幕間7 エリーの目覚め


 皆が寝静まった深夜。


「…………むくっ!」


 エリーは口でそう発しながら起き上がった。夜中であるのにも関わらず、その目は輝いている。


「そー…………」


 隣で寝ているメイベル達を起こさないように、ゆっくりとベッドから這い出すエリー。


「……ぬ、抜け駆けするわけじゃないからねっ!」


 そして、すやすやと寝ている二人に向かって小声でそう言い放つ。


 一体、彼女は何をするつもりなのだろうか?


 音も立てずに部屋を後にしたエリーがこっそりと向かった先は――


「おにーちゃん……」


 アニの寝ている部屋だった。幸か不幸か、鍵はかかっていない。


「今日くらいは……隣で寝ても良いよね……?」


 エリーは、アニの寝顔をそっと覗き込みながら呟く。


「うーん……むにゃむにゃ……」

「ありがとう! おにーちゃん」


 そして、躊躇することなくベッドに潜り込むのだった。


「ぐー……ぐー……」

「えへへ……おにーちゃんの寝顔……かわいい……」


 しばらくの間アニの寝顔を眺めまわして満足したエリーは、嬉しそうに口元を綻ばせながら目を閉じる。


 ――しかし、その時。


「…………ぐぅ」

「ひゃうっ?!」


 エリーは突然、寝返りをうったアニに抱き寄せられてしまった。


「お、おにーちゃん……待って……いきなりそんな……!」


 いつになく力強い抱擁に、慌てふためくエリー。どうやら、抱き枕だと思われているらしい。


 必死に身をよじるが、完全に捕まってしまったので逃げ出すことができない。


「む、む~~~~~~~~~~っ!」


 顔を胸へと埋められ、大好きなおにーちゃんの匂いに包まれるエリー。


「ん、んぐぅ…………っ!」


 体を硬直させ、足をぴんと伸ばして、溢れ出る気持ちを抑え込んでいた。


「よ……し……よし……」


 しかし、アニはさらに追い討ちをかけるかのように、ゆっくりとエリーの頭を撫で始める。


「ふ、ふぇへぇ……」


 ちょっと添い寝するくらいの軽い気持ちで来たはずだったのに、寝ているおにーちゃんから溺愛されてしまったエリー。


 あまりにも刺激が強すぎたようで、エリーはおにーちゃんに顔を埋めたまま、気絶するように眠りに落ちてしまう。


 ――しかし、それで終わってはくれなかった。


「もっと…………」

「ふへえええぇぇっ!?」


 今度は、突然アニが寝ていたエリーのお腹に顔を埋め始めたのだ。


 身体はすでに限界を迎えているのにも関わらず、無理やり覚醒させられるエリー。


「いっぱい……やって……」

「ま、まってっ……おにーちゃ……っ、おなか……っ、吸っちゃだめだよぉ……っ!」


 おにーちゃんに甘えられ、お腹に抱きつかれて吸われるという、予想もしていなかった事態。


「これ……だめぇ……っ……すごい……っ!」


 エリーの中で、何かが目覚めつつあった。


「すき……だいすき……」

「そんな……おにーちゃんとそーしそうあいだったなんて……!」


 エリーは顔を真っ赤にして、目を回しながら呟く。もはや、彼女にまともな判断力など残っていない。


「いいって言うまで……たくさん撫でてね……!」

「分かったよ、おにーちゃん…………!」


 ――ちなみに、今アニの身体を支配しているのはニアである。


 だが、当然エリーにがはそのことを知らない。


 アニの寝言はエリーにとって、「自分だけが知ってしまったおにーちゃんの本心」なのである。


 エリーの中で、おにーちゃんに対する想いが熱く燃え上がっていた。


「そっか……そうだったんだね、おにーちゃん……! ずっと……無理してたんだね……いっぱい……あたしに甘えていいからねぇ……っ!」


 エリーは愛おしそうにアニのことを抱きしめながら、頭を撫で回す。


 おにーちゃんに対する母性が芽生えてしまったのだ。


「すー……すー……」

「はぁ……はぁ……可愛いよ……すっごく可愛いよおにーちゃん……おにーちゃんっ!」

「一人に……しないで……」

「うんうん、あたしはおにーちゃんのこと、ちゃんと分かってるよ……っ! 本当は寂しかったんだよね……! 今まで気づいてあげられなくて……ごめんねぇ……っ!」


 目に涙を浮かべながら、ぎゅっとアニのことを抱きしめるエリー。


 彼女の暴走を止めることができる者など、もはやどこにも存在しない。

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