第36話 やるじゃん

★★★(アイア)



 本当にやっちゃった……。


 私は正直、舌を巻いていた。


 ウハル君……その行動力……!




「俺に風の精霊と契約させてください」


 あのとき。

 ウハル君が手をついてまで頼んできた事はそれだった。


 何故?


 理由を説明されてようやく分かった。


 ユピタが空を飛んで去って行ったから。


 飛んでいくのだから、目的地を最短で結ぶコースを取るはずだ。

 少なくとも、ユピタの態度からは「撹乱」する可能性は低いと考えられる。


 ならば風の精霊魔法を習得し、自身も飛行能力を持てば、飛んでいく方向からおおよそのアタリはつけられるハズ……


 そこからの「風の精霊との契約」


 なるほど。


「浮遊霊の監視役と、代償の治癒を頼みたいのだな?」


 叔父様の言葉に、ウハル君は頷いた。


 叔父様が居れば、契約の代償の許容範囲がかなり大きくなる。


 目を寄越せ、足を寄越せと言われても、回復させることが出来るから。

 まあそれでも、奪われる痛みはどうしようもないんだけど。


 でも、一度は片目を捧げたことがあるウハル君だ。

 それは承知の上だろう。



 契約の場はすぐに作られた。


 ウハル君が契約したいのは風の精霊。

 外であれば問題ないので、何も面倒な事は無い。


 盛り塩さえ準備出来れば、即はじめられる。



 4隅に盛り塩を置いた正方形の座に、ウハル君は正座して、一心不乱に精霊へ契約を呼び掛けていた。

 かつてはひとりでやってしまった事を、今、目的を持って、仲間の協力の下行っている。

 そう思うと、感慨深いものがある。


「ううっ!」


 そして、契約が完了したようだった。

 耳を押さえ、蹲るウハル君。


 代償に求められたのは耳で、叔父様がすぐに再生させた。




「確か、ここからこっちの方向に……」


 現場に立ち戻って、ウハル君は風の精霊魔法……天を舞う飛行魔法「天舞の術」を発動させた。

 風を巻いて飛ぶウハル君。


 街の外で待機していた私たちは、飛翔するウハル君を追う形でついていく。


 馬車を借りて、走らせた。


 先行して飛ぶウハル君。

 しばらくついていくと、途中で引き返して戻って来た。


「何か見つけたの!?」


 期待を込めて問うと、ウハル君は力強く頷いた。

 とても、頼もしかった。


「怪しい洞窟を見つけました」




 ウハル君の案内で、問題の洞窟に辿り着いた。


 果たして、ここがそうなのか……?


 私は目を閉じ耳を澄ませた。

 音を聞けば、何か分かるかもしれない……。


 リン リリーン


 何故か、鈴の音が聞こえてきた。


 よく分からないけど、中に誰かが居ることは確実。

 その誰かがキュウビ一族の面々なのか……?


「中に誰かが確実に居る……」


 それだけを伝えた。

 それがキュウビ一族なのかどうかは分からない……


 そのときだった。


「メシア様、私に邪悪を見抜く力を」


 オネシ君が「邪悪看破の奇跡」を使用してくれたのだ。


 目の前にメシア様から見て邪悪な存在が存在しているかどうかを判別する魔法……。


 メシア様の加護を貰っていない私にはその有効射程がどの程度なのかは知らないのだけど、有効に働いてくれればうってつけなのは言うまでもない。

 何故って、キュウビ一族がメシア様の基準で邪悪でないはずが無いから。


 魔法を使ったオネシ君は、洞窟をじっと見つめていた。

 そして。


「……この先に……邪悪が居ます!」


 オネシ君のこの一言が決定打になった、




 中に乗り込むと、見張りをしていた黒づくめたちが襲ってきた。


 私は全身鎧を着ているから、潜入なんて出来はしない。

 正面突破だ。


 私が先行し、後ろにウハル君とオネシ君。そして叔父様が続く。


 弓で攻撃してくる黒づくめたちの矢を、私が鎧と両手斧で攻撃を受け止め、弾き返す。


「……こいつら……間違いない!」


 彼らの姿を見て、ウハル君は確信を深めたみたいだった。




 そして今に至る。


 困難な状況を、行動でひっくり返したウハル君。

 彼のこの成果は、運が良かったこともあるのかもしれない。


 でも、その運は彼が引き寄せたものだと私は思った。


 彼が諦めないで行動したから、運が後から付いて来たんだ、って。


 彼は外で使った天舞の術の効果で高速飛行をしながら、黒づくめ相手にヒットアンドアウェイを繰り返している。

 高速飛行で標的に近づいて、ハルバードでの一撃を加える止まらない攻撃。


 そんな彼を見つつ。


 片っ端から黒づくめを両手斧を鈍器として使用して叩き伏せながら、私は思った。


 ウハル君、やるじゃん、って。

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