第19話
「わかった」
あたしは大きく頷いたのだった。
☆☆☆
自宅に戻ってきたあたしはさっそく陸の写真をアプリに取り込んだ。
一体どんな恐怖を味わわせてやろうか?
陸にはさんざん痛い目にあわされてきた。
できればそのすべてをお返ししてやりたい気分だ。
でもそれはできない。
さすがにあれだけのことを記入すると、その分損失も大きくなるだろう。
「う~ん、やっぱり難しいなぁ」
あたしは腕組みをして部屋の中を歩き回った。
陸にしてやりたいことは沢山ある。
例えば、あたしがやられたように前髪をわしづかみにして引きずりまわしたい。
思いっきり突き飛ばして怪我をさせたい。
他にもやってやりたいことはあった。
「仕方ない。陸には初めての復讐だし、最初はこんなもんでいいかな」
あたしは呟きながら『学校のドアで指を挟む』とアプリに記入したのだった。
☆☆☆
次の投稿日、2年D組に入るとすぐに夢が駆け寄ってきた。
「何て書いたの?」
あたしの耳元に口を寄せて質問してくる。
「学校のドアで指を挟むって書いたよ」
説明すると、夢は一瞬にしてつまらなさそうな顔になってしまった。
「たったそれだけ?」
「だって、陸には最初の復讐だよ? これからエスカレートさせていけばいいじゃん」
そう言うと、夢はしぶしぶと言った様子で頷いた。
夢からすればさっさとひどい復讐をしてしまいたいのだろう。
あたしも同じ気持ちだけれど、やはり損失が怖くて簡単にはいかない。
これから徐々にエスカレートさせていって、損失がどんなものなのか見極めていく必要があった。
「今日は陸に注目しておくといいよ」
あたしはそっと夢に伝えた。
せっかく復讐ができても、自分たちの目の前で行われないと面白くない。
だからわざわざ『学校で』と記入したのだ。
そのことに気がついた夢が口角を上げる。
いつも大きな顔をしている陸の痛がる姿が見れるなんて、相当レアなはずだ。
今からワクワクしてきてしまう。
「なにニヤニヤしてんの? キモイんだけど」
あたしたちの気分をそぐようなことを言ってきたのは美紀だった。
いつの間に登校してきていたのか、腕組みをして近づいてくる。
その後ろからは愛子、それに鼻に絆創膏を張った靖が立っていた。
靖の間抜けな顔にまた笑ってしまいそうになり、必死で笑いを押し込めた。
「お前ら2人がニヤニヤしてるとキモイんだよ。なぁ愛子?」
美紀に言われて愛子がすぐに前に出た。
小柄で華奢で、風が吹いたら倒れてしまいそうだ。
しかし、胸を張って「ほんとキモイよねぇ!」と、声を上げる。
まるで、そうすることが自分の役目だと言いたげだ。
「キモイから、2人とももう永遠に笑わないでくれる?」
愛子の言葉にあたしと夢は同時にうつむいた。
でも、落ち込んでいるわけでも傷ついているわけでもない。
そう見せかけているのだ。
愛子はあたしたちの情けない姿を見れば満足なのだから。
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