第6話
「お父様、今日は小作人の視察に行く日ですわね」
「そうなんだが、私は昨日腰を痛めてしまってね」
「では、私が一人で参りますわ」
チェルシーは父親にそう言うと、外出の準備をした。
「チェルシー、一人で大丈夫?」
「はい、お母様」
チェルシーは笑顔で母親に答える。
母親はチェルシーに大きめのお弁当を用意し持たせた。
外は快晴だった。
「気持ちの良い日ですわね」
馬車は軽快に走って行く。
しばらくして小作人の家に着いた。
「小麦の生産は順調ですか?」
「はい、お嬢様」
「それでは、グルートビールの出来具合は?」
「上々です」
チェルシーは、小麦よりももうけの多い、グルートビールを小作人に作らせていた。
「それでは、これからも頑張って下さい」
「はい、頑張ります」
チェルシーは視察を終え、暇になったので、昼食を取ることにした。
「この辺りで食事に致しましょう」
チェルシーがお弁当を広げて居ると、騒がしい声と馬の駆ける音が聞こえてきた。
「あら、何でしょうか?」
音の方を見ると、クラークとヘイゼルの兄が鷹狩りをしていた。
「まあ、ごきげんよう。クラーク王子、ヘイゼル・クリフォード様」
「ごきげんよう、チェルシー様」
「お昼ですか?」
そのとき、クラークの連れた鷹が、チェルシーの弁当を狙った。
「!!」
クラークは鷹を鎮めると、チェルシーに話しかけた。
「今日はピクニックですか?」
「はい、天気が良いので」
チェルシーは詮索されたくはなかったので、クラークに話を合わせた。
「クラーク王子方は鷹狩りですか?」
「ええ、成果もほら」
そう言って、クラークは捕まえたウサギを見せた。
「まあ、可哀想」
チェルシーは思っても居ない台詞を口にした。
「美味しいですよ」
クラークは笑った。
「……そうですわね」
チェルシーはサンドウィッチを、クラークとクリフォードにも勧めた。
「お一ついかがですか?」
「それでは頂きます」
クラークはチェルシーの持っていた、食べかけのサンドウィッチをパクリと食べてしまった。
「クラーク様、私の食べかけですわよ?」
チェルシーが驚いていると、クラークはいたずらっぽく笑って言った。
「チェルシー様の食べかけなら、気になりません」
クラークの言葉にチェルシーは赤面した。
「それでは、この辺で失礼致します」
「ごきげんよう」
クラークとクリフォードは鷹狩りに戻っていった。
「クラーク王子は、ヘイゼル様のお兄様とも仲がよろしいのですね」
チェルシーは残っていた弁当を食べ終えて、馬車に戻った。
「私の食べかけなら良いだなんて、思わせぶりですこと」
チェルシーは家に帰るまで、クラーク王子のことをボンヤリと考えていた。
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