何としても勝て!



『なんだアレ?』

『なんだアレ!?』

『ルーリアのビックリドッキリメカだ!!』

『なんか美味そう!!』

『ハニー!今日の晩飯はエビフライにしようぜ!?』

『あら良いじゃなあ〜い!!』




 レガーラの高性能マイクが猪苗代町民ギャラリー感想こえを捉え、操縦室内に騒がしく響き渡らせた。


 翻訳機を切っているので、地球の言葉が理解出来ないーー理解したくもないシェーレは一層苛々とした。



「……地球人サルどもが……ッ!!」



 未だにエクスレイガが姿を見せない事が、ただでさえ短気なシェーレの苛立ちに、更に拍車をかける。


 地球の、猪苗代のありとあらゆる物が、シェーレには自分とメイアリアを邪魔する害悪に見えて仕方が無かった。



「………………」



 操縦桿を握り締めるシェーレの手に力がこもる。操縦桿に嵌められた琥珀色のルリアリウムが、シェーレの怒りの精神力を吸い取って激しく輝き、超エネルギーへと変貌させた。


 猪苗代湖へ、その周りに集まる野次馬達にレガーラの巨大なクローが向けられる。


 クローが上下に展開、露出する砲口に高濃度のルリアリウム・エネルギーが充填……。



「低俗な地球人ども……驚かせてやる……!」



 シェーレは、鬱憤晴らしに湖水浴客たちへ砲撃を敢行しようとした。


 勿論、直撃を食らっても地球人たちは傷一つ付かない。しかし、彼らは馬鹿らしく慌てふためき逃げ惑うだろう……。



 シェーレは加虐者の悦楽が満載された笑みを浮かた。さぁ、先ずは一撃をーー



「……!?」



 突如レガーラのレーダーが敵騎接近を報せ、シェーレははっと顔を上げた。



 シェーレの視界の真正面、一際大きな山と山の稜線の間から、何かが高速で飛んで来る。



 あれは……ヒトのシルエット!



 白と青に彩られた躯体。大きく出張った無骨な肩部。二本角を携えた頭部。相手に睨みを効かせる鋭い双眸。


 間違いない……!あれこそ……あれぞ憎き……!



「エクスレイガァァーーーーッ!!」



 ルーリアの仕来りである開戦の口上をあげず、シェーレは怒りの叫びとともに湖水浴客達に向けていた砲口をエクスレイガへと向けた。


 エクスレイガの機動はいやに単調だ。


 舐めているのか?


 だが……堕とすなら……今!



「消え失せろーーーーッ!!」



 ゴウッッ!!



 強烈な炸裂音と共に、猪苗代が閃光に包まれたーー。


 野次馬の湖水浴客達は皆、あまりの眩さにひっくり返った。


 レガーラの砲口から放たれた極太の粒子ビームが猪苗代の空を灼いて奔る。その穂先は蛇の頭のようにうねって牙を剥き、エクスレイガを一飲みにしてやろうと粒子の顎門あぎとを開いた。



 だが、間一髪のところでエクスレイガは急降下、レガーラのビームを回避した。


 いや。


 避けたというより、空中でたまたま体勢を崩し、そのまま湖畔の松林に落着した……それだけだった。




 ****




「お……!」



 時緒は緩んでいた海パンの紐を結び直しながら、松林へ落着したエクスレイガを眺めた。


 取り敢えず、紐を結び直してからエクスレイガの下へと向かおうと思っていたのだが……。



「せいっ!」



 急に芽依子が時緒を持ち上げ、再び全速力で走り出した。


 まだ時緒は紐を結び終えていないのに……!



「芽依姉さん、紐!紐!紐ぉぉぉぉぉ!!」

「あら時緒くんおトイレですか?え?何なに?『一人じゃ心細いから付き合って』?しょうがないですねぇ!お姉ちゃんが付き合ってあげましょうっっ!!」



 芽依子は汗だく必死の形相で、半分尻を露出させた状態の時緒を抱え上げて、松林の彼方へと走り去って行った……。



「やだ……。時緒さんたら良い歳して……」



 時緒とエクスレイガの関係をまだ知らない珠美は、しばらく時緒と芽依子が消えていった方角を呆れた眼差しで見ていたが、ふと、視線を自分の周囲に戻し「あれっ!?」と、素っ頓狂な声をあげた。



「ティセリアちゃんがいない!!」



「「えっ!?」」シーヴァンとリースンが異口同音に驚いて周囲を見渡す。



 本当だ、いない。


 さっきまでシーヴァンの傍でうゅうゅ言っていたティセリアが、いない。



 伊織やコーコ、律にカウナ、佳奈美とラヴィー、正文と修二も周囲を探したが、ティセリアの姿は何処にも無かった。



「…………」



 ゆきえだけが松林の彼方を見つめて、ただ独り、納得したように頷いていた。




 ****




「姉さん!?何か様子が変だけど!?」

「……っ!」

「姉さん?どうしたのよ!?」



 時緒の質問に応える事無く、焦燥の芽依子は時緒を連れて走り、遂にエクスレイガの下へと辿り着く。


 立体的な空中機動を可能にする《イカロス・ユニット》を腰に装着したエクスレイガが、両腕を其々左右の松の木に引っ掛け、情けなくぶら下がっていた。


 



「時緒くん、!」

「へ!?」



 驚く時緒の肩を掴み、瞳をじっと見つめて、芽依子は、時緒へ言って聞かせる。



「今回の相手は……きっと……シーヴァンさん達とは違う……多分、苦戦すると思います……!」

「姉さん……僕は今までも苦戦続きだったと思う……」

「今回は更に更に苦戦します。だって……あの騎体は……あの騎体には……」

「姉さ……」

「時間がありません!」



 驚いた表情のままの時緒を、芽依子は開いたエクスレイガのコクピット目掛けて放り投げる。



「時緒くん!気をしっかり持って!相手の気迫に流されないで……!」

「……何かよく分からないけど……取り敢えず分かった!」



 両手で丸を作って、時緒は笑い頷きながら宙を舞った。



「……あっ!?」



 まさか……!芽依子は驚いて顔を引きつらせた。


 焦っていた所為で、今まで気が付かなかった。



「うゅゆ〜〜ん……!」



 エクスレイガのコクピットへと消えていく時緒の足に、のだ。




 続く

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