第16話

「でっかい!」

「なっがい!」



 おめめキラキラの二人が見上げる先には、立派な首を持ったキリンがいる。

 さっきまでの怯え具合はどこへやら。わかりやすくテンションが上がったな。



「正吾、すっごくおっきい!」

「見てしょーご! にょきーんて! にょきーんて!」

「ああ、そうだな」



 ただ二人とも。周りにお客さんもいるんだから、そんな子供みたいにはしゃがないで。恥ずかしいから。


 二人が楽しそうに動物を見ている姿を、スマホのカメラアプリで撮影する。

 盗撮ではありません。思い出なので、決して盗撮ではありません。


 その後、まるでアトラクションを楽しむように動物を楽しむ二人。


 あっちへ行ったり、こっちへ行ったり。

 気が付けば十二時を超えていて、丁度お昼時になっていた。


 ズーランドは園内にレストランがある。

 一般的なレストランよりは割高だけど、味はイけるらしい(夢葉談)。


 にしても。



「すっげぇ人……」

「こんなに人がいたんだね」

「まあ、休日だから。これでも少ない方だよ」



 ほぼ満席の状態なのに、これで少ない方なのか。

 やっぱり人気なんだな、ズーランド。


 辺りを見渡して空いている席を探す。



「うーん。丁度お昼時だから、空いてないな」

「そだねぇー……あっ、あったよ!」



 夢葉が空いている席を見つけて走り出す。

 確かに一つだけ席が空いてた。

 けど……。



「二人用だな、この席」

「椅子が二つしかないね。どうしようか?」

「あぅ……ごめん、二人とも」



 シュンとしてしまった夢葉。

 うーん、こういう時は。



「二人とも、座って席を取っててくれないか? 俺、飯買ってくるから」

「え? で、でも……」

「正吾、それじゃあ君が……」

「なんのことだ? 俺は席が取られないように座ってて欲しいって言ってるだけだ。それに二人とも、いっぱい歩いて疲れてるだろ? ここは俺に任せてくれ。な?」



 二人の肩を押さえて、椅子に座らせる。

 二人は申し訳なさそうだけど、ここで席を取られたらそれこそ面倒だからな。



「月宮、夢葉。何食いたい?」

「えっと……私はオムライスで」

「わ、私っ、生姜焼き!」

「はいよ。待ってな」



 二人を待たせて、食券機に向かう。

 オムライス千二百円。生姜焼き定食千百円。俺は……ハンバーガーセットでいいや。八百円っと。


 食券をスタッフに渡し、待つことしばし。

 まずはオムライスと生姜焼き定食を持って、二人のところに戻った。



「はいよ、お待たせ」

「ありがとう、正吾。そうだ、お金……」

「わ、私もっ。いくらだった?」

「いや、気にすんな。今日は俺の奢りだ」



 貴重な写真もたくさん撮らせてもらったからな。

 あんなはしゃいで可愛い二人を写真に撮らせてもらったんだ。これくらい奢らないと、バチが当たるだろ?



「そ、それじゃあ……」

「お言葉に甘えて……ありがと、しょーご」

「気にすんな」



 今度は自分の分のハンバーガーを取りに行き、二人のところに戻った。


 俺はハンバーガーとポテトとジュースだから、別に立って食べても問題はない。


 まあ、それを見越してこれにしたんだけど。


 二人は俺が来るまで待ってたみたいで、俺が来てから料理に手を付けた。


 俺も二人の側で紙袋からハンバーガーを取り出し、かぶりつく。

 うーむ、この陳腐な味。たまらんなぁ。



「……しょーごってさ、優しいよね」

「確かに。こんなに優しい男の子は見たことがない」

「そうか? 優しい奴なら他にもいるだろ。お前らといつも一緒にいる、時宗白馬とか」



 トップオブトップのメンバーで、サッカー部のエース。人は奴を、男版月宮鈴乃という。


 運動神経がよくて頭もよくて顔もよくて声もよくて性格もいい。

 反則みたいにイケメンなやつだ。


 あいつに比べたら、俺なんて……。



「あー、時宗っちねぇ」

「白馬はなんというか……わざとらしい感じがする」

「そうそれ。しょーごはナチュラルだけど、時宗っちは狙ってやってるみたいな?」



 そうなのか?

 やっぱりいつも一緒にいるから、そういう所も目に付くのかもな。



「……ま、何にせよ俺は普通にしてるだけだ。可愛い女の子を立たせて待たせるなんて、そんなことはしないよ」

「「ダウト」」

「え!?」



 な、何が!?



「ナチュラルに可愛いとか言っちゃったり、自分は文句言わずに立ってご飯を食べたり……なんかもう、ダウト!」

「そんなこと言われても、これが俺だしなぁ」



 むしろ何が悪いのかわからない。



「正吾。連れが重いものを持ってたら?」

「何も言わずに俺が持つ」

「色つきリップの色を変えたら?」

「似合ってたら褒める」

「似合ってなかったら?」

「それも似合ってるけど、前の方が好きだと正直に言う」

「「ダウト」」

「だから何故!?」



 な、何がダメなんだ……いったい何を間違えてるんだ、俺は……!?



「正吾、誰にでもそういうこと言っちゃダメだよ」

「そーそー。しょーごはすーぐそういうこと言うんだらか」



 ちょっと不機嫌になった二人が、俺の悪口で盛り上がる。

 もう、何がなんだか……?



【あとがき】

 作者からのお願い。

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 ☆☆☆→★★★


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