第58話 アニ、厳しくする


「………………」

「えへへぇ……だめだよぉ……おにーちゃん、まってぇ……っ!」


 翌朝目覚めると、隣でエリーが寝ていた。


「……なんで居るの……?」

「ふぇ……?」


 僕の言葉に反応して目を覚ますエリー。きょとんとした顔をしているけど、困っているのは僕の方だ。


「あ、おにーちゃんおはよう!」

「おはよう。ここは僕のベッドだよ?」

「えへへ……来ちゃった」

「まったく…………」


 はにかみながら恥ずかしそうにもじもじしているエリーを見て、僕は肩をすくめる。どうやら、寝ている間にベッドに潜り込んできたらしい。


「どうして来ちゃったの? ――メイベル達と一緒に居たんだから、一人で寝るのが怖いってわけじゃないよね?」

「うん。おにーちゃんと一緒に寝たかったの!」


 エリーは満面の笑みでそう答える。


 とてもかわいい。じゃあしかたないね。


 ――違う。ここは厳しく言って聞かせないといけない。しっかりするんだ僕!


「…………あのね、エリー。僕はいつまでも一緒に居られるわけじゃないんだ。甘えてばかりじゃ駄目なんだよ!」

「おにーちゃん……」


 僕が叱ると、エリーの顔から笑顔が消える。


 ……もしかして、ちょっと言い過ぎちゃったかな?


「で、でも……その……たまーになら……僕のところで寝てもいいけど……」

「――無理しなくていいんだよ!」

「はい?」


 エリーは微笑みながら、優しく僕の頭を撫でる。


「えっ…………?」

「辛かったらいっぱいあたしに甘えてね! 沢山いいこいいこしてあげるから!」


 もう何がなんだか分からない。


「……何か勘違いしてるみたいだけど、僕は別に無理なんか――」


 そこまで言いかけたところで、突然エリーに抱きしめられた。


 エリーからは、ふわふわしたお日さまの匂いがしてくる。心が落ち着く感じがした。


「おにーちゃんはね、あたし達に心配させないようにっていつも強がるけど、本当はいっぱい我慢してたんだよね……!」

「エリー……」

「でも、そんなことしなくたって良いんだよ! 弱音を吐いたくらいでおにーちゃんのこと嫌いになるわけないもん! 何があっても、あたしはおにーちゃんの味方だよ!」


 本当に何があったのだろうか? 


 変なものを拾い食いしたわけじゃないよね……? 


 エリーのことが少しだけ怖くなった僕は、思わず身じろぎする。


 ――でも、いつも所構わず甘えてくるエリーが逆に甘えさせてくれるということは…………思いやりの心が成長したという風にも考えられる。


 うん、きっとそうだ。そうに違いない。


 なるほど、僕の知らないところでエリーも成長してたんだなぁ!


「怒ったりしてごめんね……エリーっ。僕、勘違いしてたよ……! もう、エリーも立派な大人なんだね……っ!」

「ふふふ、そうだよ! だからオトナなあたしに沢山甘えて良いんだよ!」

「少し寂しい気もするけど、嬉しいよ……エリー……っ!」

「うんうん、おにーちゃんはずっと寂しかったんだよね! ちゃんと分かってるよ!」

「エリー!」

「おにーちゃん!」


 僕とエリーはお互いに抱きしめ合った。


 ……でも何でだろう。何かが致命的にずれている気がする。


「――と、とにかく、僕はこれからドレースさんの所に行かないといけないんだ」

「そうなの?」

「今日はみんなでフェルゼンシュタイン家の別荘に行くでしょ? そのことで何か準備があるみたい」

「はい! じゃあ、あたしもついてく!」


 エリーはぴんと手を伸ばながら言った。


「別に良いけど……ドレースさんに呼ばれたのは僕だけだし……エリーが来ても面白くないと思うよ?」

「それでもおにーちゃんと一緒がいいの!」


 きらきらした目で見つめてくるエリー。二人で押しかけたら迷惑じゃないかと一瞬思ったけど……エリーは良い子だし大丈夫だよね!


「…………仕方ないなぁ。じゃあ一緒に行こう」

「やったー!」


 こうして、僕とエリーは部屋を後にして、ドレースさんの元へ向かうのだった。

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