第37話 馬鹿にするな!

★★★(ウハル)



「ユズさん! 助けに来たぞ!」


 間一髪、間に合ったのか!?


 ユピタの復活はまだ成ってはいないようだけど……?


 ユズさんは、奥に居た。


 虚ろな表情で、椅子に腰かけた姿勢のまま、両手を上に突き出して……


 あの姿勢は……


 俺の記憶がフラッシュバックする。

 あのときの、俺が悪霊から救われたときの記憶が。


 ユズさん、異能を使おうとしている……

 何があったのか分からない。


 けれど、確信を持って言えた。


「ユズさん! 止めるんだ!」


 ユピタの復活を成そうとしてる……!

 いけない!



★★★(ユピタ)



 ふはははは! 無駄だ!


 突然の乱入に驚きはしたが、少し遅かったな!


 我が魂はすでに半ば以上抜き出されている!


 後はこのまま、元の身体に還されてしまえば俺の復活は完成する!


 止めるにはこの娘を殺すしか無い。


 しかし……そんな事はお前たちには出来まい!?


 大人しくそこで、竜王ユピタの復活を見ているがいい!


 さあ、やるのだ! やるのだユズよ!


 俺は勝利を確信し、その瞬間を待つ。


 待っていた。


 待っていたのに。


「ユズさん! ご両親を殺した奴らに良いように操られているんじゃない!」


 強い声が、飛んできた。


 ……髪を後ろで括った、刀を武器にする剣士の声だった。



★★★(ウハル)



「親を殺され、その上その連中の邪悪な目的のために利用されるなんて、キミは平気なのか!?」


 オネシさんが、黒づくめたちと切り結びながら、ユズさんに呼び掛ける。


 オネシさんは両親を殺されているらしい。

 邪悪な人間に、滅茶苦茶な理由で両親の命を奪われたと。


 だからだろうか。

 オネシさんのこの件に関わる熱は、高かった。


 ……多分、自分の事と重ね合わせてしまったんだろう。


 自分がユズさんだったら、こんな状況、許せるはずが無い、と。


 オネシさんのそんな問いかけ。


 ……その中で


 ユズさんが腕を振り下ろした。



★★★(ユピタ)



 ついに……ついに戻るぅぅぅ!


 俺は娘・ユズが腕を振り下ろす様を歓喜と共に見ていた。


 羽虫のような人間が、何か言ってるようだが、無駄だ!


 この娘に、我らに逆らうという意思などあろうはずが無い!

 無駄だ無駄だ無駄なのだぁ!


 待っていろ!

 竜の身体を取り戻したら、まずはお前たちに、この場を乱した罪を償わせてやる!


 楽に死ねると思うな!


 ……

 ………


「え?」


 気が付いたら、人間の身体のままだった。


 半ば以上引き摺りだされていた我が魂は、元の窮屈な人間の身体に戻されていた。


「ハァ……ハァ……ハァ……」


 そんな俺の目の前に。


 肩で息をするユズ。

 そんな……まさか……


 我らの呪縛を、打ち破ったのか!?


 信じられなかった。

 この娘に、そんな覇気があるはずが……!



★★★(ユズ)



 ご両親を殺した奴らに良いように操られているんじゃない!


 この一言が私の心に響いた。


 奴らへの恐怖で、押し殺してしまっていた気持ち。

 両親を殺されて悔しい、許せないという感情。


 それが一気に噴き出してきた。


 その瞬間、見えなかったものが見えるようになった。

 そんな気がした。


 目覚めた私は、半ば以上進めていた異能の行使を中止した。


「馬鹿に……馬鹿にするなぁぁぁ……!」


 私は言った。

 泣きながら。


「そんな馬鹿な……そんな馬鹿な……!」


 私に魂の移植を行わせようとしていた黒づくめ……ユピタが信じられない、という風にそう繰り返す。


 私の事を見下していたんだろう。

 こいつは絶対に逆らいはしない、って。


 ふざけるな……ふざけるな……!


「アンタたちの思うとおりになんか……もう絶対にならない!」


 自分が情けなかった。

 深層心理で恐怖に負けて、言いなりになろうとしていたなんて。


 父さんと母さんの仇なのに!


 そんなネズミみたいな、弱い私との決別。

 その意思を込めて、私は言い放った。

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