5章 さらなる力を求めて……

第21話 突然の再会

★★★(ウハル)



「ノライヌシャーマンの居る群れの討伐、完了しました」


 俺は狩り取ってきた緑色の犬の生首……ノライヌシャーマンの生首を、証拠として冒険者の店に差し出した。

 無論、ズタ袋に入れて、だけど。


 モロはさすがにね。

 食事中の人も居るわけだし。


 グロいから迷惑になる。


 ああ、ズタ袋は無論手渡しだ。

 ズタ袋に入ってるとはいえ、モンスターの首が入ったようなもの、カウンターには置けないし。

 そんなことをしたら、要らない掃除の手間を掛けてしまう。


 気遣いは大事だよ。


「確かに」


 俺が提出した討伐の証拠を、冒険者の店のマスターは確認してくれて、約束の報酬を俺に引き渡してくれる。


 まいど。


 俺が報酬として引き渡された、金貨と銀貨の枚数を数えていると、店のマスターは俺に心配そうな眼を向けて


「……最近ずっと1人だな。それで大丈夫なのか?」


「特に問題は感じてませんよ」


 幸か不幸か、良いように使われながら、俺は基礎的な冒険者の在り方みたいなものは学び取っていた。


 だから、1人でも問題なくやっていけてる。

 俺には魔法があるし、その魔法の使い方についても、かなり勉強したからな。


 意味が無かったわけじゃない。

 最初の思いとは違ったわけだけど。


 だから1人でも大丈夫なんだ。


「仲間が居た方が良いってご忠告はもっともだとは思いますけど、俺は目が節穴ですから」


 俺の場合、仲間が居る方が危ないんです。

 笑って答える。


 言ってて、胸がズキリと痛むけど、しょうがない。

 事実だからさ。


 あのとき……


 ジャイアントタランテラを狩ったとき、窮地に陥って見捨てられた悲しさ、悔しさは忘れない。


 同じ苦しみはもう二度と、味わいたくない。

 だから……こうするのが最適解なんだ。


「ウハル君、久しぶり」


 そんなことを思っているときだった。


 アイアさんにまた会ったのは。


「アイアさん」


 久々に会ったアイアさんは、やっぱり綺麗だった。

 赤い色の立派な全身金属鎧。

 片手で引っ提げた鎧と同色の巨大戦斧「ビクティ二世」


 その重さ、重量を全く感じさせない、涼しい笑顔。


 長い黒髪が、赤い金属鎧によく映えていた。

 アイアさんの金属鎧も巨大戦斧も、特殊合金ヒヒイロカネで作られている。だから赤いんだ。


 ヒヒイロカネとは、磁力を帯びず、鉄以上の硬度を持つ特殊合金。


 ヒヒイロカネの装備を持つ事……それは冒険者として一流の証でもある。


 アイアさん……俺の目標……


「立派に独り立ちしてるみたいだね」


 俺が報酬を受け取ってる様を見たのか、そう言ってくれた。


「ええ、まあ」


 アイアさんと比較したらまだまだ全然だけど、冒険者として仕事を受けて、しっかり仕事を果たす。

 それはキッチリこなしているから。


 頭を軽く掻きながら答える。


 そんな俺に


「……パーティメンバーは?」


 ズキリ。


 答えづらい質問が飛んできた。



★★★(アイア)



 軽い気持ちで聞いたんだ。


 パーティメンバーはどこに居るんだろう?

 って純粋にふと気になったから。


 報酬を受け取るのに、1人だったから。


 普通は、パーティ全員で受け取りに行くものだからね。


 どうして1人しか居ないんだろう?

 それがちょっと気になって。


 まさか、とは思ったよ。


 まさか……ウハル君、パーティ組まずに1人で頑張ってるなんて。


 ……駆け出しの頃の自分を思い出してしまった。


 自分もそうだったから。


 あのとき……


 自分が女だから、男より前衛として優秀だと目障りだ、パーティから出て行けと言われた時。

 だったらもういい。私1人で全部やる。パーティなんて、頼まれないと組んでやらない。こっちが気に入らなければいつでも出て行く!


 そんな気持ちになって、1人で戦っていた時期が私にもあった。


 けど。


 ……結果的に、それは間違いだったとは私は思わない。


 あのときが無いと、多分今の私は無い。


 自分を曲げてまで、パーティを組むことに固執していたら、多分私は大切な部分を殺されていた。

 だから私は1人で戦っていたことを間違いだったとは思わない。


 ……最終的に、尊敬できる人や、信じあえる仲間と言える友達に出会って、一緒に戦う事になったけど。

 その人たちに出会えていなければ、私はきっと今でもずっとひとりで戦っていたと思う。


 だから……


「そっか」


 私は言った。


「信じ合える人とでないと、パーティ組む意味無いもんね。パーティって組めばいいってもんじゃないと思うし……」


 心配だったけど。

 私にはウハル君を否定することは出来なかった。


 私の口から「怖くても人を信じて、助け合うようにしなきゃ駄目だよ」なんて言えない……


 本当はそっちが良いんだ、って分かっていたとしても……




 どうしよう。


 私の場合は、異能があったから多少無茶が利いたけど。

 ウハル君は魔法が使えるだけの男の子だ。


 たった1人で戦い続けるなんて、そんな無茶がいつまでも利くんだろうか……?


 私の中で、嫌な想像が頭を駆け巡って行った。


 たった1人で戦い続け、ある日魔物たちに敗れ去り、餌食になってしまうウハル君。


 魔物に追われ、ボロボロになって、泣きながら死んでいくウハル君……。


 どうしよう……私に好意を持ってくれてて、叔父様の弟子でもある子なのに……

 そんな悲惨な死に方……


 紅茶を注文し、テーブルで飲みながら何か良い手は無いか考えてたけど、何も浮かばない。


 私が組んであげる……?


 ふと、そんな事を考えたけど。

 それは彼に誤ったメッセージを伝える事になりはしないか?


 彼の事は嫌いじゃ無いけど……


 恋人として受け入れるかどうかは、正直まだ分からないところがある……気がする。


 そんな状態で、なし崩し的に一緒にパーティ組んで、そのまま……って。


 駄目でしょ! 絶対駄目でしょ!?



 そんなときだった。



「アイアさん!? アイアさんですよね!?」


 彼と再会したのは。



「……えっと、誰?」


 私に声を掛けて来たのは、年齢20代後半に差し掛かろうかいう男性。


 髪の毛はちょっと長くて、後ろで縛ってる。

 筋肉質で、ちょっと背が高い男性。


 目元が少し子供っぽくて、少年っぽさを残した男性だった。


 ……会った覚えは……多分無い。


 見たところ冒険者。

 武器は打刀と脇差で、所々金属で強化した革鎧で身を包んでいる。


「すごい、何も変わってない! アイアさん!」


 興奮気味の男性。


 えーと、誰だろう?


 ……ひょっとして、ナンパ?


 そんなことをふと思い始めたとき。


「14年前のまんまだ!」


 14年……14年前って言うと……


 この国の初めての元号制定。

 そして漢字の普及開始……


 そして……


 あ……


 私はそのとき、ひとりの少年の事を思い出した。


 あの村で、出会った……


「ひょっとして、マーカイ村の……」


「そうです! オネシです!」


 オネシ君……


 14年ぶりの再会だった。


 私は14年前、とある村を救った。

 当時組んでいた頼れる相棒だった人と一緒に。


 そのときに救った子の名前が……オネシ君。


 そっか……大きくなったんだね……。



★★★(ウハル)



 ……俺は、衝撃を受けていた。


 アイアさんが、男と話していた。


 とても、楽しそうに。


 ……アイアさん……生涯独身を志してた人じゃ無かったのか?


 あの男……何者……?


 刀を持ってるけど、冒険者……?


 どういうことだ……? どういうことだ……?


 俺の目には、アイアさんが楽しそうに話しているその男が。


 悪の組織の工作員のように映った……!

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