第22話

陸への恐怖は思ったよりも大きなものになった。



それならきっと、あたしへの損失も大きくなっているはずだ。



「でも、復讐する相手は沢山いるんだよ?」



「4人全員ってことでしょう? わかってるよ。だからこそ慎重にならなきゃ」



一気に復讐したい気持ちもわかるけれど、それだと途中で感づかれてしまうかもしれない。



あくまでも自然に、周りに気がつかれないようにやらなきゃいけない。



「そうかもしれないけど……」



夢はやっぱり不服そうな顔をしている。



「あたしがアプリを持ってればなぁ」



と、小さな声で呟くのが聞こえてきた。



自分がアプリを持っていれば、きっとあたしの気持ちがわかるはずだ。



そう思ったが、口には出さないでおいた。



「ごめん、ちょっとトイレ」



そう言い、あたしは教室を出たのだった。


☆☆☆


トイレで用事をすませて出てくると、やけに大きなダンボールを3つも抱えた男子生徒がこちらへ向けて歩いてきていた。



他のクラスの生徒みたいだけれど、ダンボールのせいで顔も体もほとんど隠れてしまっている。



あたしは邪魔にならないように廊下の端に身をよけた。



男子生徒は右に左によろけながらどんどん近付いてくる。



一旦トイレに戻ってやり過ごそうか。



そう思って体を反転させてみると数人の女子生徒たちがトイレの前でおしゃべりをしていた。



その場をどけるつもりはないようで、大きな笑い声が響いている。



「ねぇ、ちょっとよけてくれない」



仕方なく、男子生徒に声をかけた。



しかし、その声は聞こえないようで男子はどんどん近付いてくる。



「ねぇってば!」



大きな声を出すとトイレの前の女子たちが気がついて視線を向けてきた。



それなのに、男子は気がつかない。


なんなの……?



怪訝に思いながらぶつからないように後退した時だった。



男子生徒が持っていたダンボールがグラリと揺れた。



あっと思った時にはあたしの真横に3つのダンボールが積み重なって落下していたのだ。



ダンボールが落下した風圧で前髪が揺れる。



中には沢山の教材が入っていたようで落ちた瞬間重たい音が聞こえてきた。



「あ、ごめん」



ダンボールを落としたことでようやくあたしに存在に気がついたのか、男子生徒が目を丸くしている。



あたしはその場から動くことができなかった。



ぶつかることはなかったけれど、鼻先をかすめた3つのダンボール。



もしこれがぶつかっていたらどうなっただろう?



考えるとスッと血の気が引いて行くのを感じた。



これだけの教材が入っていたのだからただじゃ済まされなかっただろう。



中にはビーカーなどのガラスでできたものも含まれていて、落下した衝撃でダンボールから取び出して割れてしまっている。



「靖子!?」



音を聞いて教室から出てきた夢がこの状況に目を丸くしている。



あたしはゴクリと唾を飲み込んだ。



まさか、これが損失だったんじゃないか?



そう考えた時だった。



あたしの考えを見透かしたかのようにスマホが震えたのだ。

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