ふたりは幼馴染み♡


「うぅ~~~~っ!?」



 リタルダのコクピット内で、真琴は今日何度目かの呻きをあげた。


 身体が揺さぶられる。


 真琴を乗せたリタルダが……否、その躯体を格納、固定しているアイズネクストが、激しく機動しているのだ。


 身体はシートベルトで固定しているが、左右の旋回の際には壁に張り付けられ、錐揉み飛行をすると宙ぶらりになって、頭に血が昇る。


 そのせいか、真琴は、少し苛立った。


 この船の、こんな、乗員を配慮していない動き。


 この船の艦長は、なんて無鉄砲な人なんだろう。


 お陰でリタルダの外に出ることが出来ない。



「早くトキオに会いたいうゆね!」



 逆さまになったティセリアに、真琴は「そうだね……」と、控えめな口調を繕って応える。


 本当は凄く、凄く会いたい。


 コクピットスクリーンには、メンテナンスハンガーに固定されたエクスレイガが映っている。


 あの中に時緒がいる。


 もどかしい。


 こんな戦い、早く終わってしまえば良いのに。



「~~~~…………」

「ゆきえちゃん、もう少し頑張って」



 ロボ酔いに船酔いも合わさり、顔面が蒼白から土色に変色したゆきえと、彼女を苦笑で哀れむ修二を傍らに……真琴は暫し、自分勝手な気持ちに身を落とす――。






 ※※※※




 一方、エクスレイガのコクピット内では、時緒が静かに座禅を組んでいた。


 あちらこちらから、懐かしい気配を痛いほどに感じる。


 早く、コクピットハッチを開けて、皆に会いたい。


 しかし、アイズネクストが戦闘中なので、今は時緒はじっとしている。



「…………」



 真正面から、佳奈美の視線を感じる。


 佳奈美が、じっと時緒を見ている。


 圧迫感が、凄い。


 配慮のへったくれもない、真っ直ぐ、無遠慮な視線だ。



「…………何よ」



 視線の圧力に耐えきれず、時緒がぶっきらぼうに尋ねる。



「みんなビックリするじぇ!まこっちゃんなんかひっくり返っちゃんかも!!」



 佳奈美に弾んだ声で言われて、時緒は「あ~~……」と、エクスレイガのコクピットの天井を仰いだ。


 エクスレイガも難なく使えたので、時緒は忘れかけていた。


 目のことを、皆に話しておかなければ……。


 時緒は、少しだけ気が重くなる。


 取り敢えず――



「佳奈美、しつこい」

「ぎにぇっ!?」



 時緒は、凝視ガン見を続ける佳奈美の額に、適格に手刀を喰らわせた。




 ※※※※





 荒ぶ轟音!飛び交うビーム、ミサイルの雨アラレ!



『この軽薄な動き!やはり神宮寺!貴様ァ~~~~ッ!』

『ムッハハハハ!松井ィ!相変わらずドンクサイ男よのぉ~~~~ッ!』



 光と炎の中を掻い潜り、二隻の巨大戦艦は……アイズネクストと松風はぶつかり合う!



 !!!!!!!!



 互いにビームの応酬!二隻の甲板上で、ルリアリウムエネルギーの火柱があがる!



「ぎょおおおおおおおお!?!?」



 上下左右から襲い掛かる暴力的な慣性に振り回され、青木は悲鳴をあげた。


 プロフェッサー白鷺は、既に失神びていた。



「ま、松井艦長!?このままでは――」

「やかましい青二才黙れ静かにしてろ!!」

「ごめんなさい!!」



 血走った松井艦長に即座に謝って、青木は心内で地団駄を踏んだ。


 これだから老兵は嫌いだ。歳上だからと、怒鳴ればなんとかなると思っている。青木こっちが上官なのに。


 どいつも、こいつも、何故――!


 視界の端で爆炎が上がり、青木のシルエットを、逆光で黒く塗り潰す。


 ふと、発作のように……。


 青木は、過去を思い出した……。



 ――ドウシテダレモ……ボクヲワカッテクレナイノ……



 ――ボクハ……タダ……



 そして、必死に頭を振って、消し去った……。





 ※※※※





「ウーハー!どうじゃ儂のアイズネクストは!?すごいぞ~~!カッコいいぞ~~!!」

『喧しい!直ぐにその減らず口を叩けなくしてやるぞ!?神宮寺のクソジジイ!!』

「クソジジイって言った方がクソジジイなんですぅぅ!ていうか儂ら同い年タメだろこのスットコドッコイ!!」

『お・の・れ~~~~!!』

「悔しかったら言い返してみろい!ま、お前みたいなノロマに何言われても悔しくもなんともモンね!」

「オイオイオイオイバラしやがったなこの野郎オ!!」



 指揮する艦は空前絶後の激戦を繰り広げているのに、当の艦長二人は、今時小学生もやらないような口喧嘩をやっている。



「…………」



 大竹は呆れ果てた。


 これが……地球防衛軍極東支部が誇る、名艦長二人……。


 まるで悪童そのものといった喜八郎たちに脱力して口を開けつつ、少し気になることがあったので、大竹は優等生のように挙手をした。



「あの……」

「大竹君?どうした?」

『何だ!?命乞いか脱走兵!?』



 喜八郎と、立体ウインドウの中の松井艦長の視線が、大竹に集中する。



「お二人はどういった御関係なんです?」



 大竹の質問に、隣の席の渡辺、嘉男に薫に圭院がほぼ同時に頷いた。


 伊織はハンドルを捌きながら、律は引き金を引いてビームを叩き込みながら、興味津々の面持ちで喜八郎たちを見た。


 喜八郎は一瞬で真顔になる。



「どういったも何も、儂と松井は同郷の幼馴染みじゃ」



 そして、再びにやけ面を浮かべ、不機嫌極まりない松井艦長が映るウインドウを指差した。



「昔から鈍臭い奴でな!そのクセ、子どもの頃からイカしてたこの儂によ~~く突っかかって来たもんじゃ!」

『イカしてた!?誰が!?お前が!?冗談だろ!?ボケたかジジィ!?』



 歯を剥いて抗議をする松井艦長に、喜八郎は人差し指を立て、フフンと気障に鼻を鳴らす。



「勉強も駆けっこも相撲も!断然儂が上だったわ!」

『嘘吐くんじゃねぇ!算数は俺の方が上だった!』

「空襲の時、防空壕の中で漏らしてたクセに!」

『お前だって漏らしてただろ!』

士官学校がっこうの昼飯、2回奢ってやったのに!何て言いぐさッ!!」



 アイズネクストから二条のビームが放たれ、松風の甲板を焼く。



『俺は……13回奢らされたッ!!』



 松風のポッドからミサイルが十三発射出され、アイズネクストの各所で爆発する。



 喜八郎は鼻下のカイゼルを撫でながら、松井艦長を睨み付けた。



「松井……さては貴様!士官時代にお前の背中に【兄貴募集中】の張り紙張ったの、未だ根に持っておるな!?」



 途端、松井艦長の顔面が深紅に変色した。



『アレやったのやっぱりお前かああ!!』



 松風の攻撃が勢いを増した!


 ビーム、ミサイル、対空砲、衝撃砲、再発進したK.M.X 部隊の猛攻が嵐となって、アイズネクストに襲い掛かる。


『上官や先輩たちから連日言い寄られて迫られて……大変だったんだぞッ!!』

「……うん、あの節は……完全に儂が悪かった。まさかあんなコトになるなんて……。ごめんなさい」

『ごめんなさいで済むかッ!俺の操をッ!!』



 アイズネクストは迎撃を最小限に、伊織の運転センスで回避と防御に撤する。



「…………」



 騒ぐ喜八郎と松井艦長を見ながら、大竹は思った。


 自分の老後は、もう少し御淑やかに生きたいものだ……と。



「あ……っ!」



 不意に、通信席の薫が、声をあげた。



「神宮寺艦長!会津若松の本陣から……真理子さんの放送が始まります!」





 続く




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る