第22話 新しい相棒
★★★(ウハル)
あの男、何者なんだ……?
年齢はアイアさんよりちょっと上、くらいか……?
一瞬、最初にアイアさんがパーティを組んだっていう男かと思ったけど、それだとあのにこやかな雰囲気は説明がつかない。
アイアさん、苦い経験として語ってたもんな。
パッと見た感じ、好青年の剣士、って感じだった。
気になって仕方ない。
アイアさんは男性との関りを断っている、って言ってたから、恋人じゃないのは間違いないけど……
俺の中で、どんどん彼に対する悪印象が膨らんでいく。
分かってる。これが嫉妬から来るものなんだ、ってことくらいは。
それでも、どうしても抑えられない。
彼の事が、某国の工作員のように見えてしまう、って事が。
俺、自分で思っていたよりも我儘で、独占欲強くて、キモかったんだな……
それを自覚させられ、俺は自己嫌悪に陥った。
★★★(アイア)
しかし、感慨深いものがある。
自分がかつて助けた子が、成長して同業者になってるなんて。
どうして冒険者……冒険者だよね?
冒険者になったのか。
私もはじめてなろうとしたとき、叔父様に止められたけど。
この子はどうしてこの道を……
やっぱり、子供の時の体験が……
「あのさ……」
ちょっと責任を感じたので
「なんでしょう?」
私は聞いた。
「……どうして冒険者になったの?」
私が言うのもなんだけど。
やくざな仕事ではあるからね。
私たちに憧れて、だったらちょっと責任を感じてしまう。
すると
「16のときにメシア様の声を聞いて、神官になってしまったので、これが運命かなと」
返ってきた言葉は、ちょっと予想から外れるものだった。
なんでも、16才になったときに、秩序の神メシア様の声を聞いて神官になってしまったので、この力を活かして人助けをするには……と考えて。
冒険者になろうと思い立ったらしい。
無論、私たちに助けられた記憶が関係してたみたいなんだけど。
村に若い頃戦士を志して冒険者やってて、引退してたお爺さんが居たらしく。
その人に剣の扱い方を習って、独り立ちしたんだとか。
もう5年くらい冒険者やってて、それなりに経験を積んでるそうで。
「へぇ、頼もしいじゃん」
「どうもありがとうございます」
私が褒めると、照れくさそうに笑った。
「今はパーティ組んでるの?」
たった1人だから。
私はそれを聞いた。
すると。
ちょっと言い辛そうに。
「いえ、ちょっと今は……」
なんでも。
ちょっと前に、パーティ内で恋愛関係のトラブルが起きて。
パーティが崩壊したらしい。
ふええええ……。
「厄介ですねぇ。惚れた腫れたってのは……」
アハハ、と困ったように笑いながら、彼。
まぁ、珍しい話じゃ無いけどね。
そういうの。
パーティ内で誰が好きで誰に嫉妬して、っての。
そういうことであっけなく崩壊したパーティなんて、それこそ掃いて捨てるほどあるんじゃなかろうか。
「そうだね。パーティは同性で組むのが一番だよ」
こればっかりは私が正しいと思う。
恋愛トラブルでパーティ崩壊を防ぐ、って意味では。
……まぁ、その場合は女性冒険者だけのパターン、苦しいな、ってのはあると思うけどね。
普通女性は馬力が無いから、力押しが必要な時困るから。
「じゃあ、今、フリーなんだ?」
「そうなりますかね」
彼は今、パーティを組んでいない。
それなら……
私は、思うところがあった。
★★★(ユズ)
私はウハルさんがひとりの女性に目を奪われているのを見ていた。
ウハルさんが好きな人って……あの
綺麗な
どこかで見たような気がする……あ……!
あの鎧、あのときのひとか……!
あのときの……ノライヌの群れに襲われたときの……!
ウハルさんの頑張りが無駄になりそうになったときに、ギリギリで駆けつけてくれたひと。
あのときの人なのか……!
そのときの私は……
何とも言えない、グチャグチャの心境になりつつあった。
ウハルさんが無茶をする原因になったのが、きっとあの女性なんだとなんとなく直感で分かってしまったのと。
その相手が、私の命の恩人のひとりであるということ。
私の失恋の原因なのに、恩人でもある。
どうすればいいんだろう?
私はどうすればいいんだろう?
助けてくれたのは感謝してる。
残念だけど、あのとき、ウハルさんは頑張ってくれたけど、限界だったし。
あそこであの人の乱入が無ければ、私はここにいないはず。
でも……
私が欲しいと思ったものを手に入れられる立場に居て、手にしていない。
でなきゃ「好きな人が居る」って言い方にならない。
恋人が居る、相手が居るって言い方になるはず。
……羨ましい……妬ましい……悔しい……。
これは、嫉妬だ。
理不尽な想いだ。
分かってる。
そんなことは分かってるの。
でも……
止められないのよ!
私は、冒険者の店の物陰からその様子を見守って、グッと手を握りしめた。
★★★(ウハル)
冒険者の店で。
1人、テーブルで物思いに耽っていると。
「ちょっといいかな」
声を掛けられて。
なんですか? と振り向いた先。
そこに居たのは……
先日、アイアさんと親しげに話していた、あの男だった。
「ゴメン、1人、なんだよね?」
愛想笑いっぽい笑顔で。
彼はそう言った。
「1人、とは?」
警戒もあったのだろうけど。
意味が理解しづらかったので、そう、訊き返す。
俺の意を察して。
彼はこう応えてくれた。
「パーティ組んでないんだよね? ってこと」
パーティを組んでいないんだろう?
その言葉の意味するところは。
俺とパーティを組まないか?
そういうことだ。
それくらい、俺にだって察せる。
まさかここで、パーティを組んでおらず、1人で活動していることを冷やかすような子供じみた真似をするために、わざわざ質問しにくるわけがない。
それぐらい、俺だって分かる。
だけど、一応聞いた。
「……俺と組みたいってことですか?」
男は、コクリ、と頷いて来た。
「キミなら信頼できるって、僕の恩人が言ってくれたんだ」
「僕の恩人……?」
そこで、彼は「あ、マズった」という顔をした。
けどそこで思い直したのか、開き直ったのか。
「……アイアさんだよ。知ってるんだよね?」
ホントは名前は出さないで、って言われてたんだけどね。
と困ったように笑いながら、彼。
ここで。
……多分、この男、悪い奴じゃない。
そう、思ってしまった。
少し前に人を信じて手酷く裏切られたばかりだけど。
その昨日の今日、は少し言い過ぎか。
そんなに間も置かずに、俺はこの男に対する警戒感を薄れさせていた。
……しかも、恋敵かもしれないのにな。
俺は、メチャメチャおめでたい奴なのかもしれない。
状況的に。
「どうだろう? 僕、今パーティを探しているんだ。キミと組ませてもらえないだろうか?」
彼からの申し出。
また、騙されるかもしれない。
そんな思いは、頭の片隅にあるけど。
相手の男、恋敵かもしれない。
そんな想いもあるけれど。
俺は、この彼が悪党だとはどうしても思えなくて。
「……いいですよ。俺で良ければ……俺はウハルって言います」
右手を差し出していた。
……いいのか? こんなにおめでたくて?
思わず自問してしまう。
しかし相手の彼は。
「ありがとう。これからよろしく。……あ、僕の名前はオネシ・ビバック。一応、神の声を聞くことが出来る、神官戦士だ」
爽やかな笑顔で、俺の手を握り返してくれた。
オネシ・ビバックさん……
……こうして俺は、手酷い裏切りの経験の後、またパーティを組むことになったのだった。
秩序の神メシアの神官戦士オネシ・ビバックさんと……。
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