不理解言語の敵意
「ティセリアちゃんホント困るって!危ないから降りてよ!」
エクスレイガのコクピットに潜り込んだ時緒は、シートに畳んで置いてあったパイロットスーツに素早く着替える。
自分に付いて来てしまったティセリアをたしなめつつ……。
「イヤなのョ〜〜!」
「危ないから!降りてっ!!」
「イヤイヤなのョ〜〜!!」
しかし、水着姿のティセリアはシートの後ろにまるでユーカリのコアラの如くしがみ付きながら、激しく首を振って拒否の態度を取った。
こうなったらティセリアは梃子でも動かない。
「シェーレにものもうすのョッ!せっかくの|
ティセリアは唇を噛み締め、心底悔しそうな顔をして時緒を睨んだ。
時緒はこのティセリアの言葉で初めて、あのロブスターめいたルーリアメカのパイロットが《シェーレ》という名である事を知る。
「トキオ〜!わしゃぁしょーがいわすれんゅ!わしに
……と、ティセリアは先日真理子や麻生と観た任侠映画の真似をしながら、時緒に向かって頭を下げた……。
大好きな映画の台詞を言われ、子どもに頭まで下げられたら、時緒も流石に無下には出来ない。
「はぁ…………」
時緒はシート下のタンデムボックスから非常用のライフジャケットを取り出し、ティセリアに渡した。
「それ着て、僕は結構乗り方が荒いからね!?」
「うゅっ!」
仕方ない、ティセリアを乗せたまま戦おう。
シーヴァンとリースンには全て終わってから怒られよう。
時緒はそう思いながら、ライフジャケットのゴワゴワとした着心地の悪さに渋い顔をするティセリアの身体にベルトを巻いて、シートに固定する。
「トキオッ!前ッ!まえ〜〜ッ!!」
シートの後ろを見ていた時緒の耳朶をティセリアの叫びが打った。
時緒が言われた通りに振り向くと……。
コクピットスクリーンいっぱいに、《レガーラ》の
「げ……っ!?」
時緒は飛び込むようにシートに座ると、自らのルリアリウムを操縦桿に嵌め込み……集中!
精神力がエネルギーに変換され、瞬時にマッスル・パッケージに流れ込み、エクスレイガに光を付与する。
「ティセリアちゃん!掴まって歯を食い縛れ!!」
「うぎっ!!」
次の瞬間、強烈なGが時緒とティセリアの身体を襲った。
「うびゅぅぅぅぅ!?」ティセリアが悲鳴をあげる。
イカロス・ユニットを含む、全てのスラスターを全開にしてエクスレイガは仰向けのまま
先程までエクスレイガが存在していた空間を、レガーラの巨大な
衝撃波と共に土埃が高く舞う。
時緒とティセリアは二人揃って顔面を蒼白にした。
もし、あと数秒発進が遅れていたら、エクスレイガの躯体は
恐怖をなんとか振り払い、時緒は……エクスレイガは体勢を整えて松林を抜けて上空へと舞い上がり、
「で……でかい……!」
「メーコのおシリみたいにでかいうゅ……!」
ティセリアの感想に時緒は頷き、激しく同意する。
こうして対峙してみて、時緒は改めてレガーラの巨体を目の当たりにした。
猪苗代の空に浮く、ロブスターめいた異様のレガーラは、ボディーだけでもエクスレイガの五倍近い。目測でおよそ六〇メートル、
巨体が与える威圧感とは別に、何やら刺々しい気迫を、ルリアリウムを通して感じ取った時緒は、背中を冷や汗で滲ませ、生唾をごくりと飲んだ。
何だ……?この危険な気迫は……?
これは……敵意?
時緒は気を取り直し、シーヴァン達に習ったルーリア騎士の礼儀、開戦前の口上を宣おうとした。
「せ、正々堂々とした戦いを……どうか宜しくお願いしま……」
だが、時緒の口上は最後まで紡がれなかった。
「な……っ!?」
レガーラの粒子ビームが再び放たれ、エクスレイガ目掛け空を奔る。
エクスレイガは瞬時に身を仰け反らせ、何とか回避に成功。
しかし……。
口上を、戦いの誓いを拒絶された?感受性豊かな時緒は些かショックを受けた。
イカロス・ユニットからルリアリウム・エネルギーの力場を発生させて、エクスレイガは立体的な機動で空を舞い、レガーラとの間合いを計る。
その直ぐ背後を、レガーラの本体から切り離された
時緒は驚愕した。
「ティセリアちゃん!大丈夫!?」
「き、きにせずやっちゃってうゅ〜〜!!」
半ば目を回しているティセリアの了承を得て、時緒はエクスレイガを更に加速する。次いで、得物のルリアリウム・ブレードを抜刀。
左右二基の
一瞬でも気を抜けば……
一基目の
ふらふらと
「今だっ!」
「うゅっ!!」
イカロス・ユニット全開!エクスレイガは回避行動を加えたジグザグ飛行、空を狂い舞う韋駄天となってレガーラに肉薄。
一瞬、エクスレイガの掌が、レガーラの装甲に触れた……。
『%*☆¥#○○¥€%ーー!!』
接触回線。理解不能な言語のーー少女の叫びが、エクスレイガのコクピットに響き渡った。
何を言っているか、時緒にはさっぱり分からないが……。
この声、この声色は……悲鳴ではなく、怒号に聞こえる。
そして、やはり感じる、この刺々しい気迫。
これは……!
「な、なんで……!?」
時緒は理解不能な戦慄を覚えざるを得なかった。
相手のパイロットは、堂々とした戦いを望んでいない……!?
彼女は、何故僕を……エクスレイガを恨んでいる……!?
「いまうゅっ!シェーレッ!!」
その時、ティセリアが焦燥の顔で腕輪型の通信機を操作し、叫んだ。
「☆→$€!$%°%#¥€!!」
今のティセリアの叫びも、時緒には理解不能な言語だった。
続く
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