第20話
「あははっ! すぐ落ち込んじゃってかわいそー!」
愛子は甲高い笑い声を上げるから、耳が痛くなりそうだった。
愛子の声は一体どこから出てくるのだろうと、いつも感じさせるものだった。
そんな笑い声が伝染していくように、教室のあちこちから笑い声が聞こえてくる。
「こんなに笑われるくらいなら、一生笑わずに生きていった方がいいんじゃないの?」
そんなことを言いながらも、愛子は必死で美紀の様子をうかがっているのがわかった。
ここまでして美紀の腰ぎんちゃくになってなにが楽しいのだろう。
イジメられているのはあたしと夢に見えるかもしれないけれど、狭い世界で生きているのは愛子の方だ。
「愛子その辺にしてあげなよ。2人とも泣いちゃうでしょ」
美紀がそう言って愛子を止めたので、愛子がホッとするのが見てとれた。
美紀の機嫌を取るのも大変みたいだ。
「じゃ、また後でね2人とも」
美紀はそう言うと満足した表情で自分の席へと戻って行ったのだった。
☆☆☆
それからあたしと夢は陸に注目して授業を受けていた。
いつ、どんなタイミングでアプリに入力したことが実行されうのか、ドキドキする。
「次は移動教室だね」
休憩時間になり、夢が化学の教科書やノートを持って近づいてきた。
「そうだね」
返事をしながら準備をして立ちあがる。
今のところ陸に変化はない。
どこに行ったのか、休憩時間に入るとすぐに教室から出て行ってしまった。
せっかくだから目の前で陸が痛がる顔を拝みたいけれど、うまくいくかどうかまだわからない状態だった。
でも、教室でモタモタしていてはまた美紀たちに絡まれてしまう。
あたしたちはできるだけ集団の中に溶け込んで行動をしなければならないのだ。
あたしと夢はそそくさと教室を後にしたのだった。
そして化学室。
授業の準備を終えてあと1分ほどで授業が始まるというときだった。
美紀たちが重役出勤のようにやってきたかと思ったが、陸の姿がなかった。
あたしは目の端で美紀たちの様子をうかがう。
美紀たちは一番後ろの6人席を4人で使っている。
本当は化学室ではそれぞれ違う班なのだけれど、そんなことは無視して勝手にグループになっていた。
「陸遅くないか?」
そう言ったのは靖だった。
「なんか先輩呼ばれて行ったんだけど、戻ってこないね」
美紀は返事をしながら手鏡で自分の前髪を確認している。
自分の彼氏のことなのに、さして気にしている様子はない。
「先輩って、大丈夫なの?」
愛子が心配そうな顔をしている。
「文句つけられたとしても平気でしょ。陸は強いから」
その言葉通り、美紀は平然とした様子だ。
確かに、陸の筋肉を思い出すと心配はいらないかもしれない。
そうこうしている間に授業開始まで残り30秒ほどになっていた。
陸はサボるつもりだろうか?
そう思った時だった。
廊下から足音が近づいてきて、勢いよく化学室のドアが開かれた。
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