第77話 決意
樹蒼から婆様を通じて流黒、陽紅、白虎を通じて地黄が繋がれた。念の輪が繋がれ場が開かれた。
婆様(すまんの。もう眠りについておったか?)
白虎(いいえこれからと思っていたところです。)
婆様(あまりこの輪の中で最後の力を使いとう無い。手短に話すので確認し合うように・・・)
念の輪の中、それぞれが念の五方陣を開く事への意志を確認した。樹蒼の母への意識。流黒の明日への決意。白虎の民への想いと心配。地黄の自由人への愛。陽紅の芽生えた思慕と新たな挑戦。お互いが認識し確認し合い五方陣の頂の位置も確認した。明日から移動を始め三日後の朝、樹蒼を皮切りに念が送られ始めることも約束した。婆様は早急に輪を閉じたがった。自分のパワーを少しでも残しておきたいようだった。婆様は流黒たち二十二世代目と異なり自分の体力と共にパワーが生み出せない世代だったからである。輪が閉じられる瞬間、樹蒼は少し寂しげに陽紅へ念を送った。
樹蒼(陽紅・・・気をつけて気をつけて旅立つように・・・)
陽紅もそれに答えた。
陽紅(ありがとう。樹蒼もね。気をつけて・・・)
陽紅が白虎を慕うように樹蒼の念にも陽紅を慕う気持ちが込められていた。それはどちらも同じように始まったばかりの思いであり、若くキラキラとした輝きを放っていた。まだ恋と呼べるほど深いものでは無いが確かにそれは各々の内に存在していた。陽紅が白虎を慕う気持ちをみんなが感じ取ったように樹蒼も感じ取り樹蒼は少し切なく寂しく思って最後にどうしても一言陽紅へ言いたくなったのだった。樹蒼の気持ちは陽紅も感じ取りすこし照れていたようだったがすぐに自分の身に置き換えて樹蒼に接した。
(好意を持つ相手に冷たくされるのはいやだから。)
素直な陽紅の気持ちと態度だった。精一杯の気持ちで樹蒼にありがとうという気持ちを込めて「気をつけて」と伝えたのだった。
そんな陽紅を見て隣の部屋で流黒は陽紅が少しだけ大人になったと思い返していた。しかし白虎の眠りかけた横顔を見ながら流黒は考えていた。流黒にとっては父親のように慕っている白虎へ妹の陽紅が恋心のようなものを抱いているのがいやだった。しかしそれは本当に淡くまだあこがれとも言い換えられるようなものだったし、そう言って流黒は自分を納得させるしか術は無かった。その時白虎が目を閉じたまま流黒へつぶやいた。
「もう寝なさい。明日は旅立つ日だ。体力はパワーにつながるからね。」
流黒は小さく「はい。」と頷くと目を閉じた。白虎は流黒へ付け加えた。
「心配することはないよ。陽紅はまだ大きな世界を見ていないだけだ。今にきっと陽紅にふさわしい相手を愛するようになる。そうして今の気持ちが恋ではないことに気がつくよ。」
流黒は自分のことも陽紅の事も本当の父親のように想い愛してくれている白虎の存在を改めて感謝した。そして白虎自身気がついていないかもしれない、というより自分自身で閉じこめてしまっている流黒の母、紫音への愛を感じ取っていた。それは紫音の兄としてのものも含まれるがそれ以前にやはり女性として紫音を愛している気持ちが白虎の中には深く静かに仕舞われていたのである。流黒は少し切なくなって布団をかぶり小さく呟いた。
「お休みなさい。」
大きな挑戦を控えた前夜が流黒と白虎の眠りを包みしんしんと更けていった。
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