第25話 誰にも迷惑を掛けられない

★★★(ウハル)



 俺が今契約している精霊は、土の精霊。

 土の精霊と契約していて、契約が不可になる精霊は木の精霊。

 土の精霊と木の精霊は互いに嫌い合っていて、どちらか片方しか契約出来ないから。


 俺はこれまでに、それなりに精霊魔法については勉強した。


 そこから学んだ、契約を持っていて有用、と言える精霊は


 土、水、風、雷、光


 この5つらしい。

 冒険者としての一般的な活動を念頭に入れれば、という前提条件が付くけれど。


 このうち、雷の精霊とはなかなか狙って契約するのが難しいらしい。

 そりゃそうだ。雷そのものをドドーンと契約の場に用意できないもんな。


 精霊との契約を行う場合は、契約したい精霊が担っている事象、もしくは現物そのものをその場に用意する必要がある。


 俺があのとき、土の精霊と契約できたのは、近くに本物の土があったからだ。


 だから、火の精霊と契約したいなら本物の火、風の精霊と契約したいなら本物の風を用意する必要がある。

 だから雷は難しい。(用意できるのがおそらく、体内電気しか無いからだろうと推察)


 俺の場合だと、現実的には水、風、光を狙うのが正しいだろう。


 俺個人としては、風の精霊と契約したかった。


 理由は『天舞の術』という、高速飛行を可能にする魔法があるからだ。

 使用可能なのが屋外限定の魔法になるけど、逆に屋外以外で飛行能力持っていても、十分にそれを活かせる状況の方が少ないんじゃないか?

 空を飛べる能力って、外でこそ活かされるだろう。


 それと、俺の現在持っている土の精霊の精霊魔法とも相性抜群だし。


『天舞の術』と『大地潜行の術』を同時発動すれば、土の中も外も、自由自在に移動が可能になる。

 そうなれば、俺はもっと、何倍も強くなれるはずだ。


 やると決めたら、恐れもあったけど、なんだかワクワクしてくる自分が居た。


 俺は下宿の布団の上で、計画を練り始めた……



★★★(ユズ)



 また、ウハルさんとお話出来た。

 そして、ウハルさんの力になる事が出来た。



 ウハルさんが弓の練習を頑張ってる姿を見て、どうしても声を掛けたくなったから掛けたけど。


 ウハルさん、私のことをうざったいとか、気持ち悪いみたいな目で見たりしなかった。

 嬉しかった。


 ウハルさんは頑張り屋で、そして優しい気がする。

 義理堅いし。


 信頼できる人だ。


 私の目に狂いは無かった。

 好きになった事を後悔なんてしていない。


 ……肝心のウハルさんには、受け入れてもらえなかったけど。


 でも。


 好きになってもらえなかったからって、知らない顔をするなんて。

 私はやりたくなかった。


 振り向いてもらえないとしても。

 私はウハルさんを助けたかったし、お話をしたかった。


 私はウハルさんに幸せになってもらいたいだけなんだもの。

 そこに嘘は無いわ。


 私の話がいいアドバイスになったのか、ウハルさんの弓の腕が私の見てる前で上がった。

 本当に嬉しかった。


 そのウハルさんが、今日また冒険者の店で見掛けたら。

 今日は弓の練習をしないで、テーブルで本を読んでいた。


 弓の練習はもういいの?


「ウハルさん、今日は練習しないんですか?」


 ああいうのって、毎日しないと駄目なんじゃ……?


 私はそう思ったから、聞いたんだけど。


「ちょっと先に調べておきたいことがあって」


 私に気づいたウハルさん、ちょっと焦った風にそう応えた。

 調べておきたいこと……?


 何の本だろう?


 ちょっと気になった。


 内容を見ようとしたら……


「あ、今から弓の稽古をしようかな」


 ウハルさん、パタン、と本を閉じちゃった。


 ……隠した?


 何で?


 魔法の本みたいだったけど……



★★★(ウハル)



 危なかった。

 ユズさんに、本の内容を見られるところだった。


 俺がこれからやろうとしていること。


 それを知られると、要らない気遣いを呼び込んでしまうから。

 だから、絶対に避けたかったんだ。


 俺は、風の精霊と契約をしようとしている。


 それも、たった1人で、だ。


 精霊との契約は普通、誰かと組になって行うのが普通だ。

 契約を決行する者。それを見守る者。その2人組。


 それを、俺はスッ飛ばす。


 別に精霊との契約を舐めているわけじゃない。


 迷惑を掛けるのが嫌だったんだ。


 だって、俺の今回の契約は、100%俺の上昇志向を満たすためだけに行う事だから。

 他人のためにやるわけじゃない。


 今以上に強くなるために、俺のためだけにやることだからだ。


 そんな事で、他人の手を煩わせることなんて出来ない。


 俺はひとりで強くなる。


 ついでに言うと、今回の代償は自分で責任が取れる範囲で留めるつもりだ。

 目を寄越せ、耳を寄越せ、なんて言われたら拒否をする。


 それを受ければ師匠に迷惑を掛けることになってしまうから。


 ケツモチを師匠に丸投げを期待だなんて。

 恥ずかしすぎる。


 土の精霊のときと同じ事を期待することは出来ない。


 俺は俺の責任で、強くなるんだ!


 理論上は、気をつければ出来るはずだ。

 俺は本を読んで、正式な契約のやり方を調べて、そう判断した。


 精霊との契約で一番気をつけなければいけないのは、浮遊霊に憑依されること。


 で、その浮遊霊の接近を察知するのが、盛り塩。


 盛り塩が黒く染まると、浮遊霊が接近しているから、契約は中止しなければならない。


 ということは、短時間で契約を終わらせれば、1人ででも契約は出来る。


 そういうことなんじゃないのか!?


 近寄ってくる前に終わらせればいいんだよ!


 難航するようなら、途中で目を開けて、盛り塩を確認して、黒く染まってるようなら、契約を中止すればいいんだ!


 契約する場所は、風の精霊は外であれば問題ないらしいから、日が落ちて人目が無くなったときを見計らって、やってみよう。

 暗ければ、光の精霊も弱まるし、ちょうどいい!



 そして。


 俺は、その日の夕方だ。

 日が沈み始めるまで、弓の練習をし。

 日の沈む直前に、盛り塩のための塩を準備して、再度冒険者の店の外に出た。

 

 場所は弓の練習場。

 暗くなってきたから、人は居ない。


 灯りをつけようかと思ったが、灯りをつけると目立つ。


 それに、光の精霊が強くなって、風の精霊と契約しづらくなる可能性がある。


 だから、止めた。


 日の光の残滓と、代わりに輝き出すだろう月の光でなんとかやってみよう。


 俺は、四方に盛り塩を設置して、その中央に正座をした。


 ここで一心不乱に風の精霊とのコンタクトを望むんだ。


 そうすることにより、風の精霊との精神の波長が合い、契約が可能な状態になる。


 ……頼む。上手く、行ってくれ……!


 俺は目を閉じ、必死で祈った。

 風の精霊よ。俺と契約してくれ。


 代償は……それなりのものを払うから。


 代償の事を考えると思考がブレる。

 自分で責任を取り切れるものを、って思考が介入するからだろうか。


 結局、なかなか風の精霊の声は聞こえてこなかった。


 気がつくと月明かり以外の光源が無い状態。


 うっすらと目を開けると、目の前の盛り塩はまだ白かった。


 これで3度目……


 祈りへのトライ回数を重ねる。

 焦りが出て来た。


 時間が経てば経つほど状況は不味くなる。

 お願いだ……風の精霊よ……!


 俺は祈った。


 祈りまくった。


 そして……


『おい。俺は精霊だぞ』


 ついに声が聞こえて来たとき。

 俺は喜びで目を見開きそうになった。

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