颯爽!旅館経営者





『時緒くん!時緒くん!!』



 スピーカーから聞こえる、真琴の久しい声に、時緒の胸は踊った。



『うぴゃ~~っ!トキオゆ~~ん!!』

『トキオ兄ちゃ~~ん!!』



 ティセリア、修二の声も聞こえる。


 もっと声が聴きたい。真琴たちの声が聴きたい。


 皆は元気にしているだろうか?


 母さんは?伊織や律、イナ特の人たち、シーヴァンさんたちは?


 は?


 話がしたい……。


 ……だが!



「邪魔をして……っ!」



 新たな敵意を感じ取り、次いでレーダーのアラームが鳴って、時緒は……エクスレイガは光刃を構えた。



『奴らを破壊しろ!』

『青木長官からの勅令!倒した者には賞給ボーナスが出るぞっ!!』

『うおおっ!やってやる……ってやるぞっ!!』



 ライフルに変形させた簡易ディゾルバーやビームナイフを構えた駐留部隊のK.M.X群が、川桁駅前のアスファルトを不遜に蹴り飛ばし、我先に、エクスレイガ単騎に襲い掛かる。


 仲間を多数撃破されて尚、凄まじい気迫だ。



「うぅぇっ!?超!大盤振る舞いにゃっ!!」



 狼狽えて、コクピットシートを揺らす佳奈美に、時緒は「分かってる!」と頷いた。



 三位一体のフォーメーションで斬り掛かろうとしたK.M.Xたちを、エクスレイガは三騎纏めて、横薙ぎに斬り卸す。


 背後に回り込み、羽交い締めにしようとしたK.M.Xのバイザーフェイスにエクスレイガは裏拳を叩き込んで、頭部ユニットそのものを粉砕する。


 戦闘力能力を喪失した、樋田のパッチワークを狙ったK.M.Xに、エクスレイガは跳躍。シーヴァンと伊織のコラボレーション直伝、回転回し蹴りで、その胴体を真っ二つに割る。



 !!!!!!!!



 爆発、爆発、爆発!斬敗したK.M.Xが次々と爆発!


 敵意が情けない後悔へと変わり、川桁駅前に炎の花が咲き乱れた。


 しかし、K.M.X群は次から次へと接近する。砂糖に群がる蟻の様相だ。


 どれだけ居るのか、駐留部隊。



「嫌な渡世だ!もっと纏めて掛かって来い!!」

「コイツら全員、猪苗代で無銭飲食してたアホンダラにゃあ!!」



 躯体各所から、強制冷却の蒸気を噴いて、エクスレイガが吼える。



 ――大竹さんたちに救って貰った身体!命!今こそ!!



 此処には真琴たちがいる。必ず守って見せる!


 光を失った瞳を闘志で滾らせ、時緒は不退転の覚悟を決める。



『『ボ、賞給ボーナスゥゥゥゥゥゥッッ!!』』



 金に目が眩んだ兵士たちの、彼らが操るK.M.X群の波濤が、エクスレイガを飲み込んで――





『いやいや、これは驚いた』

『あらやだ時緒ちゃん。鬼かと思ったわ』





 不意に、男女の声が、時緒の鼓膜を撫でる。



「この声は……まさかーー!?」



 聞き覚えのある、いや、忘れることの出来ない、声……。



『『ボーナ……ぎゃ――――!?…………』』



 瞬間、エクスレイガと克ち合おうとしていたK.M.Xが、バラバラと砕け散った。


 咄嗟のことに、誰もが気付き遅れる。


 真琴たちは勿論、兵士たちも、気配をいち早く察した時緒ですらも。


 その速さに、遅れた。


 猪苗代駅方面から磐越西線伝いに低空飛行でやって来た二騎のエムレイガが、K.M.X群を纏めて細かく斬り崩したのだ。


 一瞬の、うちに!



 一騎は、マニピュレーターから伸びる、光る鋼線ワイヤーで。



 そして、もう一騎は、エクスレイガの直刀ブレードよりも長く、優美な曲線を描く、光の日本刀サムライソードで――!



『助けるつもりで来たんだけど、ねえ?正直ナオさん?』

『どうやら余計なお世話だったみたいだ、ねえ?文子フミちゃん?』



 !!!!!!!!




 その、二騎のエムレイガは、敵群の爆発を背景にしてクルリと月面宙返りムーンサルトをして、エクスレイガの傍らに降り立つ。


 先刻の声!この、清みきった気迫!


 時緒は吃驚して、



「文子おばさん!……師匠ッ!!」



 エクスレイガは、即座に膝をついた。



 ※



 颯爽と現れた、二騎のエムレイガ。


 二騎とも左肩には平沢庵の家紋が冠され、右肩には平沢庵の電話番号とホームページのアドレス、SNSのアカウントまで印してある。


 その、コクピットなかで――



『中々様になってるじゃないか、時緒』

『待ってたわよん!』



 和服のままの正直と文子が、至極愉快げに、笑っていた。





 ※※※※




「す、凄い……!」



 アイズネクストの艦橋で、大竹は意図せず声を昂らせた。


 エクスレイガを助けに現れた、二騎のエムレイガ、その……圧倒的な戦闘力!


 四十騎近いK.M.X群を、瞬きの間で屠ってしまう、そのスピード!そのパワー!


 エクスレイガも凄かったが……あの二騎のエムレイガは……更に強い!


 あれが、神宮寺艦長が言っていた、猪苗代最強の助っ人なのか。


 一体、誰が――?



 大竹が問おうとした時、アイズネクストの船体がガクリと揺れた。


 僅かだが、身体が引っ張られる、慣性を感じる。


 アイズネクストが動いている。



「大竹君、あと、渡辺君と言ったね?」



 喜八郎は菊花紋章が冠された艦長帽を正して、笑った。



「席が空いているだろう?そこに座って見学して行きなさい」



 すると、喜八郎は通信機を手に、声高に宣った。



「アイズネクスト全乗組員に告ぐ、納豆にはめんつゆわさび派の神宮寺だ。これより本艦は敵戦艦との戦闘に突入する!このまま微速前進!副砲1番から3番……撃ちい方!」



 喜八郎の命に、伊織が操舵輪を引き、律がトリガーを引く。



 大竹と渡辺は慌てて、空いているオペレート席に座り、シートベルトを締めた。



 大竹の隣には、薫の夫の嘉男が座っていて、申し訳なさそうな顔で大竹に目を遣った。



「うちの薫ちゃんがすみません……。悪気は無いんですよ」



 つい、好奇心で、大竹は先刻薫が言っていたことを、嘉男に問いてみた。



「ビーエルって何?」



 大竹の視界を、鋭い閃光が白に染める。


 アイズネクストの副砲が、ルリアリウムエネルギーの粒子ビームを放ち、松風の横腹を灼いた。


 猪苗代上空にて、二隻の空中戦艦による戦闘が始まる。



「……えっとですね」



 戦いの中、嘉男は大竹に、BL《ボーイズラブ》とは何たるかを、丁寧に教えてくれた。



「……………………」



 聞かなきゃ良かった。


 先ほどの女性は、自分と渡辺をそんな目で見ていたのだ。


 大竹は、心底後悔した。



「……悪気は無いんです」

「…………」





 ※※※※





『ボーナス……』

『ボーナスだ……!』

『金ヅルだぁ……!!』



 敵意は、未だ消えない。


 駐留部隊のK.M.Xは、未だ未だごちゃまんと迫り来ている。


 しかし、時緒の意志は挫けない。


 真琴たちが見守ってくれる上、正直や文子まで来てくれたのだ!



「師匠!文子おばさん!征きましょう!!」



 エクスレイガは張り切って光刃ブレードを構える。


 しかし……。



『時緒、君たちはあのアイズネクストフネに乗って行くんだ』

『時緒ちゃんの決戦ステージ猪苗代ここじゃないわ』



 正直と文子の乗るエムレイガの手が、エクスレイガの両手に添えられ、ゆっくりと刃を下ろさせた。




『ここは、僕に任せて。君の仲間が、君を待ってる』

「師匠……?」





 続く



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