貴様が憎い
一年前、ルーリア本星ーー。
「これが……私の……!専用の
歓喜と興奮に、シェーレは息を飲んだ。
鮮やかな紅に、自分の尾鰭と同じ色に彩られた巨大な騎体が、作業ケーブルに繋がれてルーリア皇宮の
「これが貴女の専用騎。騎体名は《レガーラ》。貴女の母星……惑星アビリスの言葉で《無垢》」
シェーレの傍で、愛しの君メイアリアが優しく微笑み、シェーレと同様にレガーラを見上げる。
「メイ……!君が
メイアリアが頷くのと、シェーレがメイアリアの身体を抱き締めたのは、ほぼ同時の事だった。
「旧アビリス軍の騎動戦艦をベースモデルにルリアリウム・レヴを組み込んで造らせた最新鋭騎よ。騎体内には標準サイズの
もう、メイアリアの説明をシェーレは聞いていなかった。
ただ、レガーラを駆って……メイアリアと共に清廉な風となって戦場を駆ける事だけを夢見ていた……。
ずっと、ずっと……愛するメイアリアと共にいる。彼女の騎士として……友として……!
メイアリアと、未来を創るのだ……!
「メイ……!私の……私だけの可愛いメイ!私は……君にふさわしい騎士になって見せる!」
****
《レガーラ》
愛しいメイアリアが銘付けてくれたプレゼント。
大切な大切な、メイアリアとの絆。
そんなレガーラの装甲に……。
汚らわしいエクスレイガが……汚らわしい地球人が張り付いている……!
生理的嫌悪感にシェーレの肌は粟立ち、怒りに理性が白く灼けて霞んだ。
「私とメイのレガーラに……
レガーラは、回収し終えた
自身と同サイズの
『シェーレ!いましゅぐやめるのョぐへぇぇぇっ!!』
……一瞬、メイアリアの妹ティセリアの声が聞こえた気がしたが。
しかし、シェーレは怒りで余計な雑念を消し払い、エクスレイガに更なる追随を仕掛ける……!
「エクスレイガ……!潰す……潰す……潰す潰す潰す潰す……!磨り潰してやるゥゥゥアッッ!!!!」
レガーラの装甲を、愛しいメイアリアの施しを汚した罰は……銀河の如何なる極刑よりも遥かに重い!
「キュービルッ!」
シェーレの号令と共にレガーラの胴体側部のハッチが開き、内部に艦載されていた
逃がさない、逃がすものかよ!
「野蛮な地球人が建造したエクスレイガ……!その罪深い存在……この銀河から消滅させてやる!」
暗く淀んだ加虐心に、シェーレは嗤いながら奥歯をガチガチと鳴らした。
****
「ぐ……っ!」
背骨が折れ砕けそうな衝撃に歯を食いしばり、時緒は何とかエクスレイガの体勢を立て直すことに成功する。
途端、敵騎増援のアラームと、
「うわ〜〜ん!痛いゅ〜〜!痛いゅ〜〜!!」
ティセリアの泣き声が時緒の左右の鼓膜を忙しなく叩いた。
「ティセリアちゃん!大丈夫!?」
「ぐしゅっ……!シェーレにパンチされておクチ噛んだゅ〜!痛いのョ〜!!」
「ごめん!もう少し我慢して!……っ!」
泣きじゃくるティセリアをなんとか宥めつつ、更に激しく鳴るアラームに時緒は目を見張った。
レガーラと同じ紅に彩られた
それだけではない。
エクスレイガが重く感じる。
時緒はコクピットのディスプレイを操作して騎体の状況を調べる。
先程のレガーラの攻撃でイカロス・ユニットに不備が発生していた。スラスター二基、ルリアリウム・コンデンサ三基破損。エネルギー循環効率四十パーセント低下。
先行のスターフィッシュ二騎をブレードの袈裟掛けで葬り去り、三騎目を鋼鉄のパンチで殴り砕きながら、時緒は必死に思考を巡らせる。
考えろ、考えろ!考えつつも感じろ!
この戦いの、攻略法を!
追い付いたレガーラの、巨体故の威圧感が時緒の思考を圧迫する。
しかし、時緒は諦めない。
勝つことは勿論大事である……。
しかし、それだけでは駄目だ。
あのレガーラのパイロットとも、どうにかして理解し合いたい。
何故エクスレイガを憎んでいるか教えて欲しい。
レガーラのパイロットにも、ティセリア達同様に猪苗代を楽しんで欲しい!
時緒は心の底からそう思いながら、八騎全てのスターフィッシュを斬り伏せ、蹴り砕き、
****
「お嬢……!」
「芽依子ねえちゃん!」
芽依子を探していた正文と修二の兄弟はやっと、松林の中で上空の戦闘を見守っていた芽依子を発見した。
「時の字は随分手こずっているようだ……」
「時緒にいちゃん、勝てるかなぁ?」
正文と修二が尋ねるが、芽依子は応答しない。
「…………」
芽依子は黙って、憤怒の眼差しで、空で戦うエクスレイガ、そしてレガーラの戦闘の軌跡を目で追うばかりだった……。
「お嬢……?」
変だ。正文は訝しみながら芽依子を見遣る。
場の空気を読まない、たとえ読んだとしても読まない振りをする正文も、流石に芽依子が放つ怒りの気迫を無視することは出来なかった。
やがて、轟音と共にレガーラがエクスレイガを弾き飛ばした時ーー。
「……正文さん」
いきなり肝まで冷えるような寒々しい声で、芽依子がそっと名を呼ぶものだから、正文は少々面食らってしまった。
「少しこの場から席を外します……。すみませんが……真琴たちに宜しく伝えておいてください……」
「芽依子ねえちゃん?どこか行っちゃうの?」
寂しそうに尋ねる修二の頭を優しく撫で、芽依子は苦笑した。
「御免なさい修二くん、やらなくてはいけないことが出来てしまいました……」
修二に謝ると、芽依子は笑みを消し、再び能面めいた怒りの表情を、何時もは淑やかに微笑んでいたその顔に貼り付ける。
芽依子が何を考えているか、正文はてんで分からなかったが……取り敢えず頷いては見せた。
「分かった。皆には上手く伝えておこう……」
「宜しく……お願いします」
頷く正文に頭を下げ、芽依子は正文の直ぐ横を足早に通り過ぎていく……。
「あの
まるで、絞り出すような小声で呟かれた芽依子の憎悪の言葉を、正文は聞き逃さなかった……。
続く
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