳入れられちゃうの。怖くない?

二美:姉さんいつものことだけど喋り過ぎ。ちょっと黙って。

玲花:ねぇ、ビャクをどうする気なの?ビャクを離して!!

二美:あなた、こいつがどんなものなのか、本当に気がついていないようね。

玲花:え?

一香:まぁ見てなって。しばらくしたら本性を現す。

玲花:本性……?

万次郎:(玲花を自身の後ろに庇いながら)奴の狙いは君だ。一香と二美がなんとかしてくれるから、玲花くんは離れていてくれ。

ビャク:う……う……っ!

玲花:ちょっと、一体ビャクに何したの?

二美:私の力じゃない。彼自身が行っていること。

ビャク:うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!(目が赤く光る。意識が朦朧としているようだ。)

玲花:ビャ、ビャク?あなたどうしちゃったの?

二美:近づかないで。だいぶ凶暴化している。あなたを狙って襲いかかってくるわ。

一香:やっぱり、危機が近いとトリガーが外れる仕組みか。

ビャク:よこせ……玲花を……あの方のところへ連れて行かなくては……

一香:そんなこと言って、はいどうぞなんて言うわけないよね。

二美:いいから早く幽霊の姿になって仕事して。あいつは所詮操り人形。操っている何かがあるはずよ。

一香:わかってるよ。(幽霊の姿になって縛られているビャクに近づく)えーと、どれかなぁ?

万次郎:服についてるバッジだ。

一香:はいはいっと……あ、これだね。とったよ。あとは任せたよ、所長さん。(とったバッチを万次郎に投げる)

万次郎:(受け取ったバッチに念を込めながら)「けがらわしき魂よ、今この場で消え失せるがいい!」

一香:これでもう大丈夫かな?(捕まっているビャクを突きながら)おーい、そこの君。生きてる?あ、もう死んでるんだっけ。

ビャク:え……ここは一体?あなた達、誰ですか?

玲花:ビャ、ビャク……?

ビャク:え、えーとあなたは?

玲花:え?

二美:詳しいことはあとでお話しします。今はとりあえずこの方を。あなた、お名前は?

ビャク:生田智(いくたさとる)です。

二美:自身が死んでしまっている、と言うのは認識していますか?

ビャク:えぇ。ものすごい勢いで走ってきた車にはねられたんです。

二美:そうでしたか……死後、思い出せることは?

ビャク:僕、両親のことが心配になっちゃって。だからあの世に逝く前にどうしても両親の顔が見たくて。

ビャク:だけど、なぜかわからないけどなかなか見つけられなくて……迷っていたら黒い、フードを被った男が僕に話しかけてきたんです。君のことを手伝ってあげるとかなんとか言って。確かバッチを渡されました。……そこから先は覚えてなくて。気がついたらここにいました。

二美:詳しく話してくれてありがとう。ここは封戸探偵事務所。たとえ霊になっていたとしても、依頼は受け付けています。

二美:きっとあなたのお力になれると思うのですが……いかがですか?

ビャク:本当ですか?お願いしたいところですが、依頼料なんて、今の僕には払えませんよ?

一香:ゆーれーから金を取るなんてことはしないよ。君がしっかり成仏してくれればそれで十分。

ビャク:それでしたら、ぜひお願いします。

二美:では、事務所の方へ移動しましょう。姉さんもお願いします。

一香:はいよー。

二美:所長、玲花さんのこと、お願いしてもいいですか?

万次郎:もちろん。そちらは任せたよ。

一香:はいはいー。

(一香、玲花、ビャク、部屋を去る)

 


(しばらくした後、万次郎がポットからカップにお茶を入れ、玲花の前に出す)

万次郎:少しは落ち着いたかね。

玲花:えぇ。ありがとうございます。

万次郎:さて。君には色々話しておきたいことがあるんだが。まずは君の家と、両親について話をしておこう。

玲花:私のお父さんも、私みたいに幽霊が見えたんですか?

万次郎:あぁ。君のお父さんもお母さんも、見えざるもの達が見えていた。

玲花:お父さんは万次郎さんや、一香さん、二美さんみたいに、悪い幽霊と戦う力を持っていたんですか?

万次郎:身につけようとしていた。奥さんと生まれてくる君のためにね。

玲花:私が呪わている子、だから?

万次郎:正確に言えば札木家が……かな。なんの因縁かまではよくわかっていないが、札木家の人間は代々、不審な死を遂げている。それが呪いのせいである……というのは君の両親が殺されてからわかったことだ。

玲花:私の両親は何者かによって、殺されてしまったの?

万次郎:君を守ろうとしてね。

玲花:……。

万次郎:生田くん……君がビャクと呼んでいたあの少年がつけていたバッチ、あれには記憶を消し、付けた者を意のままに操る力があった。

玲花:生田くんの霊にそのバッチをつけて、私に接近させ、タイミングを見計らって私を殺そうとしていたのね……

万次郎:君が生まれてからと言うもの、相手方の動きが活発になった。一体何が狙いかはわからないが、君が敵の欲しい何かを持っているのは間違いない。

玲花:由佳ちゃんはこのことに気がついていたの?

万次郎:彼女に霊を見る力はない。だか、昔から勘のいい子でね。玲花くんに最近、悪いものがついているのを察して今日、私のところに来させたんだ。私ならなんとかできることを、彼女は知っているからね。

玲花:私がこれまで通り、由佳ちゃんと一緒にいて、由佳ちゃんに危険が及ぶってことはあり得る?

万次郎:そうだね。相手方に君がどこにいるのか知られてしまった以上、絶対安心とは言い切れない。

玲花:……。

万次郎:そこで提案なんだが。玲花くんさえ良ければ、この屋敷にしばらくいて欲しいと思っている。ここなら私だけでなく、一香くんも二美くんもいる。彼女らはとても賢くて強い。いざと言う時に君を守ってあげられる。

玲花:はぁ。

万次郎:もちろん無理強いはしない。最終的には玲花くんが決めてもらって構わない。たとえ君が、今と変わらず、由佳くんと暮らすことを選んでも、我々は全力で君を守ろう。

玲花:……わかりました。一晩、考えさせてください。

万次郎:突然こんなことを言われて整理がつかないのも無理はない。今日は一度由佳くんのところに帰って、ゆっくり休みなさい。

 


(翌日。封戸探偵事務所。万次郎、一香、二美がそれぞれのデスクで事務作業をしている)

二美:そろそろくる時間ではないですか?

一香:玲花ちゃん?そうだねー。結局、ここにくることを選んだんだね、彼女。

二美:まぁそうでしょう。自分のせいで大切な人を失うかもしれないんです。そんなことになる前に、彼女はここへ来るのが正解ですよ。

一香:所長。どうして彼女に選ばせたんですか?あんないつ狙われてもおかしくない子、ここにいるべきでしょ?

万次郎:彼女にも生活があるからね。しかも急に命が狙われているとか、呪いとか言われて、じゃあうちに来て、って納得しないでしょ。

一香:そう言うもんかねー。

二美:みんながみんな、姉さんみたいにお気楽モードで生きていないんですよ。人生はもっと複雑なんです。

一香:ちょっと、おねーちゃんにすっごい失礼なこと言ってない?もっと敬ったらどう?

二美:敬ってもらいたかったらそれなりの態度を示してください。

万次郎:まぁまぁ。とにかく、これからはちゃんと彼女を守ってあげるんだよ。

一香:もっちろんだよ!

二美:言われなくとも、そうするつもりです。

0:ピンポーン(探偵事務所のチャイムが鳴る。大きなトランクを持って玲花が来る)

一香:お、噂をすればやってきたね。

玲花:みなさん、先日は助けてくださり、ありがとうございました。そして今日からよろしくお願いします。

万次郎:あぁ、よろしくね。

一香:何が来ようと、この一香様が全力で玲花ちゃんを守ってあげるから安心して!

玲花:あ、あの……

二美:どうかしましたか?

玲花:……

一香:なに?言いたいことがあるんなら言っちゃいなよ。

玲花:私も、みなさんのように戦える力が欲しいんです。

一香:ふぇ?

玲花:みなさんが守って下さるのはとても嬉しいです。だけど、私を狙ってくるやつって、私の両親を殺したんですよね?

万次郎:あぁ、そうだが。

玲花:私許せないんです。そいつが。両親を殺したこともそうですし、罪のない、ビャクのような幽霊を利用してこそこそと私を狙ってくるそのやり方とか。私もそんなやつに、一発お見舞いしなくちゃ気がおさまりません。だからお願いです。ただ幽霊を見ることしかできない私ですが、私にも戦えるだけの力をください!

一香:あはははは!

二美:ちょっと姉さん!

一香:あーごめんごめん。なんかさ、玲花ちゃんって、真面目でか弱いだけの子かと思ったけど、面白いこと言うんだね。

二美:ごめんなさい。玲花さん。ほんとこの人失礼で。

玲花:いえ、わかっていますんで、大丈夫です。

一香:え、玲花ちゃん、何気に失礼じゃない?

万次郎:玲花くん。

玲花:は、はい!

万次郎:力をつけると言うのは厳しいものだ。ましてや今まで戦いなどしてこなかったものにはね。もし本当に力をつけ、許せない相手に一発入れてやりたいと思うなら、私も一香くんたちも全力で手助けしよう。ただし、そうとなれば私たちも力は抜かない。全力だ。相当に厳しいものになるが、それでもいいか?

玲花:……お願いします。どんなに辛くても、私頑張りますから!

万次郎:……。

玲花:……。

万次郎:……よかろう。改めて、ようこそ封戸探偵事務所へ。これからよろしくな。

玲花:は、はい!!


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