第13話
◆
そうしている内に、約束の土曜日になった。
高校生になってからこうして遊びに行くのは初めてだ。そもそも高校生の遊びってものがどういうものなのかわからない。
夢葉が準備してくれてるらしいけど、どんな休日になるんだろうな。
「準備は完了っと。あとは……」
今朝、鈴乃はうちに来ていない。家を出る前に一言声くらい掛けていくか。
隣の部屋に向かい、チャイムを鳴らす。
……あれ、おかしいな。出てこないぞ。
もう一度鳴らす。けど……やっぱり出てこない。まだ寝てるのか? もう10時になるんだけど。
「全く……おーい、鈴乃。俺もう行くけど、飯はちゃんと食えよ」
って、ここで声を掛けても意味はないんだろうけど。
お菓子とご飯の作り置きはしてるし、合鍵も渡してるから暇だったらうちに来てもいいとは言ってるけど。
……ま、鈴乃ももういい歳だし、余り干渉することもないか。
「じゃ、行ってきます」
玄関前でそっと挨拶し、俺は待ち合わせ場所に向かった。
待ち合わせ場所は、駅前にある時計塔の真下だ。目立つし、この辺のカップル達の待ち合わせ場所にもなってるから、夢葉みたいな小さい女の子でもすぐ見つけられるだろう。
雲一つない天気だし、遊ぶには持って来いの気温だ。
ゆっくり歩いていくこと二十分。駅前に着くと、時計塔の下で色んな人達が待ち合わせをしていた。
その中でも、一際目立つ小さい女の子が、前髪をいじって待っている。
黒のショートパンツに、白のオープンショルダーのシャツ。
髪はつものポニーテールではなく、長い三つ編みにされている。
肩掛けのショルダーバックを斜め掛けにしてるし、なんというか……子供が背伸びしておめかししてる感が出てるな。微笑ましい。
このまましばらく見ててもいいけど、もう待たせちゃってるから……行くか。
「夢葉、お待たせ」
「! しょ、しょーご! んーん、待ってないよっ」
満面の笑みを浮かべる夢葉。うーん、やっぱりこう見ると可愛いよな、夢葉って。
ぴょこぴょこと近付いて来た夢葉が、嬉しそうな顔で見上げてきた。
「今日ね、今日ね! 私、すっごく楽しみにしてた!」
「ああ、俺も楽しみだったよ」
「ほんと!?」
「もちろんだ。今日は沢山楽しもうな」
「うん!」
こう言ってしまうのは申し訳ないけど。……やっぱり女児感出てるな。とても同級生とは思えない。
「当たり前だけど、夢葉の私服初めて見るな。似合ってるよ。元気なお姫様って感じだ」
「え、えへへ。ありがとっ。しょーごも、か、かっこいいよ……!」
「はは。ありがとう」
といっても、ズボンにシャツにジャケットと、シンプルなデザインのものしか着ていないんだけど。
「さて、陽射しも暑いし、そろそろ移動しよう。今日はどこに行くんだ?」
「うんっ、色々迷ったんだけど、動物園はどうかな? 私、動物好きなの!」
ほう、動物園か。実家にいた時は、鈴乃の家と家族ぐるみでよく行ってたっけ。
ここ最近は動物園なんて行ってなかったなぁ。
「オッケー。じゃ、行くか」
「おー! ぬふふ、ゾウさんキリンさんライオンさ~ん♪」
「あんまりはしゃぎすぎるなよ。転んだら痛いぞ」
「はっ! そ、そうだね。ピシッとします。私は立派な大人なので。ピシッ」
立派な大人は、ピシッて言葉にしないと思うけど。
ま、それも夢葉らしいか。
夢葉と一緒に電車を乗り継ぐこと1時間。
県内で一番大きい、ズーランドと呼ばれる動物園に到着した。
県内の小中高生なら一度は来たことあるらしいけど、俺は初めてだから期待値が高い。
「すんすん。んーっ、この動物園独特の匂い……たまらないよぅ!」
「確かに、独特の獣臭さがあるよな。俺もこの匂い、嫌いじゃない」
「おぉ、この良さがわかるなんて、さすがですな!」
「この匂いを嗅ぐと、動物園に来たって思うよな」
「そうそう! そうなんだよ!」
夢葉は腕をぶんぶん振り回して、太陽のような笑みを浮かべた。
「それじゃあ、早速チケット買ってくるか」
「行こう行こう! ふふふ。何を隠そう、私はこの身長のおかげでギリギリ子供料金で入れるのだ!」
「いやそれ犯罪だから」
「やだなぁ、ちびっ子ジョークだよう」
正否の判断に迷うジョークはやめてくれ……。
ま、いいか。さっさとチケットの列に並ぼう——。
「あ、あれ? そこにいるのは正吾と夢葉じゃないかっ」
「ん?」
「え?」
後ろから、聞きなれた声が聞こえた。
まさか……え、まさか?
ゆっくり振り返ると、そこにいたのは。
「あ、鈴ちゃん!」
「鈴乃……?」
俺の幼馴染兼隣人兼絶賛片思い中の相手……月宮鈴乃が、そこにいた。
【あとがき】
作者からのお願い。
続きが気になる、面白いと思ったら、星や応援、フォローをお願いします!
☆☆☆→★★★
こうしていただけると嬉しいです!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます