上から観るか、下から撃つか




 川桁の駅前が遠く、小さくなっていく……。


 こぢんまりとした無人駅の……歩けば直ぐ住宅街と田畑が広がる、これまたこぢんまりとしたロータリー。


 たった一騎残った正直のエムレイガは、飛び立つエクスレイガたちに手を振った後、相対するK.M.X群の雑踏の中へ、飛び込んでいった……。



「マちゃナオおじちゃま……大丈夫うゆ?」



 リタルダのコクピット内。スクリーンに顔を張り付けながら、眉をハの字にするティセリアに、



「大丈夫だよ!」



 修二は笑顔で頷く。小学校の男子(高学年に至っては男女隔て無く)虜にする、美貌の笑みに、リタルダ内の面々がときめいた。



「父ちゃんは猪苗代最強だよ!あんな奴らになんか敗けないのさっ!!」

「…………!」



 修二が断言し、傍らのゆきえがガッツポーズをする。


 ティセリアの顔に、笑顔が戻った。


 眼下で連発する、爆発の閃光を見ながら、ティセリアはふと考えた。


 ティセリアには、最強の銘が付いた大人を、もう一人知っている。


 ルーリア銀河帝国、総騎士団長、ダイガ=ガウ=リーオだ。


 ダイガの戦う様は、ティセリアは勉強の一環で、映像として見たことがある。


 ダイガの駆る専用騎、ガウラ・オーガが、その大剣を一振りするだけで、相手の星の艦隊が、根こそぎ吹き飛んでいくのだ。


 もし……ダイガと正直、二人が戦ったらどちらが勝つのか……?


 ……あまりに凄まじいことになりそうなので、予想も着かないので、ティセリアは思考を止める。



 ――ゴ○ラとガ○ラが戦うみたいなモンだゆん……。




 ※




 そんな、上の空なティセリアの傍らで――




「時緒くん……!良かった……!本当に……!」



 真琴は、スクリーンに映るエクスレイガを見つめ、嬉しくて咽び泣いていた。


 今、自分たちか乗っているリタルダを……それを抱えて飛ぶエクスレイガを通じて、時緒の雄々しいエネルギーが伝わってくるようだ。


 早く、面と向かって会いたい。


 その顔が、見たい!



「…………」



 真琴は、ふと顔を曇らせた。


 やはり……どうしても……芽依子の顔が脳裏にちらつくのだ。


 時緒が帰って来たことは素直に嬉しい、涙が出るほどとても嬉しい……。


 だが……。


 真琴は持ち前の想像力で、妄想してしまう。



『時緒くんが帰って来たよ!芽依子ちゃん!』

『ええ!ええ!やったわ……本当に!!』



 芽依子と抱擁を交わし、喜びを分かち合う、自分の姿を。


 今、自分の隣に、芽依子がいてくれたら……どんなに嬉しいか……!



「ア、アイツら!しつこ過ぎるぜ!!」



 突然の、ノブの荒ぶった声が、真琴を現実に引き戻す。


 瞬間、コクピットスクリーンに、一条の閃光が走った。



「……!?」



 真琴は、ティセリアのようにスクリーンに顔を張り付けた。


 K.M.Xが三騎、ライフルを乱射しながらエクスレイガたちを追随して来ている。


 アイズネクストの攻撃から、辛くも逃げ伸びた者たちのようだ。躯体のあちらこちらが損傷し、火花が散っている。



「退き際っていうの知らないんですかっ!!」



 真琴が怒りに叫ぶ。


 そんなにあいてが憎いか。怖いか。


 完膚なきまで滅茶苦茶にしてやらないと気が済まないか!



 ――私たちは、時緒くんに会いたいだけなのに!



 エクスレイガと、文子のエムレイガが、追跡者K.M.Xたちに、頭部の銃口バルカンを向ける……。





 !!!!!!!!




 突如、K.M.Xたちが、立て続けに爆発した。


 膨れ上がる、ルリアリウムエネルギーの炎。


 巨人の残骸が、エネルギーに内部から炙られ、落ちて……猪苗代の地面に激突する寸前に、砕けて散った。


 リタルダ内の、リースン、コーコ、ノブが驚いて息を飲み、ティセリアと修二がオォーーッと歓声をあげる。



「……!」



 真琴は確と見た。


 追跡者を葬ったのは、ミサイルだった。


 アイズネクストからの攻撃ではない。


 ミサイルは、空からではなく、地上から幾重にも打ち上げられたものだ。


 正直が撃ったのか?真琴は懸命に、空中に白く残ったミサイルの軌跡を辿る。


 …………。


 ………………。


 ……………………。


 ……いた!


 猪苗代湖の畔に、巨大なヒトの影が……!



「コーコさん!猪苗代湖の……あそこ!拡大出来ますか!?」



 真琴が、コクピットスクリーンを指差す。



「へっ!?は、はいっ!!」



 コーコは慌ててディスプレイを操作して、真琴が示した箇所を拡大した。



「あれは……!?」



 畔にいたのは、一騎のエムレイガだ。


 長方形のミサイルポッドを携え……無機質なバイザーで空を見上げている。


 その肩には、が印されていた。



「あのエンブレムは……!のエムレイガ……!」



 ノブの呟きを、真琴は聞き逃さなかった。


 お嬢、つまりは――



「芽依子ちゃん……!?」



 あの騎体マシンに……!助けてくれた……?


 真琴がハッとして、一時呼吸も忘れて、ツバキのエンブレムを冠したエムレイガを見つめる……。





 そのエムレイガは、撃ち終えたミサイルポッドを肩に担ぐと踵を返すと、磐越西線沿いに、西へとホバリングで去っていった。


 真琴は、エムレイガの背中を……酷く寂しげな背中を、見つめ続けた。




 ※※※※





『ぎゃあぁぁ~~~~っ!!』



 正直が……もう何十体目になるか……K.M.Xの図体を、脳天から、まるで柔いバターのように左右に斬り割いた……その時。


 正直が、着物の胸元に仕舞っていた携帯端末が、鳴った。


 例え乗っているのが車ではなく巨大ロボット(量産型)でも、ながら運転は宜しくない。


 正直は端末をコクピットのディスプレイに置き、ハンドレス通話機能を起動させた。



『なかなか賑わっているではないか』



 聞こえて来たのは、渋味ダンディズム溢れる、男の声だ。


 正直はK.M.Xの上半身を一瞬で斬り飛ばし、アルカイックな微笑を浮かべる。



「これはこれは、先生」

『お前のルリアリウムの波動が衛星軌道上こちらからでも観測出来る。流石は我輩の教え子の中でも随一の優等生よ』

「先生は優等生よりも問題児の方がお好きだったでしょう?マリちゃんやフミちゃんみたいな」



 正直は、微笑をやや意地悪なものに変えつつ、囲む五騎のK.M.Xの四肢を纏めて斬り落とし、達磨に変えた。


 通話の相手は『ハハハ……』と愉快げに笑った、後に――



『マサナオ、我輩の願いを聞いてくれて、感謝する』

「感謝される云われは無いですよ。確かに面白そうだ……そう思って賛同しただけのことです……」



 正直に恐れをなして、背中を向けて逃げ出そうとしたK.M.X 数騎……。



「僕は親として師としての責任はあるつもりですが、大人になったつもりはありません」



 正直は微笑のまま、その背中に剣風を当て、その尽くを衝撃波のみで粉砕した。



「遊べるというのなら、とことん遊びますよ?僕は」

『遊びも親の務めである……。共にあそぼうではないか』

「…………」

『……シェーレを迎えを寄越そう。適当な所で切り上げるが良い。お前の専用騎オモチャも用意してある』

「量産型が良いなぁ。出来たら、現行騎よりも古いタイプで!」

『……それでは若者たちに示しが付かんだろうが!』



 通話の相手は再び笑う。


 正直も笑う。


 楽しくて、楽しみで仕方がないからだ。


 子どもたちと、強くなった子どもたちと、あそべる日が……!



『待っておるぞ、今夜は共に酒を交わし語ろうではないか』

「喜んで御伴しますよ。先生」



 正直は通話を終えると、エムレイガのディスプレイを操作する。


 後は、綺麗に後片付けをするだけ……。


 暗証番号を、何度も、何度も、正直は嬉々とした笑顔で入力して――




「自爆装置……起動!」




 続く

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