第14話

 え、どうしてここにいるんだ? だって家を出る時、鈴乃は家にいて……あれ? 家にいたこと確認してないな。


 まさか、付いてきた?

 ……いやいや、鈴乃はそんなことするような子じゃない。

 俺らが出掛けるって聞いて、たまたま鈴乃もズーランドに出掛けたくなったんだろう。


 なんて思案していると、夢葉が鈴乃に抱きついた。



「鈴ちゃん奇遇だねぇ! えっ、どーしたの? みんなと一緒?」

「いや。今日は私だけで来たんだよ。たまには一人で、こういう所に来たくなるものさ」

「えー? みんなと一緒の方が楽しくない?」

「ふふ、夢葉にはまだ早かったかな」



 おい、同い歳。


 鈴乃はまるで子供をあやすように、夢葉の頭を撫でる。

 こうして見ると、本当の姉妹みたいだ。鈴乃はハーフだけど。



「二人は一緒に来たのかい?」

「うんっ。今日はしょーごと遊ぶ日なんだぁ」

「そ……そぅ……」



 ウキウキしている夢葉に対し、鈴乃は少し意気消沈していた。

 自分は一人なのに、俺らが一緒に遊んでるのを見て悲しくなっちゃったのかもしれない。

 ……やっぱりあの時、鈴乃も誘っておけばよかったかな。悪いことをした。



「……もしかして、鈴ちゃんも一緒に遊びたい?」

「いやいや。ここに来たのはただの偶然なんだ。それなのに、二人の楽しい時間を邪魔するなんて……」



 と、爽やかに断っているけど……あれ、嘘だな。


 鈴乃は嘘つく時、目を逸らして鼻をかく癖がある。昔から一緒にいる俺にしかわからない、僅かな癖だ。


 そうか。鈴乃のやつ、夢葉と遊びたくて俺を付けてきたんだな。

 なんだかんだ、鈴乃も休日に友達と遊んだことがない。いつも俺と一緒にいたし。


 でも、ここで俺が手助けすると、俺と遊びたいって言ってくれた夢葉を裏切ることになる。どうするか……。



「それなら、今日はみんなで遊ばない?」



 え、夢葉?


 夢葉は満面の笑みで鈴乃に抱きつき、俺の方を振り返ってきた。



「ねっ、しょーご。いいかな?」

「あ……ああ。俺はいいけど……夢葉はいいのか? 今日は……」

「いいのいいの! 私も鈴ちゃんと遊びたかったし、鈴ちゃんが一人ならちょうどいいかなって!」



 夢葉……なんて純粋で、なんていい子なんだ。是非ともこのまま汚れを知らず育って欲しい。同い歳だけど。



「え、いいのかい? そりゃ、一人よりはみんなと遊んだ方が楽しいけど……」

「もっちろん! ここで会ったのも運命だよ! さあ、行こー!」



 うーん……なんか、やけくそ感出てないか?

 やっぱりいきなり人数が増えたことで、予定が狂っちゃったとか。


 スキップして園内に入る夢葉を追うように、俺と鈴乃も園内に入る。



「……で、実のところどうなんだ?」

「何が?」

「偶然って言ってたけど、俺を付けてきたんだろ?」

「う……正吾に隠し事はできないか」

「当たり前だ。何年、鈴乃のことを見てきてると思ってる? 鈴乃のことはなんでもお見通しだ」

「えっ……!? そ、それって……」



 鈴乃が頬を染めて、何かを期待してるような目で俺を見てくる。

 ああ、当然わかってるさ。



「夢葉と遊びたくて、俺を付けてきたんだろ? そんなことしなくても、お前なら夢葉を誘えば喜んでくれるさ」

「…………はぁ」



 えっ、なんでため息? 俺変なこと言った?



「まあ、正吾は昔からそんな感じだからね。全くもう……」

「そ、そうか? これでも色々変わってると思うんだけど。鈴乃のために磨いた料理の腕とか」

「そっ、そういうところが変わってないって言ってるんだよ、ばか」



 罵倒された。解せぬ。

 うーん。やっぱりわからない。どういうことだろうか。



「……ごめん、正吾。実は正吾を追ってここまで来たんだ」

「いや、それは知ってるけど」

「そ、そうじゃなくて。……私も、正吾と遊びたくて……ごめんね」



 キュッと服の裾を摘まんできた鈴乃。その表情は王子モードではなく、いつも俺だけに見せている姫モードの顔だった。


 それにしても……俺と遊びたくて? 夢葉とじゃなくて、俺と?



「な、なんで……?」

「ほ、ほらっ。こっちに引っ越してきて、正吾と外で遊ぶこともなくなったでしょ? それで、我慢できなくなっちゃって……」



 あ……そうだ。確かに。

 こっちに来る前は、よく二人で色んなところに遊びに行っていた。

 でもこっちに来てからは、そんなこともなくなってしまった。


 それもこれも、鈴乃の姫モードを誰かに見られる危険性を無くすために。


 俺は馬鹿だ。鈴乃の気持ちと寂しさを考えてなかった。

 ただの幼馴染とはいえ、いきなり遊ばなくなったら悲しいに決まってるじゃないか。



「ごめんな、鈴乃。これからは、こっちでも遊びに行こうな」

「わ、私の方こそ、わがまま言ってごめん。……ごめんなさい」



 互いに謝り、どちらともなく笑った。

 ま、鈴乃の姫モードも気を付ければバレないだろうし。もっと鈴乃の気持ちも考えてやらないとな。



「おーい、二人ともー! 早くいこーよー!」

「おー! 今行くー! 鈴乃、行くぞ」

「うんっ」



 にこやかに微笑む鈴乃。

 その笑みは、王子モードでも姫モードでもない。月宮鈴乃本来の、綺麗な笑顔だった。



【あとがき】

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 ☆☆☆→★★★


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