第3話
片岡くんはとにかく真面目だが、仕事を覚えるのが遅い。
それでも要領が悪いのかいつまでたっても書類は作れないし、電話応対は焦ってしまってできない。
私が作ったエクセルのファイルも、関数をぐちゃぐちゃにされてしまった。
同期が受け持っているちょっと生意気そうに見えた後輩女子なんかは、すぐに仕事を覚えたどころか気遣いもできている。
最初は大人しそうな男の子でラッキーなんて思ってた私がバカだった。
新卒女子のしょーもない惚気話にいくらでも付き合うから、正直今からでも教育係を変えてほしい。
「今度の商品企画にはOJTとして新卒ちゃんも何人か関わってもらおうかしら」
上司が言ったこの言葉に、私は思わず心のなかで叫んだ。
(いやいや無理だって! 特にこの子は資料作成もろくにできないのに)
そんな悲鳴をあげる私に、上司はさらに追い打ちをかける。
「新卒ちゃんに一人ずつ、プレゼンをしてもらいましょう。メンターの皆さんはしっかり面倒をみてあげてね」
プレゼン? 正気か?
私が口をあんぐりと開けたが、同期のみんなは何故か張り切っている。
そんななかで文句を言うことも出来ず、私は肩を落として自分のデスクに戻った。
隣の席では片岡くんがメモを片手にパソコンと格闘している。1ページごとにメモを取るようになったのはいいが、何度もページをめくったり戻したりしているのでじれったい。
悪い子じゃないだけに、なんかこうビシッと言いづらい。
最悪、私がプレゼン作っちゃおうかな、と思いながら彼の横顔を見ていた。一生懸命に画面を追うその目だけは、真剣そのものだった。
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