第7話

 チェルシーは飲み屋に来ていた。

 といっても、お酒を飲みに来たわけではなく、最近の町の情報収集が目的だった。

「ごきげんよう、マスター」

「よお、チェルシーお嬢様、元気そうだな」

「おかげさまで」

 チェルシーは店の中を見渡した。掃除は行き届いていて、まだ店には客がいなかった。


 マスターは言った。

「グルートビールの売り上げは上々だよ」

「あら、それは良かったですわ」

「ところで最近、なにか変わったことはおきておりませんの?」

「ああ、いつも通りさ。そういや、クラーク王子は最近ヘイゼル嬢と仲が良いみたいだ」

 チェルシーは無感情に、そう、と言った。

 その手は、閉じた扇子をぎゅっと握りしめていた。

 マスターは首をすくめた。


「それとクラーク王子は相変わらず、晩餐会に出たり、鷹狩りをしたり、遊びたい放題らしいぜ」

「まあ、そうですか」

 チェルシーはそうは言ったが、心の中では疑っていた。

「それでは、ごきげんよう」

 チェルシーは金貨を一枚、マスターに渡した。情報料だった。

「まいど」


 チェルシーが店を出ると、マスターは奥に声をかけた。

「クラーク様、もう大丈夫ですよ」

「ありがとう、マスタ-」

 クラークはチェルシーが来る前に、飲み屋に来ていたのだった。

「それにしても、なんで自分が遊び人だって、チェルシー様に思わせたいんですかい?」


 クラークはマスターの質問に、微笑みで返した。

「まあ、俺は金がもらえればそれでいいんですけどね」

「そうだな。情報料の金貨5枚だ」

「ありがとう、クラーク様」

 マスターは金貨をポケットにしまった。


「チェルシーも情報を仕入れていたのか」

 クラークは笑いをかみ殺した。

「グルートビールの売り上げの報告は国には上がっていない。やるな、チェルシー嬢」

 クラークは頬杖をついて、ため息をついた。

「まずは、ヘイゼル嬢が教会に納めている献金額の多さが問題だな」


 クラークが考え込んでいると、いつのまにかマスターがグルートビールを置いていた。

「ありがとう」

 クラークは遠慮無く飲んだ。

「グルートビール、美味いな」

 クラークはチェルシーのことを考えていた。

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