第4話

 そんな片岡くんにプレゼンの話をしてみたら、




「が、頑張ります!」




と答えた。


 返事だけは威勢がいいが、さすがに緊張しているようだ。




「大丈夫? できそう?」




 私はまわりに聞こえないくらい小さな声で、




「無理そうなら私が作ってもいいけど」




と続けた。




「お気持ちは嬉しいんですが、自分の力でまずは挑戦してみます」




 その意気だ、と言いたいが……できるのか?




「じゃあ資料を渡しておくから、仮でプレゼンを作ってみて。明日見せてね」


「はい、分かりました! ありがとうございます、東条先輩!」


「先輩はやめて。学校じゃないんだから……」


「あっ、すみません」




 片岡くんは恥ずかしそうに頭をかいて謝った。


 向かい側のベテラン社員が、




『いいチームね!』




と口パクで親指を立てる。


 週末の予定がなかったら、とっくにこの場で私の腹の虫が爆発しているところだ。


 しかし翌日になって、その予定もドタキャンされた。久々に大学時代の友達と遊ぶ約束だったのに、最悪だ。


 なんでもどうしても外せない用事ができたとかで、普段の私なら「はいはい」と流して映画でも見に行くのだが、今回だけは駄目だ。


 どこかでこの理不尽なメンタリング制度に関するガス抜きをしないと、このもやもやが爆発してしまう。


 そんなところに片岡くんの仮プレゼンが追い打ちをかけてきた。




「見づらい!」




 思わず声が出てしまった。プレゼンの資料は見やすくして、口頭で細かい補足をするものだ。


 さすがに今回ばかりは人事担当者を恨んだ。弊社の人事、無能。




「す、すみません!」




 片岡くんはすぐに頭を下げた。彼なりに必死にやった結果なんだろう。


 私は気持ちを抑えて、




「添削してあげるから、そこ座って」




と言った。




「あ、はい」




と片岡くんはそのまま床に座ろうとする。




「何やってんの、椅子持ってきなさい」


「あっ、そっか。すみません!」




 急いで椅子をとりにいく背中をみて、私はまた前髪を掻きむしった。


 ここまでおっちょこちょいだと、さすがに可哀想だ。


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